第二章 はじめましての新生活①
ララサバル
当代の主人は言うまでもなく、ララサバル家に生まれた男児はほぼ全員が騎士としての道を選ぶ。女児の場合も、騎士にならずとも最低限の武術は必ず教え込まれるのが慣例だ。
一族の人間は身体能力に
ノエリッシュ王国は
与えられる地位も
トリアの父、アルヴァンス・ララサバルが現当主の座に
重苦しい空気が
かつかつと、重圧感のある美しい靴音が鳴り
「――トリア!」
正門を通り抜けてすぐ、前方から声をかけられる。視線を向ければ、よく見知った相手が足早に近付いてくる姿があった。
「ロイク
「
「仕事が
「何言ってんだ。仕事よりお前の方が大事だっての」
ヒールのおかげで、いつもよりも近い位置にある顔がにっと
百八十を超える身長に、筋肉質のがっしりとした
太い
「わたしが今日出発するってよくわかったね」
「お前のことだ、あんな状態の家からは一日も早く出たいだろうと思ってさ」
「さすが叔父さん。それで、あの人の処分は決まったの?」
「一応な。屋敷も財産も、土地もすべて
何もかもを失う。父だけでなくララサバル夫人も、そしてクローディアも。
表向きはお
とはいえ、家と
「じゃあ、次の当主はロイク叔父さん?」
「まさか、
ロイクは分厚い
「
祖父は
「ララサバル男爵家は
重い内容とは裏腹に、ロイクは非常に楽しそうだ。からからと笑い声が放たれる。
ロイクは兄のアルヴァンスとは十歳以上離れており、現在は三十
「お祖父様も最初からあの人に爵位を譲らなければよかったのに」
「そういうわけにもいかないだろ。あんなんでも一応長男だからな」
「でも、騎士でもなければ、王立騎士団の団長でもない」
当主には
アルヴァンスは歴代の当主とはまったく違う。騎士への
「時間はかかるだろうが、いずれ本来のララサバル男爵家の姿に戻るはずさ。で、
トリアには年の離れた兄が二人いる。二人とも騎士だ。一番上の兄は
二人は父とほぼ
ロイクは不意に
「本気で帝国に行くつもりなのか?」
「ええ、他に行く当てもないからね」
「トリアは一度こうと決めたら
「そんなことないよ。結局、
「お前は十分
八歳のとき、実の母が
その一方で、騎士の道を
母が亡くなるまではトリアも武術の訓練を受けていたが、父が現在のララサバル夫人と再婚してからは固く禁じられた。しかし、トリアは父たちの目を
腰に差した剣の
「わたしは騎士になりたい」
令嬢として家のために結婚するのではなく、家柄も性別も関係なく、大切な人を守れる人間でありたい。
なめし革が巻かれた柄を
「だから、
どうせ行くのならば前向きに、明るく過ごしていきたい。そして、理想とする騎士の姿に近付けるよう努力したい。
自分らしく
「まあ、
「お前なら絶対にいい騎士になれる。
「ありがとう、ロイク叔父さん」
(あの場限りの適当な言葉だったのかもしれない。でも)
「それに、帝国に行くことは『あれ』を調べる
「皇帝の婚約者という立場なら、王国の人間でもかなり自由に動けるはず、か」
「ええ。叔父さんとお祖父様には色々気にかけてもらって、本当に感謝している。だから、やれることはやってみるよ」
「正直なところ、お前の申し出はありがたい。だが、絶対に無理だけはするな」
「心配しないで。どうしようもなくなったら、
勝機が見つからない場合は、とにもかくにも
「何かあればすぐ戻って来い。俺も親父も、ずっとお前の味方だからな」
ロイクが差し出した大きな手を、トリアは両手で
無言で見つめ合うこと数秒、固く結んでいた手を離す。
ロイクが用意してくれていた馬に乗り、トリアは長年住んだ屋敷を後にした。一度も振り返らず、街道を進む。
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