8.交渉

自由になる、そう言ったところでできることは限られてる。

ぼくらは子供で、力もなければ金も技術もなかった。


体が小さいってくらいの利点しかない。

だけど、だからこそ現在、ダンジョンに入る資格があった。


数少ないこのメリットを活用する必要があった。


「無理ですか」

「あたりまえだろう、お前」


だから、討伐の証としての触手ミミズの舌だけじゃなくて、そのでかいミミズ部分も持ってきたけど、ギルドでは引き取ってはくれなかった。

いかつい顔の、元はダンジョンに潜っていたというその人は、呆れたように半分に切断し、それをプラプラと振った。


「うわ」

「な、臭いだろ?」


振られた断面は血をこぼし、そこからたまらない臭気を出した。


「とてもじゃないが食えたもんじゃない、ギルドじゃこれは引き取れない」

「残念」

「目の付け所はいいけどな」

「と言うと?」

「そいつらは似ても焼いても食えねえが、もうちょっと奥に行けば別の怪物連中がいる、その中には引き取りたいもんもある」

「それは――」

「当たり前だが、それがどんな怪物で、どんなものを欲しがっているかって情報は、タダじゃやれない、情報ってのは金になる」


言って暗く笑った。

そこに油断はなかった。

こっちを子供だって侮ってくれない。

きちんとした商売相手と見るからこそ誠実に取引してくれるし、甘い取引もしてくれない。


「ぼくらに投資はしてくれない?」

「お前ら、火炎呪文を使ってるよな?」

「う」

「欲しい部分を確実に黒焦げにする奴に投資はできない」


ある程度は注意してるけど、さすがに定期的に焦げた討伐部位を持ってきているからバレていた。


「駄目か……」

「第一、お前らは次の階層に到達すらしていない、情報をやったところで無駄だ。こっちからすれば情報の横流しをされて終わるオチしか見えん」

「色んな意味で資格がないと」

「まあ、がんばんな」


顔を横に向けて手を振ってた。

これでも終わりってことらしい。


「はい、ありがとうございます」

「ふん」

「……ああ、なるほど……」

「なんだよ」

「いえ、失礼します」


言われた言葉を思い返しながら去る。

実はこの人、割と甘いかも知れないと思いながら。


だって、直接教えてはくれなかったけど、細かいヒントは結構くれた。


触手ミミズの肉は臭くて食えないけど、こうしてギルドに持ってくることは「目の付け所がいい」らしい。

ダンジョンには更に奥があり、そこでは「別の怪物連中」がいる。

ギルドが欲しい物は「燃やしたら駄目な部分」が存在している。

そしてそれは、「簡単に教えることができる情報」だ。


欲しいものがあるのに、それを教えてくれないのは、たぶん公的なものではないから。

国からの業務は「ダンジョンで発生する怪物の数を減らすこと」で、役に立つものを引き取ることじゃない。


彼は、業務外の情報を暗に教えてくれた。


「よし……っ!」


すこし、展望が見えてきた。

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