第二章 はじめましての新生活③
ようやく帝都の帝城に
トリアを
(ものすごくきれいな女性ね)
逆三角形のほっそりとした顔に、遠目でもわかる二重の
吹き抜け構造の大広間には天窓がいくつも設置されている。そこから差し込んだ陽光を受け、女性の首飾りがきらりと
(うわ、大きな宝石……。ララサバルの家でわたしが持っていたドレスと
金色の
「本当にその娘が
「は、はい、間違いありません、セシリナ様。国章の刻まれた腕輪、陛下が身に付けていらっしゃった金の腕輪をしております」
正門から城まで案内してくれた若い軍人が、
女性はちらりとトリアの右腕、そこにある腕輪を見やる。その視線には
「確かにそちらは陛下が前皇帝から贈られた腕輪ですわね。わたくしはセシリナ・ライラ・ラナムネリと申します。現皇帝の
なるほど、とトリアは納得する。
目の前の美女には、
(特に
「あなた、ノエリッシュ王国の
セシリナは扇子を再び開くと、
「そんな家出身の娘が皇帝の
頭のてっぺんから
身長はトリアの方が十五センチ近く高い。しかし、大広間の中央にある階段から現れたセシリナは、下まで下りきることなく三段目の位置で足を止めた。そのため、トリアを上から見下ろす構図となっている。
セシリナは冷え切った
「王国出身で地位が低いというだけでも問題ですのに、加えて
細い
トリアの現在の
できる限り
帝城にたどり着くことを最優先にしたため、身なりまで気にしていられなかった。
(まさか、立て続けに二つも想定外の事態に巻き込まれるとは、全然思ってもいなかったし……。うん、さすがにあれは大変だったなあ)
思い出すと、ちょっと遠い目になってしまう。
「皇妃となれば、それは帝国という国の
反応の薄いトリアに
階段三段分の高さとはいえ、受け身を取らなければ
相手の体重が軽かったこともあり、しっかりと
「大丈夫ですか? お一人で立てますか?」
「……わ、わ、わたくしは平気ですわ!」
視線が重なると、セシリナははっと意識を取り戻す。
「許可なく
トリアが笑いながら言えば、セシリナは
「わたくし、用事を思い出しました! 部屋に戻りますわ!」
セシリナはくるりと
四歩ほど歩いてから、
「……助けてくださったこと、感謝いたしますわ」
その一言を最後に、今度こそセシリナは
「お
先ほどまでセシリナがいた階段から下りてくる人物の姿がある。
紺色の髪を首の後ろで一つにまとめ、白いシャツと
「ギルバート様!」
所在なげに
「ここは私が引き取ります。君は
「はい、失礼いたします」
軍人は深く一礼し、きびきびとした足取りで城外へと去っていった。
「私はギルバート・カルル・ラナムネリと申します。この帝城にて
「わたしはトリアです。よろしくお願いします。あの、お名前から察するに、もしかしてセシリナ様のご親族の方ですか?」
「セシリナは私の母ですが……。まさか、母がこちらに来ておりましたか?」
「ギルバートさんがいらっしゃるほんの数秒前までいましたね」
「申し訳ございません、もっと早く来るべきでした。もし母が
「謝る必要はありませんよ。とてもおきれいで、しかも
「……え? か、可愛らしい、ですか? ええと、あの母が、ですか?」
「はい。あ、
「いえ、そんなことは……。トリア様は
ギルバートは見る者を安心させる
最低限の社交にしか出してもらえなかったトリアは、皇帝の顔を知らなかった。当然、
「
「ギルバートさんは皇帝陛下と仲がよろしいんですか?」
「いくらか年齢が離れていたこともありまして、昔は弟のような存在でした」
思わずラウ、と名前を呼んだことからも、今もきっと仲がいいのだろう。
広い帝城をギルバートに続いて歩いていく。同じような通路、同じような階段、同じような広間が多数ある。部屋の扉もどこも似た色と形をしていた。迷路のように作られているのは、ひとえに
質素というほどではないが、
「トリア様が無事に帝城へと到着なさって、とても安心いたしました」
「すみません。もっと早く到着する予定だったんですが」
「理由は存じております。エジンティア
通常であれば二日。どんなに寄り道しても五日程度。予定の日数より倍に
今になって思い返してみれば、国境警備の軍人が『帝都には北の
(ちゃんと話を聞かなくてごめんなさい、国境警備をしていた軍人さん)
その場は
あれやこれやともてなそうとするエジンティア辺境領の人々に別れを告げ、全速力で帝都に向かう。その途中、今度はユニメル領で少女が
腕を見込まれ、ユニメル領主の依頼の元、不自然な
(国に助けを求めるとか、帝国軍人を頼るとか、色々やりようはあったんだろうけど、どちらも緊急を要する事態だったから、ついつい手を出しちゃったのよね)
前を歩いていたギルバートは足を止めて振り返ると、申し訳なさそうに
「トリア様の身を危険に
「いえ、どちらもわたしがやりたくてやったことですから」
「わたしの方こそ、国内の事情に勝手に首を突っ込んでしまい申し訳ございませんでした」
「陛下を始め、みなトリア様に感謝こそすれ、
「キールストラ帝国は、治安があまり良くないのでしょうか?」
「陛下が即位してからかなり良くなっておりますが、何分帝国は夜が長く、闇に乗じて悪事を働く者も少なくなく……。ですが、帝城付近は安全ですのでご安心ください。それから、
「あの、ですが、さすがにこの
トリアは気にしない。だが、トリア以外は気にするだろう。
「大丈夫ですよ。
「皇帝陛下とお目にかかるのに、帯剣していてもいいんですか?」
「あなたは婚約者であると同時に、陛下の
まさかそんなところまで
「すべては陛下のご意向です。あなたが不自由なく生活できるよう最大限
(大切も何も、そもそもどうして婚約する事態になったのか、全然わからない状態なのよね。わたしを選んだ理由を、今度こそちゃんと聞かせてもらわないと)
ギルバートは帝城の内部構造や
「ここが陛下のいらっしゃる謁見の間です」
「どうぞ。陛下が心よりあなたのことをお待ちしております」
ギルバートの声に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます