第2話 神々の力

「ちょっと待った!」

「何よ?」

「暗黒神はちょっと!俺、善良な一市民だから!」

「彼は最強なのよ?他はパワー的に見劣るわ」

「ほか?他にもいるの?」


 そう言うと彼女のオーラが消え、普通に戻った。そして俺をじっと見つめると、傍らから椅子を一脚取り出し、机の前に置いた。


「まあ、座って」

「はい……」


 彼女も自分の椅子に座り、俺と彼女は机を間にして向き合った。



「さて、何から話そうか?」


 気のせいか彼女は嬉しそうに見えた。俺は気付いた。これはウンチクを話したくて仕方がない目だ。キラキラしている。


「そうねえ……まず、一般的には暗黒神を使うのよ。力が強いから。その中でもハイドリオンは最高!……まあ、私の場合だけどね」


 目が爛々と輝いている。あ、今一般的とか言ってたと言うことは、もしかして暗黒神以外にもいるんって……。


「あの、やはり暗黒神さんを使わないといけないので?……善神さんとかはいらっしゃらない?」

「ああ、うん。いるけどね」


 やはり居たか。良かった。


「そちらではダメ?」

「うーん、彼らは何と言うか、やんわりと言うか、インパクトが無いと言うか……」

「戦闘向きじゃない?」

「あ、そうそう。そうとも言うわね。潜在パワーはあるらしいんだけどね。あ、他にも神はいるのよ?……知りたい?そっかー、じゃしょうがないな……」


 そう言うと、彼女は絵の描かれた薄い本を取り出した。表紙を俺に向けてニコニコしている。表紙には紫色の男。多分何かの神なのだろう。


「これ、神様図鑑!凄いのよー!全てのパワーソースになる神が書いてあるの!」

「……パワーソース?」

「アームスの……」

「アームス?」

「……あー……えーと……分からないのか。となると……その仕組みからか。じゃあ、その辺から説明したげるわ」


 俺はとりあえず頷いた。


「いま私達が使っているテクノロジーはアームスって言うんだけど……」

「……魔法ではない?」

「魔法……うーん、そうね……いや、アームスも魔法の一種なんだけれど、最新のやつと言うか」

「へー……」

「古い魔法は自然界の力を利用したり、精霊の力を借りたりするんだけど……もっと強力な力を使えるようにしたと言うか……」


 なるほど。精霊魔法の上位バージョンみたいなものか。

 と、彼女はすっと立ち上がり、ポーズを構えて歌うように語り始めた。


「そう、今から時を遡ること四千年前のこと――。始祖ロンゼンが、ある寒い夜にトイレに起きた時――。月が窓の外に煌々と輝いていた。寝ぼけたロンゼンは……」


 あ、これ、止めないといけないやつだ。


「あ、いや、興味深そうな話なんですけれど。歴史は一旦置いといて。もっと実践的な話をお願いします」

「そう?面白い話なのよー?」

「……この俺の手の紋章の話を!」

「ああ、そういや、そうだったわね。まあいいわ」


 彼女はニ瞬ぐらい考え、何故か一回転し、俺を指差してこう言った。


「神々の力を使う魔法。それがアームス!」


 分かりやすい。俺は思わず拍手してしまった。



「で、パワーソースなんだけど……」


 彼女はそう言って本を広げて中身を見せてくれた。ページごとに神様の絵と説明が書いてある。男も女もいて、なぜか、たいてい薄布をまとっている。


「そうねー……」


 彼女はページをパラパラめくりながら、俺の方をチラチラ見ている。


「あの……性格良さげな神様を……?」

「あー、えっとね。どの神でも良いって言う訳でも無いのよ?」

「え、そうなので?」

「その人が持っている力があるの。それと共鳴する神である必要があるの」

「なるほど。だからエルフさんは暗黒神ハイドリオンな訳ですね」

「そう、私と共鳴するの。ハイドリオンは水を操る神でもあるし」


 彼女はそう言うと、掌から水球を生み出して見せた。水球がジョボジョボと音を立てて回っている。彼女が手をかざすと、水球は天に向かって飛び、弾けた。霧のような雨があたりに舞い降りた。


「あなたのその謎の紋章、水系には見えないのよね。私の知る限り、どの傾向かまるで分からない。似ているのは炎系なのだけれど……」


 彼女はあるページを俺に見せた。ある神様の下に、俺の手の紋章と似たような形の紋章があった。


「カドが多いのよねー。ディティールも違う」

「なるほど……」

「じゃあ、どうしようかなー……この子は?」

「この子?」


 そう言うと彼女は一人の女神のページを見せてくれた。あの……薄布が透けて色々見えているんですが……そこは見ないとして。緑色の髪をした……いや、髪じゃなくて蛇だな。うん、これ蛇だ。


「こ、この方は善神さんなので?」


 彼女は首を横に振った。


「善神さんをって、俺、言ったじゃないですか!」

「相性いいかなーって」

「相性……」

「動かないと意味無いし」

「それはそうなんですけれど……」


 右手に血まみれの斧持ってるし……大丈夫なのかこれ?


「他には……?」

「とりあえず試してみない?分かんないし」

「危険なのでは?」

「大丈夫よー、一瞬チクッて激痛が走るかもしれないけれど、彼女があなたを試すだけだから」

「今、激痛っていいましたよね?」

「一瞬だから。次の瞬間には忘れるわ」

「他がいいです!」

「えー……それじゃあ……」


 彼女はまた本をパラパラとめくり、あるページで手を止めた。


「あー……いや……でも……うーん」

「見せて下さい!」

「うん……いいけど……」


 そこには麗しい姿の女神が描かれていた。髪の毛チェック……良し。まともそうだ。


「この女神様を!」

「いいけど……ほらここ。『用面接』って書いてあるでしょ」

「書いてますね」

「これ書いてるのってたいてい気難しいのよ。悪いこと言わないわ。激痛で我慢しなさい!」

「いや!激痛より面接の方がいいですってば!どう考えても!」

「そう?一瞬とだらだら長引くの、どう考えても一瞬の方が……」

「いや、こっちでお願いします!」

「……しょうがないなぁ……」


 すると彼女は傍らから黄色い本を取り出すと、椅子から立ち上がって詠唱を始めた。


「我、故ありて、古の契約者ロンゼンの名において、ここに女神アスターシャを召喚せん!ラ・エスタ・シルバ!」


 彼女が杖を一振りすると、地面に黄色の光る魔法陣が現れて、何かおぼろげな緑色の光が中心に集まりだした。

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アームス kumapom @kumapom

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