9話 逃げるが勝ち


 ギルド内が別の意味で騒がしくなっている。あの男嫌いのリズが俺なんぞに話しかけたせいで注目を浴びているのだ。


「お前……」


 スピナーはありえないものでも見るかのような目で俺を見ていた。こいつは何をやらかしたんだ? そんな目を向けている。


 いや、なんもやってねぇよ。俺は首を振って無罪アピールをする。


「リズ、急にどうしたの?」



 どうやらこいつは前触れもなく俺のところへやって来たようだ。そのせいで他のメンバーもこちらへやって来た。

 全員、大集合である。



「なぁ、あの男知ってるか?」


「いや、全然知らねぇ。なんであんな奴が話しかけられてんだ」


 マジでこいつ何やってくれちゃってんの? めっちゃ注目されてんじゃん。



「ーーあんな奴が」


「ーーっちまうか?」


「………」



 あぁ、やばい。ゲロ吐きそうだ。消えたい、逃げ出したい!


 ここはスピナーに助けを求めるしかない! 


(助けて……)


 俺の必殺技、捨てられた子犬の瞳!



 だが、スピナーには効果がなかったようだ。普通に目を逸らされてしまった。

 あいつには人の心がないのか?


「えっと……リズは、その男の人に何か用事でもあったの?」


「別に……ちょっと気になったから話しかけただけ」



 すると、聞き耳を立てていた周りの冒険者が騒がしくなる。


「あんな奴が気になるだと!?」


「嘘だろ!?」



 こいつが喋るたびに周りがざわつく。そして、俺への敵視が止まらない。

 もう本当に勘弁してください。お菓子あげるんで、なんなら土下座するので本当に勘弁してください。


 スピナーさん。ほんと助けてください。


「………」


 ふいっとまた目を逸らされてしまう。どうやら俺に救いはないらしい。


 も、もう駄目だ(過呼吸)


 なんでも良いからここから立ち去ろう。


「ちょ、ちょっと体調悪いので、失礼しまーす」


 俺は見向きもせずに剥ぎ取った依頼書を握りしめて、ギルドの外へ出た。






「……今日はいい天気だ」


 逃げるように街を出た俺は草をむしっている。俺が拾ったのは薬草の採取だった。


 ふっ、まさかこの俺が駆け出しがやる依頼をするとは。

 まぁいい。ポジティブに考えよう。これなら確実に依頼は達成できるのだ。



「貴方、駆け出しなの?」


「ちげーよ。どっかの誰かのせいで適当に持って……き……た」


 振り向くと、そこにはリズがいた。


「………」



 ーーあれ、幻覚かな? 


 いや、幻覚に決まってる。そうだよ、こんなところにいるわけがない。


「何してるの?」


 目を擦ってみるが、全然消えない。頬をつねろうとも痛みが伝わってくるだけだ。




 俺はストレスでぶっ倒れた。

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