第二章 はじめましての新生活⑤
案内されたのは帝城の最上階、五階の南向きに位置する部屋だ。
城の五階は丸々
(うん、警備は
部屋の
南向きに位置する部屋には、ソファーやテーブルが並べられ、数は少ないが高価そうな絵画や壺といった調度品が置かれている。居間として使用している場所なのだろう。
「では、我々は戻ります。何かあればお呼びください」
二人だけになると、室内が
(何か話しかけた方がいいかな)
聞きたいことなら山ほどある。どうしようか考えていると、ラウがぎくしゃくとした様子で動き出す。
「お、お茶を用意するから、君はそこのソファーで座っていてくれ」
「それなら、わたしが用意するよ」
「い、いや、大丈夫! ぼ……ごほん、私はお茶を入れるのは得意なんだ」
得意と言う割には、茶器を
何故かがちがちに緊張している様子のラウを
「やっぱりわたしが用意するから、あなたが座って待っていて」
あちこちこぼしながら茶葉を入れている手に
後ろに下げた
(まずい、靴が!)
トリアの体は後方へと
「――危ないっ!」
トリアの右腕をラウがとっさに
(このままだと床に……!)
なす
自らの下にいる相手を見る。どうやらラウが
「……
「ええ、大丈夫よ。ありがとう。あなたは平気?」
「ぜ、全然問題ない。けど、ええと、その」
しどろもどろな口調で視線を
明らかに速い心臓の動きに顔を上げると、
「……照れている?」
トリアの指摘に、宝石のごとき目がこぼれんばかりに開かれる。
「! て、照れているって、まさか、いや……!」
「じゃあ、どうしてそんなに顔が赤いの?」
「そ、それは、その、ええと」
頬に手を伸ばすと、想像通りの熱が伝わってくる。トリアの手が触れると、ますますラウの顔が赤みを
箱入りのご
こういう部分が、いつまで
「ひょっとすると、本来のあなたはこっち?」
「違う! そんなことは、僕は……あ!」
「……僕?」
ラウの一人称は『私』だったはずだ。
手を引き戻したトリアが復唱すると、ラウの顔から急速に熱が失われていった。
うろうろと紫の
無言でじっと見つめるトリアに、ラウの口から重くて長いため息が
「……とりあえず、その、ええと、離れてもらえるかな?」
「あなたには聞きたいことがたくさんあるの。答えてもらえる?」
(ルシアンのときみたいに当たり
ここに、恋や愛はない。この先も
でも、いつか
ただ流され続け、
(それに、わたしはこの人の
婚約者としても、そして騎士としても、ちゃんと相手と向き合ってみたい。
「……わかった」
ラウが頷くのを確認し、トリアは彼の上から離れる。
トリアとラウの間には、不自然なほど広すぎる空間が作られる。
ラウは乱れた
「もし君の聞きたいことが国に関することならば、申し訳ないが僕には答えられない」
「国のことなんて聞かないよ。わたしが知りたいのはあなたのこと」
「……僕の、こと?」
「ええ。だって、あなたはわたしのことを色々調査して知っているかもしれない。でも、わたしはあなたのことをほとんど何も知らない。不公平じゃない?」
不公平、と目を丸くしたラウがぽつりと呟く。
「まず、わたしを婚約者に選んだ本当の理由を教えてくれない?」
「そ、れは、あのとき言ったように、君が必要だからで」
「ええ、わたしが必要な理由があるんでしょ? あなたは
「……君はやはりすごく
「ありがとう。それで、理由を教えてくれるの?」
ラウは
「これから話すことは、決して外部にもらさないと約束してもらえるかな?」
もちろんだと答えると、ラウはソファーに座るよう
「君を婚約者に選んだ理由を話すには、最初に僕自身のことを話す必要がある。君の想像通り、本来の僕は普段の皇帝の姿とはほど遠い。気が弱くて
細く整った
「だが、それでは
王国は彼の即位直後、ただ若いというだけで
「ギルや親しい貴族、
皇帝は国そのものだ。弱々しい人間だったら、それは国にとって最大の弱点となる。ノエリッシュ王国だけでなく、他国はその弱点を絶対に
戦争の引き金になる可能性すらある。
「外では
「あなたの立場的に、女性と二人きりになる機会なんていっぱいあったんじゃないの?」
「そこは、その……後からちゃんと話すが、それが君を選んだ理由に関わってくる」
トリアの視線の先で苦笑がこぼれ落ちる。
「本来、皇帝の座は兄が引き
「あなたが
「ああ。特に前皇帝、父を
父親殺しの
「確かにエジンティア
「彼らは父の腹心だった。だから、それぞれの領地で起きている
ラウはトリアに向けていた顔を
「王国の
「あれはただ金で
命を狙われる機会が多い割には、
(本人が魔術師だから、危険は自分で
目の前にいる相手を上から下までじっと
皇帝としての
(……正直言って、ものすごく弱々しいなあ)
この状態では、間違いなく帝国にとっての弱点にしかならない。
(どう考えても、父親を殺せるような人間には思えない)
「父のことがなかったとしても、僕は多くの人から嫌われているんだ。
「それは、あなたが皇帝だから傍にいると心が休まらない、っていう意味?」
「違う。そのままの意味だ」
理解できずにいるトリアへ、さらに意味不明な言葉の数々が投げられる。
「君を婚約者に選んだのは、君は僕が近付いても
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