第5話 森の精霊さん、森を統一する

 

 森の精霊さんが、レベル上げし過ぎて、いつの間にか、森の生態系が全く変わった頃。


「ご主人様! 森の南側に、人間が入って来ました!」


 白いアラクネが、森の精霊さんに報告してくる。


 現在、47種類の職業を全てカンストさせた森の精霊さんは、森の生態系の頂点に居る。


 そして、森の精霊さんが住む森は、全て森の精霊さんの領地のようになっていた。


 実際、5年前までは、森の四天王と言われていた森の南側を支配してたレッドドラゴン、北側を支配してたエンシェントドラゴン、西側を支配してた黒龍、そして東側を支配してたアースドラゴンを、森の精霊さんは、タイマンで全て殺してしまっていたのである。

 経験値が欲しかったからね。


 倒したら、復活するかと思っていたけど、どのドラゴンも復活などしなかった。

 やはり、この世界はハードモード。

 死んでしまうと、復活など出来ないのである。


 そんでもって、四天王のドラゴンが死んでしまった影響で、森の生態系が激変。

 今迄は殆ど人間が近寄らない森だったのに、頻繁に人間が入ってくる森になっていたのだ。


 因みに現在は、森の中心に行くほど強い魔物が居て、森の端の方には弱い魔物しかいなかったりする。


 森の中心は、泉を中心にして聖域だったのだが、森の精霊さんが色々な職業をカンストしていくうちに、森の精霊さん自身が邪悪な魔素まで発するようになっていたから、魔物も、元聖域付近に近付く事が出来るようになってたのである。


 因みに、森の精霊さんが邪悪な魔素を出すようになった原因は、アサシンとか、バーサーカーとか、魔王とかの闇系の職業をカンストしてしまったから。


 まあ、職業 魔王をカンストしてる時点で、人間の敵のような気もするが、気のせいだろう。

 だって、森の精霊さんは、天使のような可愛らしい容姿をしているから。


 それに一応、森の精霊王の職業もカンストしてるから、綺麗に、光属性と闇属性を中和してたりするし。


 そう、そんな感じで、森の精霊さんは、滅多な事では森に生息する魔物が殺せなくなって、レベル上げできなくなっていたのである。

 魔王って、魔物の王様だしね。


 それに、流石に、世界がドラ〇エみたいだったとしても、レベル上げだけを100年もやってたら飽きるよね。

 だから、新たな刺激を求めて、部下達に森を見張らせていたのだ。


 ん?部下?


 そう、職業 魔王になった時点で、配下になりたいという魔物達が現れてきたので、仕方がなく配下にしてやったのだ。


 なんかよく分からんが、魔王になると四天王を決めないといけないイベントとかあって、その時点で、既に、森に君臨してたドラゴン四天王を経験値にしてしまっていて、森の精霊さんは、新たな四天王を決めて配下にしていたのである。


 まず、第一の四天王は、アラクネのシロ。まだ初期の頃、ボコッたら命乞いして来たので許してやったら、いつの間にか懐いて来て、しかもいつの間にか強くなったので四天王第一位にしてやった。


 そして、第二の四天王は、フェンリルの銀。こいつも初期の頃に親のフェンリルを俺がボコッて経験値にしてやったんだけど、どうやら子供が居たみたいなので保護してやっていたのだ。

 どうやら、フェンリルは聖獣の類だったようで、まだ、完全な聖域だった森の泉の傍にいても全く影響受けなかったのだ。

 だから、俺が森でレベル上げしてる間、俺の住処であった森の泉を番犬として守らせていたのである。


 そして、第三の四天王は、ベビモスのクロ。

 こいつも、森で子猫を見つけたと思って聖域で飼おうと思ったら、ドンドン大きくなって来て、どうやらベビモスだったみたい。


 本来は聖域などに住めない魔物なのだが、いつの間にか俺の使い魔みたいになったみたいで、聖属性を克服してたみたい。


 最初は黒猫みたいな色だったのでクロと名付けたのだが、聖属性も克服した事で、白と黒のぶち猫になってしまっていた。


 そして、第四位の四天王は鳳凰のアオ。

 こいつは、結構、厄介な魔物?聖獣で頻繁に森を火事にしてたヤバい奴。

 俺は、こいつが森で火事を起こす度に、火消しに追われたものだ。


 魔王になって、初めてボコれたぐらいヤバイ奴だったのだ。

 まあ、どうやら聖獣だったので経験値にはしなかったけど、放火魔だから俺の仲間にした。

 勝手に火事を起こされると面倒だしね。


 でもって、なんか赤い炎より青い炎の方が火力が強いんだよ。と、地球の知識を教えてあげたら青い鳳凰になったのだ。

 だから、名前はアオにした。

 青い鳳凰の方が、幸せの青い鳥みたいで運気が上がりそうだったしね!


 こいつら四天王の4匹だけが、俺の部下。

 他は知らん。


 だがしかし、いつの間にか、この4匹が勝手に森を統一しちゃったんだよね。

 もう、ドラゴンも俺の経験値にした後だったから、簡単だったみたい。


 そして、この新四天王が、勝手に森の防衛とかもしてるのだ。


 アラクネのシロが眷属の蜘蛛の魔物を使って、森中に糸を張り、人がそれに触れると分かる仕組みになってるとか。


 俺は、一応、前世が日本人だし、精霊さんだから、人間を殺さない政策をとっているのだ。


 だから、人が誤って森に入って来ても殺さない。

 ちょっと、痛い目みてお帰り頂いている。


 まあ、森の表層部分ぐらいの侵入なら、人間が入って来てもそのままにしてる。


 たまに、森の奥の泉に、なんでもエリクサーが湧き出る泉が有ると、人間世界に知れ渡ってるようで、森の中心を目指す人間が後をたたない。


 完全に、俺の出汁入りの泉の事だけど……。


 まあ、俺の鱗粉もたくさん入ってると思うので、傷も治ると思うけど、この泉に魔物が入ったら大火傷する代物だったりする。


 良い人にはエリクサーにもなるけど、悪い人に対しては、毒にしかならないんだよね……。


 クロなんて、猫だと思ってたから、無理矢理、鱗粉入り泉に入れてたんだよね。

 ほら、俺って、前世日本人で綺麗好きだから、飼い猫もお風呂に入れて洗おうと思った訳よ。


 クロは滅茶苦茶、泉に入るの嫌がってたけど、それは猫だからと思って無理矢理入れてたんだよね。

 ほら、猫って普通、水の中に入るの嫌いじゃん。


 でも、泉に入れていくうちに、ドンドン黒色が脱色していって、黒と白のまだらになっていったんだよね。

 しかも成長につれて、ドンドン大きくなっていって、猫じゃなくて、魔物のベビモスだと気付いた時点では後の祭り。


 確かに、魔物が聖なる泉に入ったら火傷するし、聖なる泉って、パンパイアの聖水みたいなもんだから、相当、クロ、体中が痛かったんだろうね……なんせ、体の色が脱色するくらいだし。


 まあ、それにより、なんか聖属性の魔力も生えたみたいだから、結果的には良かったんだけど。


 そんな森の泉を目指して、今回も、人が森に入ってきてるようだ。


「ご主人様、今回は人間の貴族が森に入ってきてるみたいです!」


 アラクネのシロが、俺に教えてくれる。

 こいつも、普通のアラクネだったのだが、綺麗にしようと森の泉に入れたら、縮んで白くなってしまったのだ。

 だからなのか、見た目は幼女みたいな上半身をしてる。下半身は蜘蛛だけど。


 多分、高位の魔物のアラクネじゃなければ、泉に入れた時点で死んでたであろう。

 結果的に、縮んだだけで死ななかったのでよかった。


 まあ、死んでいても俺の経験値になるだけなので良かったのだけど。


 本当に、魔物に対しては猛毒の泉なのに、善性の心の持ち主に対してはエリクサーの泉になるって変わってるよね。


 でもって、


「ふ~ん……貴族か……」


 俺は、熟考する。


「僕の眷属の調べによると、馬車と護衛の騎士が30名。馬車の中には、12、3歳の女と、15、6歳くらいの女が乗ってるように思われます」


 僕っ娘のアラクネのシロが、報告する。


「そうなんだ」


 俺は、実を言うと人間に飢えている。

 飢えてるといっても、食べたい訳じゃない。

 俺、そもそも精霊だし。人間を食べる魔物じゃないし。


 なので、人間とお喋りしたい。

 もう、レベル上げは飽きたし、そもそも、森の魔物は、俺の配下のようなものなので、最近、殺すと心が痛むのだ。


 殺して経験値にするなら、森の魔物じゃない魔物がいい。

 俺も、そろそろこの森から卒業したいのである。


 折角、異世界転生したのに、俺のしてたのは、ただのレベル上げだし。

 そろそろ物語を動かしても、良い頃合いだと思うし。


 そもそも、ドラ〇エでも、ずっと始まりの村に居たのでは何も始まらない。

 始まりの村から出て、やっと、ワクワクドキドキの冒険が始まるのである。


 そんな訳で、俺は一計を案じて、「僕、悪い精霊じゃないよ」作戦を、実行に移す事にした。


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 森の精霊さん、ついに100年の引き籠もりから動く時が来たようです。

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