適性なしでも最強を目指したい!

白原碧人

第1話 無能の始まり


「あ、あれ?、おかしいですねぇ・・・」


 そう言いながら目の前にある端末を操作する女性。

 その女性が次の言葉を発するのを端末に手を置いたままどうしたらいいかもわからず目の前の端末に表示された能力適性無しの表示を眺めながら立っていることしかできない。


「すみません、もう一度測定しますね」


 そういうと端末を操作し結果が表示される。

 結果は5つあるすべてにおいて魔力適正なし。5つというのは、放出、変化、固定、変動、共鳴で、適性の良し悪しが扱う魔法の扱いや習得に影響するので、魔法を学んでいくうえで自覚しておくべき事項の一つとなる。

 ちなみに適正値はE,D,C,B,A,S,の6段階評価、Eが低くてSが高い。これはあくまでも表記の話であって現実の練度に直結するか言うと少し違う、なぜなら適性”なし”でもEに分けられるからだ。そもそも適性なしなんてありえない。そんなの魔力がないと言っているようなものだからだ。実際には魔力が限りなく0に近いというのが正確なところだろう。


 本来であればこれから魔法を学ぶ者として絶望するところだが、昔から魔法や魔力を扱うのは苦手意識があったで、結果を聞いて良くも悪くも感情は動かず、でしょうね。といった感じだった。

 気を使った目の前の女性が口を開く


「て、適性がすべてではないので、頑張ってくださいね」


 気まずそうな作り笑顔がこちらを見ている。


「ありがとうございます」


 そう言って端末からIDカードを抜き取りその場を後にする。

 周りでは測定の結果で盛り上がっているようだが、自分は喜べる結果ではないし、喜び合う知り合いもいない。

 携帯端末で時間を確認する。この後、新入生を集めた全体集会が行われるが、それまで少し時間があるのでどうしようかと呆けていたとき、後ろから腕をつつかれた。


「ねぇ、あなたは適性どうだった?私は放出と変動がAでその他は全部B!すごいと思わない!?」


 目を輝かせながら嬉しそうに、そして何か期待したような目でこちらを見ている。


「そ、それはすごいね。俺なんか全部Eだったよ」


 あらためて自分で口にすると悲しくなる。

 意識はしてなかったが、乾いた笑いが出ていた気がする。


「またまた~、全部Eなんて入学試験をパスした時点でありえないんだから、ほらIDカード見せなさいよ」


 こういうタイプは諦めが悪い。下手に否定するといつまでも食い下がってくる可能性が高いから素直に従うのが得策だ。


「冗談ならよかったんだけどね」

「あら素直なのね」


 以外、といった様子でIDカードを受け取った彼女は


「えーっと、カミシロ ユウマ……能力は……え?本当なの?」

「そうだよ、そもそも嘘つく理由もないだろ」

「ふーん、まぁ、適性がすべてじゃないし大丈夫!大丈夫!」


 さっきも聞いた言葉をまた聞いた。そりゃあ大丈夫というしかないよな。

 入学こそしたもののどう考えたって毎日大変な思いをするのが目に浮かぶ、授業では周りに迷惑をかけ、奇異の目で見られ、孤独に過ごすのか……

 まぁ、一人には慣れてるしとりあえず悪目立ちしないように細々と過ごそう。と改めて胸に誓う。


「ユウマは集会までどうするの?何か予定ある?あ、私はミナ、よろしくね」


 よくしゃべる女の子だ、悪気はないんだろうけどペースが乱れるというか振り回されるのはあまりすきじゃないんだよな。


「いや、何も、先に会場に行ってぼーっとしてようかと」

「うわ、つまんな~、ユウマっていわゆる陰キャってやつ?」

「俺たち、初対面だよな……」


 陽キャというつもりはないが、陰キャというつもりもなかったんだが、やっぱり陰キャなんだろうか、というかミナと名乗ったこの女が陽キャすぎるんじゃないだろうか、それか空気の読めないタイプの痛いヤツか、どっちにしても大変そうだ、悪い奴じゃないんだろうけどな。


「冗談、冗談、そんな顔しないでよ、じゃあ、ちょっと早いけど一緒に行きましょ!」


 楽し気に鼻歌を歌いながら会場にむかって歩いていくミナの後を追うようについていく。

 すこし歩くと目の前に大聖堂のような外観の議事堂がその姿を現す。噂によると建造されて数百年だとか違うとか、本来であれば写真に収めたり驚くところなのだろうが学校の広告塔になっているし、世界的にも有名な建物なので、色々な媒体で目にすることがあるのでなんとも感動が薄い。と思っていたのもつかの間


「うわ~!すごい!本物だ!ねぇ!ユウマ!」


 隣では自分と真逆の反応、なんとなく予想はしていたもののきっとまた長くなるんだろう。


「あれ!あれ!何かな!うさぎ!?ねぇユウマ!あれ何に見える!?かわいい!」


 騒がしさの指さす先には大聖堂の装飾、模様や生物らしきものの中にうさぎのような形の物が見える。


「たしかにうさぎっぽいかもな、あれかわいいの?」


 うさぎのような形とは言ってもなぜかよく見る動物のうさぎよりもシルエットが人間に似ているせいで素直にかわいいとは言いずらい。女子の感覚はわからん。元ネタが可愛ければ何でもいいのだろうか。大聖堂よりもそっちのほうが気になってしまう……


「かわいいでしょ?」

「いや、まぁ、かわいい、かな?」


 そういうと満足そうに大聖堂の写真を撮り始める。

 やはり女子だ、これからいくらでも目にできるものの写真をとろうなんて思えん。


「ねえ、ユウマ!」


 そういわれて振り向くとミナに腕を引っ張られよろける。


「お、おい」


 なんとか踏みとどまると、目の前にはミナの顔がある。


「ほら、撮るよ!」


 そういわれミナの視線を追うとカメラがこちらを向いていた。と同時にシャッターが切られる。


「次はこっち!」


 腕を引かれ別のポジションでもう一枚撮る。

 そのあとはミナの撮影は続き俺はそれが終わるのを眺めてまっていた。ミナが写真を撮っているのを見ていたせいか、気づけば自分も写真を撮ってみようかと思い一枚だけ写真を撮ってみた。撮った写真がいいかは別として、この写真を見返したときに今あったことを思い出すだろうと思った時、皆が写真を撮る理由がひとつわかった気がする。

 これもまた一つの成長なんだろうか。

撮影に満足したミナをつれ、会場の中へと向かうと円形劇場のように階段状に並ぶ席には思ったより生徒が座っていた。

 とりあえず通路寄りの席に着席する。

 ミナは隣で先ほど撮った写真を楽しそうに眺めて時折こちらに良く撮れた、盛れてる、なんて言いながらこちらに見せてくる。機嫌を損ねないように相槌を打ちながらあたりを見回しているとポツポツと気になる顔があった。

 今年の新入生の中に著名な家柄の者が数名いるとの噂があったのだが身なりからして大体の目星がつく、それに総じて従者、といっても同い年であろう生徒がそばにいる。分家の者なのか、従者の家系の者なのかはわからない。


「ん~、今年は13名家からの入学生が多いっていう噂は本当だったのね。あそこに座ってるいかにも金持ちって感じの長髪のイケメンがシュローデン家、あっちの腕を組んでる割腹がいいのはヤマナギ家、私の一押しは・・・」


 ミナが目当ての生徒を探しているとちょうど通路を通る人物がいた。それを見るなりミナが声を押し殺しながらも悶えるように叫んだ。


「ちょっ!ユウマ!あの娘!あの娘よ!あのバレッタの紋章!シュネータリカ家の長女!かわいい~!名前なんて言うんだろ?友達になりたいな~!」

「わかったから、揺らすなって」


 俺はやり場のない気持ちのはけ口としてミナに揺さぶられ続けている。


「ちなみに、あの娘は名家なのかな?」


 俺は会場の片隅に物静かにすわっている女子生徒を指さした。

 彼女は透き通るような白髪に青い瞳どう見ても場違い、異質な雰囲気を持っている。


「あの娘は~、美人だけど名家ではないわね」

「そうなんだ」

「なに?ユウマってああいう娘がタイプなの?ねぇ、どうなの?協力してあげよっか?」


 バカにしてるのか肘でつつかれる。


「ちがうって、そういうのじゃないから」


 他愛もない会話をしていると会場の照明が少し暗くなり、正面の暗幕があがっていく。舞台袖から品の良さそうな女性が姿を現すと会場からざわめきが生じるが、そんなことには気を留めずに女性は舞台中央の講演台に向かって歩いていく。

 制服を着ているので生徒だということは間違いない。

 彼女が講演台に立ち正面を向いたとき、ざわめきの理由がわかった。金色の長髪に整った顔立ちが目を引く、画に描いたような、という言葉に納得できる出立ちだった。壇上の生徒を見ていると時間の感覚があいまいになる、彼女を見ている時間が思っていたより長く感じられる。そんなことを考えていると壇上の生徒がこちらを見た・・・気がした。薄暗い照明の会場、たくさんの生徒がいる中でこちらを見る理由が無い、が確かに目があった気がした。


「なぁ、ミナ、あの人わかる?」

「しらない」


 今までのミナらしくない返答だった。会場がざわめく程の容姿を持つ生徒を知らないはずはないと思ったがそこまで情報通ということでもないらしい。一応、俺の聞き間違いの可能性もあるので聞こえなかったふりをした。


「ん?」

「だから知らないってば」

「そっか、ありがとう」


 勢いもなく、言葉少なに口を閉じてしまった。すこしうつむいているだろうか。

機嫌を損ねてしまっただろうか、勝手に気まずい雰囲気を感じて居心地が悪い。そんなやり取りを知る由もなく、スピーチが始まった。


「新入生の皆様、ご入学、誠ににおめでとうございます。私はエスタバル王立魔術学園、3年、生徒会長を務めるユナ・クランテッドです。学園を代表してご挨拶させていただきます」


 壇上のユナが口を開くと、会場のざわめきが時を止めたかのように収まった。

決して声量が大きい訳ではないが、芯の通った澄んだ声は頭に直接届くような力強さを感じる。見た目も相まって雲の上の人のような自分たちとは住む世界の違う雰囲気に圧倒され、彼女の姿に皆が釘付けになっている。これが学園を代表する立場に立つ者の資質なのかもしれない。

 レナが演説を続けるなか


「わりぃ、ちょっと詰めてもらえるか」


そういうと俺の隣に座ろうと詰め寄ってくる男が現れる。


「お、おう、ミナ、ごめん、ちょっと詰めれるかな」

「急にどうしたのよ」


 急なことにミナも驚いたようすだったが何となく状況を察したのかすぐに席を詰めてくれた。おかげで隣にきた男は無事に着席することができた。


「サンキュー、そっちの女の子もありがとね」

「え、えぇ・・・」


 身を乗り出し、周りに迷惑をかけない程度の声量で俺越しのミナに小さく手を振って感謝を伝える男。ミナは勢いに呆気に取られてうまく言葉を発せず手を振って返していた。

 意外と律儀で礼儀正しいやつなのかもしれない。だがそういう人間は遅刻はしないんだよな。


「いやー、あれが噂の生徒会長、才色兼備の学園が誇るセラフィムと噂されるだけのことはあるな、いやー、直に見れただけでもこの学園に来た価値がある」


 男は着席そうそう、いきなり独り言を話し出して何やら納得したのかうなずいている。そのあとも薄暗い中あたりを見回しては何やらうなずいていた。

うるさくはないがちょっと集中できない時間がつづいた。


「皆様のこれからの成長とご活躍を心から願います」


 その言葉のあとに深く一礼すると生徒会長は舞台袖へと消えていのを見送ると静寂につつまれた会場に少しづつ音が戻り始め、本日のメインイベントである。全体集会は幕を閉じた。



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