第2話 祝祭と休暇
三月の新生活からジュネットの王都テレーズにも春が本格化してきた頃。
四月上旬に入った頃、大陸各地では春を祝う祝祭が行われる。
春の女神フローレンティアを祝う祝祭は、春の訪れを祝うことと五穀豊穣の祈りなどを行うための祭りだ。
幼い頃から子どもたちは露店などで楽しみにしていたり、また大人になってからはこの期間にセール中の服を買いに行ったりするのだ。
魔法研究所内でもその話題は多く、翌日に迫った祝祭について話が多かった。
その期間は一週間ほど行われ、その間は祝日とされているためか学生たちも帰省するなどをするみたいだ。
「あ、リリベット。休暇は何をするつもり? 実家に戻るの?」
「実家には戻るよ。両親の結婚記念日、二十年になるからさ。そのお祝いしにね」
「ご家族は元気にしている? 最近、話題に上がらないから」
「うん。めっちゃ元気だよ。未だに両親は仲が良すぎるくらい。もう父さんなんて、六十近いのに」
リリベットには結婚二十年を迎える両親がいる。
母はエリンの王立第一学院で近代・現代史の教員として、十九歳から勤務をしているがとても慕われている。
毎年、新年のあいさつと郵送されてくるカードが大量に送られてくる。
それを見ると、母がとても慕われている教員であることと、とても嬉しそうに教え子たちに返事を書く姿を見ていた。
母方のルーツ的にはリリベットから見れば祖母がアズマ人だと話してくれている。
会ったことのない祖母に似た血を色濃く引いていたらしく、よく似ていたと
父は往診と外科を専門としている医術院で主に往診担当をしている医術師だ。
しかし、彼は元軍人の医術師として知られているので外科での処置などに詳しい。
医術師を志したのは会ったことのない祖母の影響だったということは話してくれた。
しかし、それ以外は詳細に教えてはくれていない。
「かなり複雑なのよ。関係がおじいちゃんの部下だった父さんを母さんが恋しちゃったんだから」
「すごい大恋愛ね。いつ聞いても……まるで物語の世界ね」
「でしょ? 今年は盛大にお祝いするんだ。あ、そう言えば祝祭って五年に一度の大祝祭よね。春姫を観に行かない?」
「行きたいわ。それじゃあ、早くしましょ」
「それじゃあ、今日は早く寝ないとね。明日は朝が早くなりそうだからね」
「そうね。また明日」
そう言いながら研究所を後にすると、アウローラと共に住宅の方へと歩いていくことにした。
翌朝、フローレンティアの祝祭の一日目が始まった。
テレーズの大通りは封鎖され、歩行者のみの通行になっている混雑している。
既存店が出店する露店や大道芸などの催しなどに多くの見物客でにぎわっているようだ。
春の祝祭は今年は五年に一度の大祝祭、年に一番規模の大きい祝祭が行われるのだ。
さらに貴族令嬢を中心に選ばれた六人の少女たちが神々に向けて奉納する舞踊を披露するのだ。
ジュネットの大神殿で行われる奉納舞踊は王族の一つであるアンリ=ルセール公爵などの名だたる令嬢たちが行うらしい。
「今年の衣装はとても豪華だって聞いているわよ。楽しみね」
「アウローラは護衛とかはいらないの?」
「いらないわよ。自衛は普通に心得ているから」
帝国の名家の令嬢ということは知られているが、その命を狙う者がいることを自覚しているのか学院時代に武術などをたしなんでいる姿を思い出した。
「確かにね。なら、大丈夫か」
「神殿の観覧席は一般公開のところだね」
「うん。舞台でやるのを待ちましょうか」
儀式を見られるのだが、すでに席が埋まっているので立ち見ではなく奉納舞踊を見られる時間まで待つことにした。
「アウローラはどうする?」
「そうね。露店でご飯を食べましょう、お腹減って仕方がないの」
「そうだね」
昼食を食べている間にも神殿から音楽が聞こえてくるのが聞こえてきて、そろそろ一般市民への奉納舞踊が行われるという。
春姫は以下の令嬢たちが行うとされている。
十四歳のアンリ=ルセール公爵令嬢ジャスミーヌ。
十六歳のブランシュ伯爵令嬢セレスティーヌ。
十七歳のシュヴァリエ伯爵令嬢テオドラ。
十六歳のリシャール男爵令嬢ジョルジュエット。
十五歳のジャサント子爵令嬢レオノール。
最年少の十三歳のマイヤー侯爵令嬢アンリエット。
この六人で奉納舞踊が行われているらしいが、ほとんど有名なことがあるようだと聞いている。
「あ、良い場所ね。ここ」
「そうだね」
そのときだった。
午後になると鐘の音が二回鳴らされて、観客たちが春姫となった者たちを見つめている。
色とりどりの衣装と花を身に着けた彼女たちが歩いているのが見ている。
リリベットとアウローラたちは最前列のど真ん中という特等席と言われる場所で見ることになったのだ。
音楽隊の方も準備を始めており、神聖な音が聞こえてくると周りの声が消えていくのがわかる。
そのときに流れてきた音楽を聞こえ、すぐに少女たちが円陣を組んでステップを踏み始めた。
手首につけている鈴が浄化されていきそうな音が響き渡っているのがわかる。
ターンをしてから跳びあがるときに衣装のスカートが春風に揺られ、髪飾りのリボンが大きく円を描くのを見ていた。
「すごいきれいね」
「五年に一度だからできることだものね」
「うん」
神々を
いつもの彼女たちを知らないが、この日のために練習してきた口伝の踊りを踊っているのがわかる。
さらに音楽と鈴の音色に乗せて楽しそうに踊るのが見えて最後の振付までを食い入るように見ていた。
踊り終えたときに大歓声と拍手が春姫たちのもとに向かって起きている。
彼女たちも驚いた表情で嬉しそうに笑みを浮かべて淑女のお辞儀をしているのが見えた。
「立派に務めを果たしたね。今日は礼拝をしていこう」
「そうね。今日はお祭りだし、お祈りをしてから行きましょう」
リリベットはアウローラと共に露店で売られている書籍や、商業地区の十番街から十二番街のあたりをめぐっている。
十番街が主に王侯貴族や商人たちが利用する高級路線の
それに比べて十一番街は庶民向けの仕立店などがあり、リリベットは余所行きの服をこちらで揃えることが多いのだ。
「あ、この服かわいい」
「この服、前に社交界で人気だって言う話は聞いたわ」
「それは聞いているのね」
「社交界に出るのは衣服の流行と魔法工学に通じている学者の方々をお話しするだけだもの。それ以外ならば付き合いなんて好きじゃないわ」
「そうだけど。アウローラもそろそろいい人見つけてるんじゃないの?」
「わたしは魔法工学の学者様と結婚したいの。できれば今の職を尊重してくれる方が良いの」
それを父に無理難題で押し付けていることもあるのだが、
それを見てリリベットは自分がもしその立場だと上手く想像ができないのだ。
(アウローラは普通にヴェルテオーザ公爵のご令嬢だからなぁ……平民のうちが言うことじゃないけれど、自分の人生を決めれるのは良いことなのかもしれないな)
「上流階級に魔法工学なんてものを専攻してる人がいないの。父上ったらいても『家柄が釣り合わない』とおっしゃって。仕方がないとは思うのだけど。リリベットの家はどうなの? わたしの家と全く違うから、わからないのだけれど」
「うちは恋愛結婚を二代続けてしてるから、好きな人と人生を共にしたら?って感じかな。実は弟に彼女ができたの。たぶん婚約するかもしれない」
「すごいわね。弟さん、一つ下でしょ?」
「そう。ジェスのやつ……薬草と結婚すると思ったくらいなのに」
そんな会話をしながらお互いに帰路について、リリベットはアリ=ダンドワ駅に向かう列車に乗った。
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