7話 三分間
「<
シズクがスキルで宙に展開した半透明の地図を俺にも見えるようにしてくれる。
「これ、多分通った道しか反映されないみたいなんですけど、現在地の情報はこの右上に」
「確かに……」
シズクがやや背伸びをして震える指先で示した地図の右上には、確かに『龍頭の裏迷宮2層』という文字が書かれてあった。
「あの、裏迷宮っていうのは?」
「いや、俺も聞いたことがない」
「そんな……」
裏迷宮なるものの存在を俺は知らない。ギルドで初心者講習を受けた時も、英雄譚にも新聞にも、一切そんな話は聞いたことがない。
「いや、でも確かにあの魔兎はおかしな強さをしてたか」
「リューロさんの腕を食べたやつですか?」
「ああ、Sランク冒険者ぐらいしかアレとまともに戦えるのは居ないだろうね。それに」
それに今思えば俺を2層に追いやったミノタウロスの行動もおかしかった。道が狭くなっていくのは分かっていたはずなのに、奴はまるで2層への通路にギリギリ俺が飛び込める時を待っていたかのように最後まで魔法を使わなかった。
「そ、それに?」
「いや……なんでもない。それよりもここが裏迷宮なら『セーフゾーン』に行って他の冒険者に助けてもらうってのは無理そうだな」
「じゃ、じゃあ私たちだけで帰るしかないってこtっ……」
シズクは突如、そこで時間が止まったかのように硬直する。目を見開いて呼吸も止まってるその様子に俺は焦る。
「え、どうした!?」
「ヤバい、来る」
言い終わるや否や傍の草むらから、白い影が飛び出す。
「魔兎っ!? 」
それが何なのかを俺が認識するのとほぼ同時に、俺は急な浮遊感に襲われる。落とし穴に落ちたみたいに視界が落下する。いや違う!両脚をやられたのか!
「っ<
俺の腰と地面が接着するスレスレで、シズクのヒールによって両足が瞬時に再生し再び視界が元の位置に戻る。
「助かった! シズクは俺の後ろで回復をっ!」
「は、はい!」
背後に回った魔兎と向かい合って、腰鞘からダガーナイフを抜k……あれ?スカッ、と空を切った手に俺は気付いてしまう。最悪だ、ナイフは魔兎に腕ごと取られたままだ!
俺が武器を持っていないことに魔兎はいやらしく口角を上げて、咥えた両脚をその場に捨てる。
だが、まだ詰んではいない。シズクがいる限り頭さえ守れたら死なない。そして俺の後ろにいる、しかも俺より小さいシズクを傷付けるのは、奴が突進して噛むという攻撃しか持っていない以上不可能に近い。
「シズク、今、何時か分かるか?」
「え、えっと今は……17時27分です!」
何らかのスキルを後ろでシズクは発動させて、俺に伝える。
「よし、あと3分だけ時間を稼ぐぞ」
そう、あと3分だ。あと3分、俺が何回死にかけても良いから時間を稼ぐ。それしか勝つ方法は無い。
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