第26話 楽勝でしょでしょ?
駅から自宅への道を軽く説明しながら巴は皇と歩いている。その道のりは単調で分かりやすい。
「先輩の家ってこの辺だったんですね」
皇は土地勘があるようだった。
「こっちのほう来たことあった?」
「はい。この通りにボクシングジムありますよね? 小学生の頃、そこに通ってました」
「小学生で!?」
「そうなんですよ。他にスイミングとボルダリングもやってたんですけど」
「何を目指してたの!?」
「……何も」皇は笑って続ける。「親がいろいろやらせたがって、僕も興味があったからやってみたんですけど……みんな長続きしなくて」
「……もしかして皇くん」巴は心配になって聞く。「飽きっぽい性格?」
「そうなんですかね?」
「えー! こまるよー!」
「何が困るんですか?」
不思議そうな皇。
「いや、何がと聞かれると、それもまた困るというか……」
「ははーん、先輩」
「ははーんて」
「僕が先輩のこと飽きちゃうとか、そういうこと心配してるわけですか?」
「キミこそ心の声が読めるのでは!?」
「大丈夫ですよー。ほんと可愛いな先輩は」
皇は爽やかに笑って言う。
「安心してください。一生添い遂げますから」
「やっぱり重い……!」
2人は三船家の門扉を開けて、玄関から屋内に入る。真っ当な順路なのだが、皇はいけないことをしているような錯覚に囚われる。そのまま2階の巴の自室に向かうために階段を昇る。当然先導するのは居住者の巴で、皇の視界には彼女の膝の裏側付近がちらちらと入ってくる。きれいな白い脚が妙に艶かしく、15歳の少年には少しばかり刺激が強かった。
「ちょっと片付けるから、1分待って」
階段を昇りきって一番近くの部屋の前で巴は皇に言い残し、室内へと入っていく。
朝に散らかした服が何着かそのままになっているから、速攻でクローゼットにしまわないとまずい。いくら仮の彼氏とはいえ、だらしのない女だと認定されるのは避けたい。
そこであえて1分と時間を短く設定することで「そんなに散らかってはないんだよ」感を出す。弊害として背水の陣となってしまうが、目を瞑った。
(まぁ本気出せば楽勝でしょ!)
巴は少しだけ荒れた自室の応急処置に取り掛かる。彼女の名誉のために念を押すが、本当にちょっと散らかっている程度であり、1分で楽勝というのも楽観でなく、概ね一般的な感覚だろう。
ただし、前提として本気を出せば——である。本気出せば楽勝ってそれもう楽勝じゃないのでは? なんて野暮な突っ込みはノーセンキュー。全力でこれに当たり、その結果としての楽勝なのだから。
——とまあ、巴にそんなことを考えている余裕は当然ない。お片付けに全集中。それが目下の最優先事項なのだった。
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