第20話 弟の失恋と妹の恋人
夕暮れになるにつれ、アンダーソン家に集まってくる人々によって賑やかな声が聞こえてくる。
リリベットは祖父をリビングまで案内すると懐かしそうにキッチンの方に近い椅子に座って、一人娘である母のことを見守っているのが見えた。
リビングの近くにある庭にも入れるようになっているサンルームへリビングに置いてある机と椅子を運び出している。
そのなかには午後の列車で帰省してきた弟のジェシーは制服のまま準備に参加している。
着替える暇もなく駆り出されてしまったようで、不満を言うと姉と妹から言い返されることは目に見えていることを考えていたという。
「ジェス。お疲れ様~。ありがとう、手伝い」
そう言ってソファに力なく座っているジェシーは疲れているが、少し異なる憂いに満ちているような表情をしている。
そのときに大叔母の夫がこちらを向いて心配そうに話しかけているのが見えた。
ジェシーに関してはかなり落ち込んでいるような表情で、深刻そうにため息をついたりしているようだった。
「どうしたの? 何かあったかい」
「ジーン叔父さん……春の休暇のときに恋人にフラれたんだよ」
「え⁉ フローレンティアの大祝祭のときに?」
その言葉に思わずリリベットと両親は驚きのあまり、彼の方を向いて信じられないような表情をしてしまった。
ジェシーが交際していたのは同い年の幼なじみでリリベットは自身も知っている子だった。
とても仲が良く、最近は将来的なことも視野に入れていたこともあって余計にショックだったらしい。
「うそでしょ?」
「ステファニーって子だよね? 理由は」
「好きない人ができたからってね」
「そうなんだ……仕方ないね。それは」
ジェシーは惚れこんでいた恋人との別れにある程度落ち込んでいるらしく、かなり大変そうな感じがしているなと思っている。
その子はよくよく話を聞いたら彼女は親が決めた年上の男性と婚約して、アエスターシウスの祝祭期間中に挙式を行うという。
親同士が決めた婚姻にジェシーは身を引くことしかできなかったというし、ステファニー自身も商家の一人娘と言うこともあったことで仕方のないことだと話していた。
噂によると相手は五歳上で商家の次男で
彼女のことに楽しそうなことを話していることが大きかった。
「そうか、親御さんの決めた相手と……」
「ああ、正直悔しいけど、仕方のないことだと思うよ。私も同じようなことがあった」
それを語っていたのはアンジェリカの父である大叔父も経験があることが多いと感じている。
大叔父はカリュウ系のコミュニティのなかで交流のあった女性と交際していたが、母国での身分差による周囲の反対によって結婚することはできなかったという。
彼の実家はカリュウ国では文官のなかでも上位につける家柄であったことも大きかったという背景もあったようだった。
現在は十年ほど交際していた大叔母と結婚して、アンジェリカが誕生したのはすぐだったという。
「いつかは好い相手に出会うと思うよ。必ず」
「ありがとう。ジーン叔父さん」
「少しずつ前を向いて行けばいいのよ」
そのときにはアンジェリカは婚約者のイーサンを連れて夕食会にやってきている。
イーサンは黒髪に金に近い琥珀色の瞳をしているが、優しい雰囲気を持った青年であった。
それから大叔母は母と話し合いながら一緒に料理の計画を立てているような感じがしている。
しばらくすると妹のシャーロットは仕事を終えて戻ってきたのだ。
身に着けているのは流行りのデザインのワンピースにサンダルへと履き替えてきたようで、うれしそうな表情を見せて楽しそうに話したりしていることが多い。
「あ、リリー。おかえりなさい」
「ロッティ、隣の方は?」
隣に立つ青年は黒髪に紫色の瞳をしていて小麦色の肌がよく似合っていて、きちんとした服装をしているのである程度働いて長いのかもしれない。
彼は昔から知っている人物でもあったので、少しだけ驚きはあったがホッとした。
「初めまして、アーロン・テイラーです。ユーティリス郵便会社の配達員をしています」
「久しぶりだね、アーロン。姉のリリベットです、ソファにいるのがロッティの兄、わたしの弟でもあるジェシーです」
「お話は聞いています」
そう言って夕食会は十二人のメンバーで乾杯の合図をして、成年のほとんどはアルコールを飲もうという話になっていた。
料理は大人数で食べれるように大きめのミートパイやローストビーフ、サラダが机に彩られている。
「デザートにはフルーツの盛り合わせを近所の方からおすそ分けしてもらったの」
「本当に? 食べよう」
「そうだね」
そして、酒類はほとんど持ち込まれた物がほとんどである。
内訳はアズマとカリュウの酒、赤ワインと白ワイン、シャンパンのボトルが一本ずつだ。
大叔父はカリュウの酒処と言われる地方の有名な酒を持ってきたらしいが、どうもアルコール度数が高いらしい。
それにチャレンジしそうなのは自分がジェシーだと思っているらしい。
恐らく十八歳になってからの失恋でやけ酒をしかねないが、学生寮での飲酒は禁止されていることもあるので帰省したときにする可能性があるはずだ。
「カリュウの酒は度数が高いから気を付けて」
「ありがとう」
「というか、この度数テキーラくらいあるんじゃない? ショットグラス出してくる」
「良いよ」
ジェシーに関しては傷心が全く癒えていない状態なので両親ともに心配しているようだった。
そのなかで食事は進む中でシャーロットの恋人アーロンとジェシーの交友関係についてだった。
机に突っ伏しているジェシーにアーロンはポンポンと肩を叩いているのが見える。
ちなみに彼はジェシーとは初等学校が同じ友人だったこともあって、幼い頃はシャーロットとも交友があったのだが交際に発展したのはつい最近らしい。
お互いに想い合っているような時期なのか、かなり初々しい距離感で微笑ましく感じる。
「まあ。いいんじゃない、俺は反対じゃないよ。アーロンも泣かせたら俺とリリーが容赦しないからね」
「ジェスって薬師の資格取れるの?」
「国家資格の受験資格は取ってるし、卒業の単位もほとんど取得してるし。アーロンは仕事の方は順調なの?」
アーロンは現在ユーティリス郵便会社という老舗の郵便会社で配達員をしているという。
彼が担当しているのは遠方配達で国内の拠点にしている支部への配達などが中心になっているという。
「うん、配達員といっても会社の本社と支部間の配達がメインだけど楽しい。一番遠くで北はコールドグラウンド、西はレッドグラウンド、南はジュネットのテレーズ本部に運ぶ感じだね」
「そっか、その支部で振り分けがあるのね」
「そうだよ」
その間にも食事は進んできてみんなが嬉しそうに微笑んでいるのが見える。
キモノに袖を通している大叔母はみんなを見守りながら、母と笑いながら話をしているのが見える。
そのときにアンジェリカは婚約者のイーサンと話しながら一緒に話したりしている。
リリベットは夕飯を食べてからは楽しそうに話しているようなことが大きい。
その食事会はあっという間にお開きになり、ほろ酔い気分のまま帰宅する彼らを見送ってから待つことにしていたのだ。
しかし、リビングでは机に突っ伏して眠ってしまっている弟に呆れてしまう。
彼は傷心のなかでお酒で中和しようとしていることが多かったので、そのままソファに寝かせてからは自分も部屋に戻ることにした。
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