6話 ここはどこ?

「超回復、か。すごいなぁ」


 語彙力の無い浮かんだままの褒め言葉が思わず口に出てしまう。シズクは垂れ下がる長い黒髪を手に添えて、俺を見上げて「えへ、そっそうですか?」と恥ずかしそうに笑って、俺はその無垢な笑顔にドキッとしてしまう。


「凄いよ。上位の回復スキルでも俺の腕を治すのに五分はかかるところなのに、シズクのは唱えた瞬間に治ってるんだから。国に戻りさえすれば重宝されること間違いなしだな」

「そっ、それほどかな。でも、あまりジロジロステータス見ないで欲しい……かも」

「あっ、それはごめん。珍しくてさ」


 頬を赤らめるシズクに俺は慌てて目を逸らす。


 そう、俺はシズクのステータスをこの目で見ることが出来た。通常、他人が開いているステータスを見ることなど出来ないハズなんだが……[転生者の篝火]という称号によるものなのだろうか。


 でも、転生者のステータスとはここまで……ここまで桁違いなのか。SSSが縦に並び、さらに膨大なスキルの数々、ざっと目を通すだけでも時間がかかるほどだ。


 正直羨ましいという感情すらも湧かない。こんな恩恵を受けるということは、さぞ転生前に徳を積んだのだろうか。


 まあ、過去の詮索は冒険者のご法度だ。たとえ相手が転生者だろうとな。



***


「っし、じゃあこれからの流れをもう一度確認しよう」

「はっ、はい!」


 びしっ、と背筋を伸ばして真ん丸な瞳をシズクはこちらに向けてくる。かなり緊張しているんだろう、無理もない。俺だって2層には初めて来る上、不測の事態だから片時も心は休まらない。この世界に来たばかりのシズクは尚更だろう。


「緊張感を持つことは良いことだけど、ずっとそれじゃあ体力を消耗しすぎてしまう。シズクのステータスなら2層の魔物が命の危険になることはないだろうし、もう少し気を抜いた方が良いよ」


 かつて俺が師に言われたことをそのまま引用する。俺が生きて帰れるかどうかは、ほぼシズクの力にかかっていると言っても過言では無い。だから、コレは自分の為でもあるんだが……彼女はえらく感銘を受けたみたいだ。


「そっ、そうですよね。リューロさん、ありがとうございます!」

「あぁ、うん、まぁ受け売りなんだけどな……」


「さて、このダンジョンは『龍頭の迷宮』と呼ばれている。シズクが覚醒したのは、丘の方、東に五分ほど歩いた場所だったよね」

「は、はい!そうです!」

「多分だけど、伝承通りならその場所は『セーフゾーン』だと思う。『セーフゾーン』は魔物が侵入出来ない範囲のことで、各層に五つぐらいあるんだ」


 何故か伝承に残る転生者はみな『セーフゾーン』で目覚めている。転生者の為に女神様が『セーフゾーン』を作ったという話もあるぐらいだ。


「まずはそこを目指すとしよう。最も探索の進んでいる『龍頭の迷宮』のまだ浅い2層、更には『セーフゾーン』ならかなり冒険者が通る可能性が高いと思うんだ」


 うん、我ながら素晴らしい計画だ。俺一人ならともかく、転生者のシズクが居るなら、俺たちを地上に送り届けるメリットはかなり有る。

 

「あ、あの……」

「どうした?」

「あの、私のスキルに、<地図マップ>っていうのが有るんですけど……」


 あぁ、<地図マップ>か。便利なスキルだが、別段特別なスキルという訳では無いハズだけど、どうしたんだろ。


「それで、今いる位置を確認してみたんですけど、ここ『龍頭の迷宮』じゃない……みたいです」

「あぁ、ありがとう。確認してくれたの……って、はぁぁ!!??」


 え!? 『龍頭の迷宮』じゃない!? いやそんなハズ、いやでもシズクが嘘をついてる……ようにも見えない。 どういうことだ?


「そ、それでですね。どうやら、今いる場所なんですけど『龍頭の裏迷宮』ってところ?……みたいです」

「裏……迷宮?」

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