第三章 こんにちは、波乱の日々よ①
口の中で
甘すぎない後味はさらに一枚、もう一枚と、どんどん口へと運んでしまう
帝城に
トリアは帝城の中庭に設けられたガゼボで、セシリナとのお茶会を楽しんでいた。
「……あなたはいつもいつも、
「実際すごく美味しいですから。あ、こちらの焼き
「ええ、好きなだけお食べなさいな」
「ありがとうございます!」
皿に
先ほどのホロホロした食感とは違い、今度は
音を立てて焼き菓子を
「王国でも似たような焼き菓子などたくさんあったでしょう」
「もちろんありました。ですが、食べる機会がほとんどなかったんですよね」
三食の食事はきちんともらえていた。ただし、甘やかされていたクローディアとは違い、トリアがケーキや焼き菓子といった
ごくまれに
(大きな大きな
ルシアンと同じくらいコルセットは
「あなたの家は
「確か帝都で評判になっている菓子店のケーキがあったでしょう。すぐにこちらへ」
「先日セシリナ様のご指示を受け、トリア様のために買い求めた品ですね」
ぱっとセシリナの顔が
「わ、わたくしがそのようなことを言うわけがないでしょう! たまたま知り合いの貴族からいただいた品ですわ!」
「た、大変失礼いたしました! すぐに持って参ります!」
「わたくしと彼女に紅茶のおかわりを」
「はい、すぐに新しい茶葉でご用意いたします」
最初は、
「助けてもらったお礼ですわ。わたくし、借りはすぐに返す性分ですの」
ということで、
「
と笑顔で誘ってもらえるようになった。
(セシリナ様は表向き
帝国に
「どうぞ、新しい紅茶になります」
侍女がソーサーに乗ったカップをテーブルの上に置く。その際、がちゃっとカップが音を立てて大きく
「も、申し訳ございません! すぐに
「ちょっとこぼれただけですから、これで大丈夫ですよ」
右手を伸ばしかけた侍女を制し、トリアは紅茶を口にする。
「すごく美味しいです。ありがとうございます」
侍女は深く頭を下げ、急いで後退する。
「わたくしの侍女が
細心の注意を払って主人の前にも紅茶を置いた侍女は、
(
左肩、と頭の中で
「回復魔術で多少良くはなったようですけれど、まだ痛みが残っているみたいですわ」
「もしかしてセシリナ様も魔術師ですか?」
「ええ、
「気になっていたんですが、回復魔術は病気や大怪我も治せるんですか?」
「そこまで便利なものじゃありません。
セシリナの答えにトリアは
(……ラウの傷は魔術で治したわけじゃない?)
それならば傷は何故消えてしまったのか。疑問の答えは出ないままだ。
政務や軍事に関われない状態では、結局一人で訓練でもしているしかない。
(
意外にも帝国内でのトリアへの風当たりは強くはない。
城に来た
相手が誰であれ、とりあえず
また、良い意味でも悪い意味でも、初日に
(
王国出身のトリアをよく思っていない人間もいるだろう。だが、今のところはラウが
(できればもっと騎士として行動したい。でも、まだ信用がないから難しいか。せめて少し外に出られないか、ラウに相談してみようかしら)
ついつい考え込んでしまっていたトリアへと、落ち着いた
「その様子から察しますと、陛下とは
問題、というのはラウの本来の姿のことだろうか。恐らく身内であるセシリナは、ラウが普段皇帝の姿を演じていることも知っているのだろう。
「セシリナ様はラウ、皇帝
「
「皇帝の座をお父上から
あのラウが、父親を殺せるとは
「さあ、どうでしょうね。何を聞いても本人が
「……
「母親や弟たちは十年以上前に
呪い、とトリアは声にはせず口中で
(うーん、呪いか。魔術を
紅茶を飲み
「ギルバートの方がよほど皇帝に
「ギルバートさんにはわたしも本当にお世話になっています。ここでの生活が快適なのはギルバートさんのおかげですから」
自分も仕事で
「ええ、ええ、そうでしょう。あの子ほど皇帝に相応しい人間はいないと思いますわ」
セシリナは
「あんな男、皇帝になる資格などありませんわ」
「あんな男、というのは私のことでしょうか?
視線の先にいる相手、ラウを
(……あー、だめだ。長年の
令嬢をやめてから、毎日
柄に伸ばしていた手を静かに引き戻す。
(それにしても、
ラウの本来の姿を知っている貴族や重鎮は、
その呼び名を聞いてからは、トリアも時々心の中だけでラウのことをそう呼んでいた。
「あら、誰かと思いましたら、皇帝陛下ではありませんか。女同士の語らいの場に許可なく足を踏み入れるとは、
「申し訳ございません。彼女に用があり、失礼ながら
「わたしに用?」
わざわざラウ自ら足を運ぶということは、
「
「……は?」
「日程は三日後、場所はここから北にあるカーキベリル領だ」
「……ええ?」
トリアは突然の提案、いや、確定事項に混乱してしまう。対して、セシリナは
「カーキベル領? 何故あそこに……」
「何か気になることでも? ああ、そういえば、叔母上はカーキベリル
「……いいえ、ありませんわ。用が済んだのならば早く去りなさい。
皇帝に対して邪魔だと言い放つセシリナに侍女たちがやきもきしているが、言われた本人は特に気にした様子もない。二人は常にこんな関係なのだろう。
ラウは現れたとき同様、あっという間に去っていく。
「新婚旅行、ねえ」
結婚していないから新婚旅行ではない。正確に言えば、
それにしても、何故こんな急に旅行などする気になったのか。あまりにも急すぎる。どうしても裏を探ってしまう。
ラウの真意を考えるトリアの耳に、いつもよりも低いセシリナの声が届けられる。
「……くれぐれも気を付けなさい、トリア」
「え?」
気を付ける? 何に? と首を
「いえ、その……あなたを
「ご
セシリナはトリアをどこか不安そうな、歯に物が
こうして新婚旅行、
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