第二章 はじめましての新生活⑥
「……ん?」
「僕は魔術を使えるが強い魔術師ではない。ただし僕の魔力は生まれ持って闇の属性に大きく
他国では
これまで
以上のことから、帝国内でラウの妻に
「でも、ギルバートさんや、さっきの軍人の人たちは問題なさそうに見えたけど」
「ある程度
皇帝の妻となれば、傍にいられるだけでは不可能。身体的な
「王国の人間は耐性を持つ者が多い。その中でも、君には強い魔術耐性がある。君個人のものなのか、君の家特有なのかはわからない。でも、君しかいないと思ったんだ」
ララサバル
長い年月の中、戦いを重ねる内に自然と耐性が付いたのかもしれない。
トリアは大きな
「……うん、確かに
「わ、わざわざ手を
「不快にさせたのならごめんなさい」
「いや、その、
言い
(……間違いない。あるはずのものがなくなっている)
こほんと、気を取り直すようにラウから
「僕はこの国にとって
落ち着きなく動いていた視線が、
「君ならば、僕の
――ラウはただのトリアとして見てくれている。
ふうと、トリアは長い息を一つ
「今のところわたしはあなたと
「わかっている。無理
「でも、わたしはあなたの
ラウがぱちりと目を
「
「あ、ああ、もちろん! ありがとう、トリア」
「あと一つ。わたしの前では無理に皇帝を演じなくていいよ。二人きりのときはあなたが過ごしやすい姿で構わない」
「え? いや、でも、それは」
「望んでもいない姿を演じるのが
本当の自分を
(それがどれほど辛く苦しいのか、わたしは誰よりも理解している)
ラウは少し考える間を置いてから、静かに
「……よかった。妻になる女性に、
(ひとまず、今日話すのはこのぐらいかな)
知りたいことはまだ数多くあるが、すべてをいっぺんに教えてもらうのは無理だろう。
トリアはソファーから立ち上がる。
「そろそろこの
「す、すまない、気が利かなくて。主寝室はこっちで、他に客室が五つほどある。
「わたしは今後、あなたと一緒にこの階で過ごすってこと?」
「
トリアを守るため。それも嘘ではないだろう。
でも、きっとそれだけではない。
(多分、わたしを
いずれにせよ、同じ空間にいることはトリアにとっても利がある。
「わかった。できれば寝るのはあなたと同じ部屋でもいい?」
「……え!?」
ぎょっと
「あ、あの、でも、それは、ちょっと、いや、かなり問題があると……!」
「寝る場所は別々ね。でも、同じ部屋ならばあなたが
「あ、ああ、まあ、そう、かも……」
赤くなった頬が今度は一気に元の色へと戻っていく。皇帝のときはあまり表情に変化がなかったが、本来のラウは表情が豊からしい。
「
「あなたが相応しい皇帝になりたいと願うように、わたしも理想とする騎士になりたいの」
「だから、
「……わかった。ただ、僕が君を守ろうとすることも、
「ええ。だけど、知っての通り飛んでくる矢を
たくさんの
「護衛は付けない。だが、しばらくの間は帝城内で過ごすようにしてもらいたい。民の中には王国の人間に対して良くない感情を
「了解。落ち着くまでは城から出ないようにする」
「何か必要なものがあれば、ギル、ギルバートに伝えてくれ。僕は一度謁見の間に戻るから、君はここでゆっくりしていて構わない」
立ち去ろうとしたラウは、何か思い出したかのように足を止める。
「言うのが遅くなってしまったが、その
「ありがとう、大分汚れているけどね」
「その汚れは
「……あなたはわたしがこの
「何故だ?」
「わたしの身長がより一層高くなることを、ルシアンはすごく嫌がっていたから」
クローディア同様、ルシアンも現在
ラウは
「身長の高低など僕にはどうでもいいことだ。君が好きで身に付け、そして似合っているのだから最高じゃないか」
再び歩き出したラウは、
「私的には最初に出会ったときのドレス姿よりも、君に似合っていると思う」
何気ない口調で告げられた言葉に、トリアは
ぐっと、
(ゆ、油断した! もう、皇帝に戻るときは戻るって言ってくれないかしら)
数秒とはいえ胸が高鳴ってしまったのは、完全な不意打ちだったからだ。
(きれいなドレスよりも、汚れた姿の方が似合っている、なんて)
普通の令嬢ならば、間違いなく
(
演じていた部分があるとはいえ、初対面で子作りの話をする人間だ。
ときめくなんてあり得ない。
頬の熱を消し去るため軽く頭を振ると、トリアは握ったラウの右手を思い出す。
「……あのときクローディアが付けた手の傷、一体どこに消えたの?」
謁見の間で手を握られた際、そしてつい先ほども確認した。傷跡すらなく、傷そのものが明らかに消えていた。まるで最初から何事もなかったかのように。
二週間程度で完治する傷ではない。もしかしたら、魔術の中に傷を一瞬で
「不老不死の死に戻り皇帝、か。まさか……ねえ」
ぽつりと
トリアの中で言いようのない
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