異世界転送救助隊

空棺

第1話 はじまりました

 自分の名前は、西木 涼介。今日は日曜日で、朝起きて、家を出て電車に乗っていた、ハズだ。

 別に自己紹介がしたかった訳ではない。


 目に映るのは、電車の中ではなく、体育館くらいありそうな広い部屋。レンガ造りの少々古めかしい内装に赤い垂れ幕が目に優しくない。壁際には多数の甲冑が並んで飾られている。


 夢なのかな?それともどこかのアトラクションに迷い込んだ?ということで冒頭の自己確認を行ってみたところだ。周りには十数名ばかりの人がおり、スーツ姿のサラリーマン風男性から親子連れまで見かけられ、少々ざわついている。


 やっぱり夢なのかなぁと少しぼんやりしていると、奥のほうの数段高い場所から声が上がる。


 「戦士たちよ、よくぞ参られた!」

 え?


「諸君たちは、選ばれしモノとして我が国により召喚された!」

 と大声で話し始めるのは、中世風な衣装を着た壮年男性。

「現在我が国は、多数の──」


「あのー、」

 そこでサラリーマン風男性が手を挙げ中世風衣装の話を遮り、

「私、仕事中でしてこのイベント?アトラクションを辞退したいのですが、ここ電車の中ですよね?ターミナルに向かっていた――」


「貴様、陛下の言葉を遮るなど!不敬な!」飾られていた甲冑と思ったら、中に人が入っていたらしい。2人の鎧男?がサラリーマン風男性を床に倒し取り押さえる。


「痛っ、なにを!」

 男性は抵抗しようと藻掻くが、鎧男たちはそれを許さない。

 それどころか、大人しくさせようと殴りつける素振りを見せて

「良い」と陛下?がそれを止める。


 あれ、これってもしかして夢でもアトラクションでもなく、近頃噂に聞く異世界転移??


 ―――


 取り押さえられた男性は大人しくなったが、あれだけ重そうな鎧男2人にのしかかられて大丈夫か?

 しかし、飾りと思われた鎧はまだ多数壁際にある。微動だにしないが、全部中に人が入っているのだろうか。出入り口と思われる大きな扉は、陛下の後ろ。下手に動いたら、他の鎧も動き出してこっちまで取り押さえられそうだ。


 妙な緊張感が召喚された十数名の間に広がる。

 その緊張感の中、陛下が

「諸君らが混乱するのも仕方がない。此度の召喚の儀式は我が国最大の魔術儀式であり――」


 Biiiiiiiiiiii!


 大きなノイズで再び陛下の言葉が遮られる。

 音の発生方向を見ると、小学生くらいの女の子が小さな端末を手に固まっている。


 防犯ブザーだあれ。


 そうだ、端末、通信端末だ!

急いでポケットを探ると、最近買い替えたばかりの通信端末が手に当たる。


 取り押さえているのとは別の鎧男が動き出す。やっぱり中に入っていて、女の子を取り押さえようとするのだろう。


 こんな時はどこに掛ければいい?警察か?繋がるのか?間に合うのか?


 ちょっと震える指で番号をプッシュする。


『ツーツーッカチ ザザッ ガサッ

 はい、事故ですか?事件ですか?』

繋がった!




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