第4話 義手と整備士
フローレンティアの大祝祭の連休が終わって日常が戻り、学院の学生たちは実家に戻りたいと嘆いている者も少なくはない。
リリベットも同じことを学生時代に同じような気持ちを考えているのがわかった。
通勤している間に学生たちの会話が聞こえてくるのがわかる。
「祝祭が終わっちゃったね」
「それにしても課題ヤバかったよな」
「連休終わっちゃったよ~。もう次は聖ヴァイオレットの祝日じゃない?」
「うん。もう学院に行きたくないな」
「そうだね」
そんなことを聞いて思わず懐かしいと考えて微笑んでしまう。
リリベットが手にしていたのは新しく仕入れた魔法書で、新しく構築できそうな魔法具の基盤に仕えるのではないかと考えている。
そんななかで仕事場である魔法研究所にも似たような雰囲気が漂ってきている。
研究室に入ると似たような感情を持つ職員は多いが、ほとんどは生き生きと研究を始めている。
「あ~~~~、連休で腕が鈍っているな」
「アウローラもそう感じる?」
「もちろんよ。実家の社交界へ出るのはつらかったのに」
そのなかで友人が疲れているのか、ときどき伸びをしたりしているのがわかる。
アウローラは実家に帰省するたびに行われている社交界へ出ているようだが、本人はそれが辛いらしく壁の花となっていたらしい。
その姿を容易に想像できるので苦笑してしまうが、すぐに話しを切り上げて計画書を書きながら話していた。
「やはりわたしはここにいた方が楽だわ」
「ふーん。あ、エリンのお土産あげるよ」
「ありがとう。リリベット」
リリベットが手渡したのは気に入って買っている新しい化粧品だ。
アウローラも好んで使っているのが多いらしく、とても嬉しそうにこちらを見たりしている。
時刻は午前十時を過ぎて、リリベットは持っている魔力と連動して動かすことができる義手の改良に入っていた。
それは
彼女がこれに興味を持っていたことは父の周りにそういった装具をつけている人が多かったからだ。
そのなかで装着して研究に参加してもらっている人と一緒に話す日で、そのなかで一人の若い女性がこちらに手を振っているのが見えた。
「あ、リリベットさん。お久しぶりです」
「サラさん。こんにちは、お久しぶりです。それではお話に移りましょう」
「はい」
彼女は幼いときに事故で左手を失っている。
彼女は手首から先に装着する形の義手を利用しているのだが、右手と同じような動きに近づけるためにしている。
一度動きの正確さなどの相談を聞いてからメモを取りながら話していた。
その後に義手の改善点などを聞いてから再び彼女が持っていた義手を返却せずに使うことにしていたみたいだ。
設計等は行うが、それを組み立てるのは義手の職人たちと一緒に行っているのだ。
「アンダーソンさん。先にお昼食べる?」
「あ、先に行ってください。まだやりたいことがあるので」
「無理はしないでね」
「わかった。お先に行くよ」
先に時間を研究所に行ってからはみんなは笑顔で話したりしていることが多い。
そのときに研究棟の玄関口で何か声が聞こえてくるのがわかって、先ほど食堂へ行こうとしていた研究員が戻ってきたのだ。
「あれ、ルセールさん。どうしたんですか」
「あ、整備士の資格持ってる人いる? 業者さんの車が停まっちゃったみたいで」
「そうなの? アンダーソンさん、整備士持ってたよね」
「あ、はい。工具は車にありますか」
「ある。誰かに頼ってほしいみたいだ」
「わかりました。すぐに行きます」
そのときにリリベットは急いで玄関の方へと向かうと、玄関から少しだけ離れた場所に停車している車に行った。
着替える方が制服も汚れずに済むが、そんな時間がないので急いで走っていくことにした。
魔法工学技師としてここに在籍している研究員もいるのだが、だいたい昼食を取りに行っているみたいだ。
そのときに出入りしている業者の男性が困ったように話していてたが、リリベットの方を見つめていたのだ。
「あ、君が整備士?」
「はい。魔法工学技師と整備士を持っているので。いまの現状を見せていただいても」
「構わないよ」
「そのときなんですが、車の型式がわかれば」
「ああ。確か、これは古めの社用車で」
「やはり、これ初期の型式ですね。魔法蒸気機関で動く最初のエンジンですね。それでは点検から始めますね。他の自走しない原因があるかもしれないので」
「わかりました」
リリベットが積み込まれていた工具を取り出して車の前にあるボンネットを開ける。
開けてみると見た目は違和感がないのだが、煙がある部分を見てからすぐに動かない原因がはっきりしているのがわかった。
「わかりました。これ、かなり酷使してますね。いまから応急処置をしますので、近くの子の整備場へ行ってください」
「そうかもしれない。この車でジュネットのブランシュから来ているので」
ブランシュというのはジュネット南部の海沿いの街で、ここからだとかなり時間がかかることも知られている。
街道でもほとんど車が通れるようになってはいるが、このような型式の古いエンジンを持つものだと難しくなる。
それなら点検されているが、故障しやすくなる確率がとても高くなるのだ。
それを聞いてリリベットが工具の中から魔法石のペンを取り出した。
「それと魔石油が全然足りてないのでそれも同じところでお願いします」
「ああ、わかった。今からお願いしたい」
「はい。それじゃあ、今から」
そのときに制服のまま整備を行うことにしたのだ。
エンジンの点検をしつつ、酷使している場所へ補強をできるように詠唱の文章を綴ったりする。
ある程度の補強などを行ってからはすぐに彼にエンジンをかけてもらい、正常に動いているのかを聞いてみた。
「うん、素晴らしいよ! ありがとう」
「いえ。整備工場があるのは十五番街です。正門を出て右を曲がってまっすぐのところにあります」
「ありがとうございます。これから行きます」
「気を付けて頑張ってください」
それを聞いてリリベットは工具を積み、彼を見送ってすぐに研究棟に戻ることにしたのだ。
研究所の部屋に入ると駆け込んできた職員がこちらを見つめていた。
「お疲れさん。アンダーソンさん、昼食食べてきなさい。今なら空いているから」
「はい。ありがとうございます」
「それにしてもよく整備できたね。知ってたの?」
「はい。長期休暇のときに短期間で近所の整備場で働いていたので。店主の男性に教わって、自分の自動二輪車は整備してます」
時計を見るとあれから一時間ほど経っていて昼食を考えてからリリベットは学食へ行くことにした。
手を洗ってから制服に汚れがないことを確認してから研究棟を出て学院の方へと行くことにした。
そのときに授業開始の鐘が聞こえてきてすぐに昼休みが終わって、これから教室へ移動している姿が多く見受けられる。
しかし、この時間に授業がない学生は高確率で遅めの昼食を取るか、図書館にいることが多いのだ。
そのときに中庭のベンチで二人の学生が話しているのが見えた。
一人は成人女性でリリベットよりも年上に見えて、金茶色の髪を一つに結っている。
隣にいるのは茶髪を下ろしているので未成年の学生がこちらを見ているのがわかる。
そんな光景を見て、たまにあることを見ていたのですぐに学食へ行くことにした。
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