第19話 サーカスと依頼
数日後。
「おいおい、あれ」
「エルフとドワーフだ」
「例の騒ぎを起こしたってやつらか?」
「というか、あの大剣に巨斧を携えたエルフって山砕きのセイランじゃないか?」
「悪魔狂いじゃなかったか?」
「それより隣のドワーフは何だ? あれ? 魔法使いか?」
「魔術師って噂もあるぜ」
「おいおい冗談にしてはヒエッヒエすぎるぞ」
ヘルム支部冒険者ギルドに入ると、多くの冒険者に注目されました。
「では、配達を頼んできます」
「ああ。面白い依頼があったら受けておく」
「報酬が魔法書のやつにしてくださいよ」
併設された輸送ギルドの受付で、ケダマの使役魔術を記した本の配達を依頼します。送り先は虹色大好き鬼人お爺さんです。
必要事項を書類に記入し、料金を払いました。
「ではお預かりさせていただきます」
「よろしくお願いします」
セイランを探します。いました。依頼書を持っています。
「グフウ、この依頼なんてどうだ?」
「空中ブランコの練習のお手伝い?」
「詳しい内容は直接話すとなっている。たぶん面接があるだろうが、報酬が大きさの変わる針の
「受けましょう!」
受付に持っていきます。
「よ、よろしいのですか? この依頼は確かに高ランク冒険者に出されたものですが、報酬と内容が……」
「塩漬けされているやつだろう? ちょうど暇だし問題ない」
「そういうことなら、ぜひ」
扱いに困っていた依頼らしいです。受注の手続きをしてくださいました。
「あの、お二人はパーティー登録をしていらっしゃらないようですが」
「そういえばしていなかったか。申請はどれくらいかかる?」
「審査なども含めて三日ほど」
「なら、あとで申請しよう。書類をいただけるか?」
「はい」
冒険者ギルドを出て、依頼主のところに向かいます。
「パーティー登録とは?」
「そのままの意味だ。複数の冒険者が固定でチームを組む場合、ギルドにパーティー登録ができるのだ。デメリットはあるが、それ以上に恩恵がある。例えば各々の実力以上のランクの依頼を受けられることだな」
「パーティー単位でランクが設定されるというわけですか」
一人でできる事は限られていますが、各々が役割を分担すれば、そのパーティーは高い実力を発揮できるというわけです。
「あとでパーティー名を決めなきゃな」
「どうして私が貴方とパーティーを組む流れになっているのですか。三ヵ月後には別れるのですよ」
「つれないことをいうな。共にボルボルゼンと戦った仲だろう」
「なに誤魔化そうとしているのですか。私は書類にサインしませんから。勝手に出したらその時点で絶交ですよ」
セイランが肩を組んできたので払いのけます。彼女は舌打ちをしました。
「まぁ、いい。すぐにお前の方からパーティーを組みたいと言わせてみせる」
「頑張ってください」
挑発的に笑うセイラン。肩を竦めました。
依頼書に書かれた地図を頼りに、道を曲がりました。
「おい、だからこっちだ」
「絶対にこっちの方角ですよ」
「方角はあってても道が間違ってるんだ! そっちは行き止まりだぞ。ったく」
少し迷ってたどり着きました。都市の西側にある大きな天幕に覆われたアリーナです。貴族街が近くにあり、周りは大変整備されていました。
「お客さんはいませんね」
「サーカスは大抵午後か夜にやるものだからな。午前中はいない。劇場と一緒だ」
「劇場ってあの演劇を行う場所ですか?」
「見たことないのか?」
「はい。ドワーフやエルフの国では無かったでしょう?」
「そういえばそうだな。じゃあ、今度一緒に見に行くか。ヘルム都市は有名な劇場があるらしいし」
「いえ、それは遠慮して――」
師匠が演劇について話していたこともあり、多少興味はあります。しかし、セイランと共に行くほど強い興味があるわけではありません。
「最近は演技に魔法を取り入れるらしいぞ」
「見ます!」
「よし。予約しておこう」
魔法が使われた演劇が楽しみです。
セイランが天幕の入り口の前で裁縫をしていた
「少しいいか? アタシは冒険者のセイランだ。依頼でやってきたのだが――」
「イト!! 来たぞ!! ようやくお前の夢が叶うぞ!!」
『依頼』という言葉を聞いた瞬間、白髪赤目の少年は兎の耳をピンとたてて顔を輝かせ、大声を出しながら天幕の中に消えていきました。
私もセイランも顔を見合わせ、肩をすくめました。少し待っていると、トランプの帽子を被ったヒューマンの男性がでてきました。
「夜明けのサーカス団のマスター、テジナだ。ユーらがクエストを受けにきた冒険者だな」
「冒険者のセイランだ。戦士をしている」
「冒険者のグフウです。魔術師をしています」
ヒューマンの男性、テジナが手を差し出してきたので、私たちは握手をしました。
「エルフの戦士にドワーフの魔術師とはこれまたレアな……ん? 魔術師だと?」
「それについては気にするな。それより依頼のことなのだが」
セイランが懐から依頼書を取り出して見せます。
「確かに俺が出したクエストのようだな。詳しいストーリーや面接は中でしよう」
天幕の内のアリーナに案内されました。
「大きいですね」
「ああ。高貴なお方がイヤーズアゴーから出資してくださって、ここまでビッグになったのだ。オーディエンスも多く入り、ビッグ盛況だ」
嬉しそうな表情です。それにしても変な口調です。
「だが、ビジーになってしまってな」
テジナが舞台近くを見やります。先ほどの兎人の少年と、紺の髪と瞳を持った犬人の少女がいました。犬人の少女は兎人の少年の手を握って喜んでいました。
「チルドレンらは空中ブランコをウィッシュなのだが、練習には大きなデンジャラスがある。オールウェイズではサムピーポーの大人でサポートするのだが」
「忙しいから、難しいと」
「イェスだ。しかも、空中ブランコ担当のピーポーは飛行のマジックを使えたからノット落下のネットがなくてな」
セイランが首を傾げます。
「素人質問で悪いが、普通は簡単な芸から習得するのではないのか? 空中ブランコは華の芸だろう? 獣人とはいえ、子供。彼らの体はまだ完成していないと思うのだが?」
「……鋭いクエスチョンだな。ユーの言う通りだ。実際、下積みとしてチルドレンらには簡単な芸を練習させている。しかし去年のある日、酒の席でな……」
「酔っぱらって彼らに空中ブランコの練習をさせてあげるとでも言ったのですか?」
「イェス。だが、酔っていたとはいえ嘘はセイできない。ソー、条件を出したのだ。バイしても大したマネーにならない報酬でクエストを出し、セーフティーを確保できるベリーアーム冒険者が受けた場合のみ、練習を許可すると」
テジナはその茶色の瞳を鋭くします。
「さぁ! ユーらの実力をショーしてくれ!」
ということで、セイランはその身体能力、私は多種多様な魔術を見せます。
「あ、アイで追えない速さのキャッチにアクロバティックなムーブ。浮遊のマジックにメニーカラーのマジック。ベリーベリーベリーワンダー……」
呆然とするテジナ。
「オーケー。ユーらの実力はベリーアンダースタンドした。チルドレンらを頼む」
依頼を正式に受注しました。
「おれはハリ!」
「わたしはイトよ!」
兎人の少年、ハリと犬人の少女、イトが自己紹介します。二人は深々と頭を下げます。
「「よろしくお願いします!」」
「こちらこそよろしく。アタシはセイランだ」
「グフウです」
早速、空中ブランコの練習について詳しく聞きます。
「おれたちは座長から一通り指導はうけてるんだ!」
「けど、技……特に二人技になると途端に上手くいかなくて、落ちてばかりなの」
「だから、イトが落ちたら受け止めて欲しいんだ! お願いだ!」
私たちが指導する必要はないようです。
練習時間は午前中だけで、週に三日。依頼の達成条件は注文した落下防止用のネットが届くまで、つまり三ヵ月後までだそうです。
そして一ヵ月が経ちました。
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