世界の危機だが、お休み期間
第15話 家なし金なしお咎めなし
う~ん。
ベッドで眠っていた私は寝起きで状況を確認する。
もう朝か。
昨日はエルと千春と私で祝勝会みたいな感じになって、それで…
「魔王様…私が、必ず…」
ん?
今横から声が…
見ると、3つの目を全て閉じたエルが私の横に眠っていた。
「はあ!?なんで!?」
慌てて飛び起き、ベッドから降りようとした足を今度は掴まれる。
「灯ちゃん…離さないよ…ムニャムニャ…」
どうやら寝たまま私を捕らえた千春も、私のベッドで寝ていた。
そこで私は昨晩のことを思い出す。
終電を逃して帰れなくなった二人の寝る場所を決めようとしたら、二人ともベッド が良いとなったのだ。
その結果、私たちは川の字で寝ることになってしまった。
一人用のベッドなので窮屈だったが、疲れていた私は秒で眠ってしまったわけだ。
思い出しても意味がわからないが、私もお酒の匂いで酔っていたのかもしれない。
とりあえず、
「エルはここから出ていけ!」
「ぶべっ!?」
そうして私は掴まれていない方の足で、ベッドから男を蹴とばす。
レディのベッドに乗り込んでくるとか、いくら酔っていたとはいえやりすぎだ。
そして、
「千春、早く起きて。てか足離して。」
「へへっ…ハネムーンはどこにする?…」
…まだ寝ぼけているらしい。
仕方なく千春も蹴とばし、私たちは朝を迎えた。
「ほらっ!二人とも朝だよ!私が言うのもなんだけど、起きたらシャキッとして!」
「あれ?あ、私蹴られちゃったのか…。へへっ、これはこれで悪くないかも…。」
もう一度蹴ってやろうかと思ったが、反省しなさそうなのでやめておいた。
△▼△▼△▼
「灯様!ほんっとうに!すみませんでした!」
酔いも眠気も冷めたエルの開口一番は、土下座から始まった。
エルとしては私と旧知の仲かもしれないが、私にとっては昨日出会ったばかりの男なのだ。
普通にビックリもするし、何より怖い。
ほぼ初対面の男を家に入れた昨日の私は、余程機嫌が良かったのだろう。
ただ、ベッドに入るのは確かに悪ノリが過ぎるが、昨日止めなかった私も悪いし、 ここは許してやろう。
「今回のことは水に流すけど、次はないからね。」
「ありがとうございます。本当に申し訳ございません。」
だいぶ反省しているみたいだし、これ以上は責められないな。
ただ、土下座したままのエルを文字通り足蹴にする千春はそんなつもりはないらしい。
いや、あんたも同性とはいえ同罪だからね?
千春にも謝ってもらい、私たちは今後の予定を立てるため話し合う。
「私たち昨日と違って、今日は午前から午後まで大学あるから昨日みたいには無理だよ。灯ちゃんもそうだよね?」
千春から無言の圧力を感じる。
行きます行きます。単位ヤバいし、出席日数稼がせてもらいます。
「ふむ、そうなれば僕一人だけですか。それでは今日の臣下探しは中止ですね。」
エルは私が大学に通うことに反対はしないようだ。
それに関しては本当にありがたい。
なにせ、後1回行かなかったら落単の講義が割とあるのだ。
「それでは僕は臣下の場所を一人一人見つけ出しましょう。灯様、この世界の地図はありますか?」
そう言われたので、私はプリンターでA4の世界地図を何枚か印刷する。
「これでいい?小さいけど書けそう?」
「ありがとうございます。これなら問題ないかと。しかし、この世界はかなり複雑な形ですね…。」
エルがいた世界ってどんなところなの?って聞こうとしたが、私は魔王ということになってるし、胸の内にとどめておいた。
すると、千春が口を開く。
「とりあえず、私たちもうそろそろ大学行かなきゃだから、灯ちゃんの家から出て行ってね。服も昨日のままは汚いし、自分の家で着替えなさい。」
「ご心配なく、服くらいなら魔法で作り出せます。それに、私は灯様に同行する身です。私ももちろん大学に行かせてもらいます。」
エルは強引にでも付いてくるようだ。
大学は部外者でも入れるみたいだから問題ないだろうけど、あれ?エルってもしかして…
「エル、もしかして自分の家が分からないの?」
「もちろんです。この世界に来た時に一目散で灯様に会いに来たのですから。私は人の居場所が分かっても、体の持ち主の家までは分かりません。」
「一文無しのホームレスじゃん!?」
ダメだこりゃ。
エルのことについても、考えなければいけなさそうだ。
問題は山積み。
{流石我の臣下じゃ。この世界で真っ先に我に会いに来ようとは。我も鼻が高いのじゃ。}
{逆に考えると、あんたに会いに来る臣下は一人しかいないってことだけどね。}
{なんなんじゃ貴様は!?ぐちぐちと…お前にも嫌なあだ名をつけてやるのじゃ!?え~と、え~と}
そんな風に魔王が唸っていると、出発の時間がやってくる。
「とにかく、エルのことに関しては後でいいや。早く大学に行かないと遅刻になっちゃう。」
「感動~。灯ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて。」
「はいはい。私もたまには真面目に行きますよ。」
こうして私たち3人は今日も大学に向かうのだった。
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