第三章 こんにちは、波乱の日々よ④
一目彼女を見た
ノエリッシュ王国第一王女との
そんな
外遊という名目で王国を
第一王女がラウを
何の成果もないまま帝国に戻るのも腹立たしく、興味本位で
だが、
そこには打算があったのも事実だ。彼女ならば自分の傍にいても大丈夫。彼女ならば――巻き込んでもきっと自らの身を守れる、と。
(だが、そんなことはただの建前で、俺の本心は……)
彼女ならば『本当の自分』を支えてくれるかもしれないと、
本物の炎の中にいてもなお
「
説明せずとも状況を素早く
「あー、急いでいて剣を持ってくるのを忘れた。ちょっと待って、すぐに
ラウの右足付近にしゃがみ込んだトリアは、きつく結ばれたロープを
その間にも、炎は確実に部屋を、
トリアの登場に
「どうして君がこんなところにいるんだ!?」
「どうしてって、あなたを助けに来た以外に理由があると思うの?」
「助けなど必要ない! 君は今すぐにここから出るんだ!」
「ええ、あなたと一緒にすぐに
「だから、俺に助けは必要ない! どうせ死んだところで生き返るんだ!」
右足のロープを解いたトリアが顔を上げる。黄色の
「『俺』に『生き返る』、ね。聞きたいことがたくさんできた。でも、今は脱出が先ね」
炎が間近に
「俺はここで死んでも生き返る。これまで何度も死んで、その度に生き返っている。だから、君が俺を守る意味などない」
「生き返るって、魔術の一種? そうだ、あなたの魔術でこのロープは切れないの?」
「夕食に
だから、君は一人で
「すぐにロープを解いて、わたしがあなたを背負って脱出すればいいってことね」
「頼むからちゃんと話を聞いてくれ。俺は
「呪いって、誰の呪い?」
「……夜の
「え? 夜の精霊って本当にいるの?」
「ああ、いる。かなり魔力の強い人間でなければ姿は見えず、声も聞こえない。だが、昔からずっとこの国に存在し続けている」
苦々しい表情を浮かべるラウの背後へとトリアが移動する。いつの間にか左足のロープが
「あなたが生き返るってこと、他の人は知っているの?」
「誰も知らない。知っていれば、暗殺などするはずもないだろう」
場合が場合なだけに明かしたが、本当はトリアにも言うつもりはなかった。
「秘密にしてくれ。他の人間は俺が魔術によって
もはや残された時間は少ない。すでに室内はかなりの高温となり、息をするのさえ苦しい状況になっている。
すべてを飲み込み燃やし
げほげほと、背後から
「
返事はない。荒れた呼吸音だけが戻ってくる。
(俺は死んでもいい。だが、彼女だけは絶対に死なせることはできない)
ラウとトリアは違う。彼女の命はただ一つ。死ねば、次はない。
母や妹、弟たち、兄、そして父のように、死ねばもう二度と会うことができない。
――失ってしまえば、どんなに願ってももう取り戻せないのだから。
どうにかして説得しようとするラウの動きを、「よし!」という場違いなほど明るい声が
「ロープは全部外れた。さあ、脱出といきましょうか」
「もう無理だ。頼むから、君一人で――」
「嫌よ。たとえ生き返るとしても、わたしは誰かが死ぬのを見過ごすことはできない。それはわたしの騎士道に反するもの」
ラウの前に戻ってきたトリアは、荒い呼吸を隠すように
手袋越しでも、その
「わたしを信じて。あなたを必ず守るから」
こんな最悪の状況なのに、目の前の相手はこれまで見せた中でも一番の笑顔を向けてくる。煤と汗で汚れ、髪の毛はぐちゃぐちゃで、服も焼け焦げた状態だ。
その
(俺は、彼女に
それは、
どうして、と声にならない言葉が口中で溶けて消えていく。
きっと理由などない。助ける相手が誰であるかも関係ない。彼女が彼女だからこそ、この道を選ぶのだ。
トリアは反応できずにいるラウの両腕を
女性の中では背が高く、
それなのに、とても大きくしなやかで――とても温かい。
「ねえ、高いところから落ちるのは好き?」
「……
「そっか。まあ、今度は死なないから多めに見てよ」
トリアはふっと短い息を
ほとんど
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