異世界に転生出来なかったから現実逃避する

笠原源水 

第1話 漆黒の魔道士

 は六車線の中央分離帯ちゅうおうぶんりたいにいた。

この世のものとは思えない奇声を発しながら・・・


ぼくがヤっちゃう?」

歩道橋の手すりに、カエルのような座り方をしてサクヤが俺の許可を待つ。


 バディなど必要ないといったのだが、修練になるからとついてきたのだ。

「1人でヤれるのか?」

サクヤの力量は把握済みだ、しかし本人が修練というのだからヤらせるべきだろう。


「あれくらいの雑魚ざこなら、ぼく1人で十分ですよお」

手すりに立ち上がり、臨戦態勢にはいる。


目の前に魔法陣を書き、右手を軽く引くとてのひらから銀のくさびが出現する。(銀の杭は吸血鬼ヴァンパイアにしか効き目ないんじゃないか?)


そんなツッコミを考えながら腰巾着こしぎんちゃく(バディとは絶対言わない)の仕事を眺める。

サクヤがチラッとこちらを見て、片方の口角を上げ魔法陣中心に右手を突きだした。


銀の楔は魔法陣をまといながらに命中した・・・が・・・消滅させるほどの威力はなかったようだ、怒りを込めた奇声を発しながらこちらに向かってくる。


「な!あんなザコがなんで?くそーっ!もう一度・・・ぐぎゃ」

サクヤの手を掴み空中に放り投げた。


水晶のナイフを作り出し、サクヤが作った魔法陣よりも大きく強力な物もろとも、こちらに向かって来るに向けて放出する。


「ギーーーーーーーーーーーーー×▽⁉」

魔法陣に吸い込まれたは、最後の雄たけびをあげて空中で消滅した。


「さすがですね黒木さん、ぼくのこと投げた一瞬の隙にヤっちゃうなんて」

「足手まといになるなら、次からはついて来なくていい」


「そんなこと言ってぇ!ホントは助けてくれたんでしょー?もう!ツンデレなんだからァ」

歩道橋に上手く着地したサクヤは、クネクネとからだを揺らしながら一人で悶えていた。


 黒髪 黒い服 黒い靴 黒の革手袋、外灯の無い真っ暗な夜道に紛れ込んでしまう姿は、同業者から漆黒しっこく魔道士まどうしと呼ばれている。

黒木、名前まで黒いのか。


 この国には、闇の世界から侵入してくる物が後を絶たない。その侵入物から人間を救うのが魔導士だ。

国が魔導士を求めた結果、無報酬の国家資格に認定された。


「黒木さま~~~おかえりなさいませ~!お疲れになったでしょう?お風呂になさいます?お夜食がいいかしら?それともわ・た・し?」


帰宅するなり黒髪Fカップゴスロリメイド服のシスターに、大昔のコントネタでまとわりつかれ鳥肌が立つ。

「うざい」


 Fカップを振りほどいて、階段を駆け上がる。

教会の二階部分が自室で、魔道士の資格を取得していれば個室が持てる。サクヤのように修行中の者は礼拝室隣りの大部屋だ。


部屋のカギをかけないと、深夜でも明け方でもあのゴスロリシスターは侵入してくるからな。

どんなに嫌悪けんお丸出しにしてもめげないし、梯子はしごを使って窓から入ろうとしたこともあるから、闇の侵入者よりたちが悪い。


就寝前に、明日朝食の後に礼拝室れいはいしつへ来るようサクヤにメールを送る。

 

 翌朝、サクヤは礼拝室の最前列で足を投げ出すように椅子いすに座っていた。

後ろから近づきながら、サクヤに質問した。

「なぜ呼ばれたか、わかるか?」


「昨日の反省点ですよね?でかい口叩くちたたいたのに、消滅させられなかった」

椅子の背もたれに首をのけぞらせ、緊張感のかけらもない格好で返事をする。


「そうだ。理由は?」

「ぼくの力が及ばないから?」


「違うな。あのくらいのヤツならサクヤでも十分だ、呪具じゅぐの選択を間違えただけだ」

試験のような会話だが、本人に気づかせなければ意味がない。


「えーーと、銀の楔がダメだったんですかァ?ナルトみたいで格好いいと思ったんだけど」

「俺たちは忍者では無い、魔道士だ。昨日のアレはヴァンパイアか?」

「あっ!銀のくいはヴァンパイアしか効果が無い?だからか!」


 専門の学校があるわけではない、後輩を育てるのも資格者の役目だ。

「書庫にある本は読んでいるのか?この街には、いろんな人間がいる。俺の言わんとすることがわかるな?」


「了解です。今から書庫に向かいます、では」

サクヤは説教から逃げるように礼拝室を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る