大食い系ダンジョン探索者は配信に映ってしまう

ボストンクラブ

第1話


時は現代、なんかダンジョンなんて物ができて未知のエネルギーがうんたらとかやってるんですが私は元気です。


初めまして皆さん、私は『荒見景虎(あらみかげとら)』

どこにでも居るソロダンジョンキャンパーです。


ソロダンジョンキャンパーってのは安全っぽいダンジョンでソロキャンを楽しむ人の事で、私見たく疲れた人が主に楽しんでます。

安全な山とかでしないのって?そりゃ、世界中ダンジョンだらけなので下手な山に行って新ダンジョンが現れましたとかで巻き込まれるよりは既存のダンジョンの安全な階層で楽しむ方が良いですしね。


私が居るのは埼玉の富士見ダンジョン。

ここは常に星空で、落ち着くのでお気に入りのダンジョンです。


「さて、そろそろかな〜」


キャンプ用のコンロに乗せてた鍋がグツグツと蓋を揺らしてるのを見て、蓋をずらす。

おぉ、肉の強い匂いと野菜の彩りが見事に調和してるスープ。

少し肌寒いこのダンジョンでは最高の一品!


「神戸竜のテールに適当な香草でのスープ……ピリッとしててテールと竜骨スープが美味しい♪」


こんなくだらない独り言が許されるのはソロキャンの特権。

なんて思っていると少し先が騒がしくなってるので面倒ですが行かなきゃ行けませんかね?

いや、まぁ楽しみ方は人それぞれですし……でもギャーギャー騒ぐのはマナーとしていかがかと思いますし……

こんな感じで悩んでいると、騒音がどんどんと近づいてきました。


片方は人懐っこいって印象を受ける高校生くらいでしょうか?

短い髪と茶髪がよく似合う陽な男子。

もう一人は黒髪とメガネが「委員長」なんてあだ名されそうなクールな男子。

二人共凄くイケメンですし、私と並べたら美男と野獣なんて呼ばれそうですね♪


「比呂!アソコに人が!」


「不味い!?津院、巻き込まない様に逃げないと!」


「……おや?」


ヒロ君とツイン君……で良いのでしょうか?二人を追い掛けているのは今晩のメインディッシュに使いたかったモンスター。

成る程、助かりますね~


「二人共しゃがんで!」


「「えっ!?」」


私は近くの専用串を追い掛けていた鰻の眉間に投げ穿つと、奴はピクリとも動かなくなった。

さぁここからは時間勝負!

特性番線で眉間から背骨に掛けて神経抜きし、すぐに特性包丁でバラして鉄串で切り身を刺してバーベキューセットの上へ乗せる。


「た、助かりました!ありがとうございます!」


「ありがとうございます

私達はツインヒーローチャンネルなのですが、コチラはどの階層なのでしょうか?」


「ここ?ここは富士見ダンジョンの五階層だよ」


階層ってのは主な目安で確か一から二十を上層、それから四十を中層、でそれから六十を下層でそれ以降を深層……だったはず?


「富士見の五層であんなモンスター見たこと無いけどなぁ~」


「変異種かも知れません

とにかく今は報告を」


ツイン君がドローンに顔を向けると何か喋り、ヒロ君とあーだこーだしてた。

あ、あれが若者に人気の迷宮配信って奴か。

凄いなぁ、最近はあんなのまで有るんだ〜


感心してるのも束の間、二人は私に頭を下げてそのまま立ち去ったのだった……

と思ったら慌てて戻ってきて息をきらせて私へ質問してきました。


「すいません、ここは本当に五層なんですよね!!!」


「はい、富士見ダンジョンの五層ですが何か?」


「いえ、富士見ダンジョンではこんなに立派な星空が見える階層は無いので気になってしまい」


「……あぁ、成る程!

言葉が足りませんでしたね、ここは富士見ダンジョン裏五層

私も偶然見付け、こうやってソロキャンしてる次第です」


「「裏五層?」」


二人はドローンに向かって何かを話しているが私はそれを気にしないでメインディッシュの空鰻を焼いていく。

炭火で焼かれ、脂が滴り落ちると炭から美味しそうな音が響いてくる。

はぁ、幸せのため息が出てしまいますね~。


「えっとおじさん!」


「比呂!失礼、キャンパーさんにお聞きしたいことが幾つか」


「どうぞ、そうそう名前はトラさんとでも呼んでください」


「俺は篤海比呂(あつみひろ)って言います!!!比呂って呼んでください!」


「津院優(ついんすぐる)です、それではトラさん……コレを見てください」


津院君はそう言い、私にスマホの画面を見せてきた。

流れるおびただしい数のコメント、何故か私に批判的な意見の多いのが目に付きますね。


「それで何故コレを?」


「一応私達は『リトルユートピア』という事務所に所属してて、現在配信してます」


「それで!トラさんの言う裏五層何てのは聞いたこと無い!って冒険者さんが多くてその事を解説してほしいそうです!」


「成る程ぉ〜……う〜ん、困りましたねぇ」


「何故です?」


「ほら、此処って基本的に私以外居ませんしたまたま津院君と篤海君が来た感じじゃないですか

私、此処でのソロキャン気に入ってるのですよね」


二人はそれを聞くとアングリと口を開けてしまった。

でもイケメンですからそれでも絵になるのは反則ですよね。


「と、トラさんは……人が来なければ良いのですか?」


「キャンプにもマナーは有ります

人が増えればいずれそのマナーを守らない輩も現れるのでこうして一人でゆっくりしたいですね~」


「えぇ〜!?!?!?そんな!皆で楽しくキャンプしないんですか!?」


「例えば津院君は静かに本を読みたい人、そして篤海君は皆で仲良く遊びたい人

それなのに無理矢理巻き込むのは良くないことですよ

人其々楽しみ方は有ります、私はこうやって星を見ながら楽しむのが好きなのですよ」


そう言われると津院君は納得し、篤海君はションボリとしてしまいました。

仕方ありませんね、大人として若者を放置するのは嫌なのですよね。


「二人共、お腹空いてませんか?」


「え?えぇ、まあ……」


「ペコペコです!」


「ならどうぞ」


空鰻の白焼きと神戸竜のスープを二人に差し出し、落ち着くように促す。


「あ……美味しい……」


津院君はスープを一口飲むと落ち着いた様にそう言い、息を吹きかけ冷ましてゆっくりと飲み進めた。

そして篤海君は白焼きを食べると目を輝かせて「美味しいです!」なんて言って若者らしくガツガツと食べていく。

良いですね~こうやって美味しそうに食べてくれると作り甲斐が有りますよ。


「沢山あるので遠慮しないでくださいね」


「え?」


「人間、お腹空いてたら全部を悪い方に受け止めがちです

さっきの話だって人それぞれだから大丈夫だよって意味でも自分を責められたなんて感じかねません

だからね……お腹空いてたらとにかく食べる!

そして休んで寝る!嫌なことが有ったら沢山食べて寝れば忘れます!」


「はい!」


「はい……」


二人は本当に遠慮無くガンガン食べ進め、空鰻の肉や神戸竜のスープを全て平らげたのだった。

若者の食いっぷりは良いですね~、私も若くなった気がしますよ。


「おやおや、食料が無くなってしまったし今日は帰りましょうかね」 


「あ!?ごめんなさい!」


「っ!?申し訳ありません」


「気にしないでください♪

さて、そうなるとお二人と一緒にダンジョンを出ましょうか」


それを聞くと二人は目を輝かせ、「お願いします!」なんて言ってくれた。

この子たちには幸せに生きてほしいですねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る