第14話 研究の理由
バルト団長は怪訝な顔をした。
「し、知りません……アシェルト様が暴発の原因を探るためにあの魔導具を研究しているとしか……」
いや、違う。私がそう思い込んでいただけか。ずっと魔導具の研究をしているのは知っていた。でもそれはラシャ様を死に追いやった魔導具を調べているのだと思い込んでいただけ。
アシェルト様が開発したものならば、自分の作った魔導具が暴発して恋人を死に追いやっただなんて耐えられるはずがない……。
今、取り憑かれたように研究をしているのは、自分のせいだと思っているのか……それとも自分が作った魔導具が暴発するはずなどない、と思いたいだけなのか……。
「あの魔導具はアシェルトが開発したんだよ。しかも管理もアシェルトが行っていた……」
「アシェルト様は……自分が作った魔導具がラシャ様を死なせた、とは認めたくなかったんでしょうか……」
詳しく話を聞きたかったが、バルト団長は眉を下げながら首を横に振った。
「それはアシェルト本人に聞いたほうがいい。俺にはあいつの心の奥底までは分からない……」
そう言うと悲しそうな、寂しそうな、そんななんとも言えない顔でバルト団長は笑った。
そして、今日はもう帰れ、と促され、私は後ろ髪引かれながらも団長室を後にした。
団長室から城門へと歩く間、ノアが見送りがてら一緒に歩く。
「アシェルト様が開発した魔導具なら、やはり自分のせいで、という思いが強過ぎて、事故だと思いたくなかっただけなんじゃ……」
「うん……」
ノアが整理するように呟くと、私も頷いた。アシェルト様が事故でないと思っているのなら信じたいとは思っていたが、話を聞いていると、やはり事故死としか思えなかった。
それからはお互いなにも言葉に出来ず、城門までたどり着いてしまった。
「ノア、ありがとう。また明日ね……」
「あぁ……また明日」
手を振り別れる。
明日も来るのか? もう終わりではないのか? と聞いてこないノアに心のなかで感謝した。
アシェルト様の家へと戻る間、ずっと考えていた。
アシェルト様が開発した魔導具。本来ならアシェルト様が使うはずだった魔導具。
アシェルト様はなにを思って魔導具の研究を続けているのか。自身が作った魔導具が暴発するはずがないと思っているのか、ただ単に魔導具の不備を見付けたいだけなのか。
しかし、アシェルト様はずっと事故ではないと思っている。もし魔導具の不備だとしても、アシェルト様がそんな不完全なものを使用するとも思えない。ということは、やはりあれは魔導具の不備ではないということ?
でも、ラシャ様が使った魔導具はアシェルト様が使うはずだった。
それならばもし……万が一命を狙ったものだったのだとしたら……あれはラシャ様を狙ったのではなく、アシェルト様を狙ったということ?
ぞわりとした。ラシャ様のことは私は会ったこともなく、話でしか知らない。だから実感がなかったのだ。でも、アシェルト様が狙われたのだとしたら、一気に現実味を帯びてくる。
怖い……。
アシェルト様が狙いならば、今もまだ狙われている?
魔導師団で話を聞けば、なにかしら真実に近付くのではと思っていた。しかし実際は話を聞けば聞くほど、なにが真実なのかが分からなくなってきてしまった。
そんな悶々とした考えのまま家へとたどり着いてしまい、玄関を開けなかへと入ると、いつも静かな家のなかから、物音が聞こえ、アシェルト様が顔を出した。
「ルフィル、おかえり」
「え、あ、アシェルト様、ただいまです。出迎えなんてどうしたんですか? いつもなら研究室から出てこないのに」
なんだか頭が混乱しているせいか、いつもより口数が増えてしまった気がする。アシェルト様はそれが分かってか分からずか、私のことをじっと見詰めてくる。それにたじろいでしまい、ますます挙動不審に……。
「なんですか? どうしたんですか?」
「いや……今日はなにか聞けた?」
「えっ」
あからさまに驚いてしまい、しまった! と思ったがもう遅い。
「なにか聞けたんだね?」
魔導師団で聞いたことは全て報告することを約束している。だから黙っておくことなんて出来ないことは分かっていた。でもまだ私のなかで整理出来ていないのよ……。
「とりあえずローブを脱いでおいで」
「はい……夕食の用意もしますね。話はそのときに……」
「分かった……」
私は部屋でローブを脱ぎ、どう言ったら良いのかを考えていた。
「考えるだけ無駄かしら」
そう呟き苦笑する。どう考えても上手く話せる自信は全くない。
小さく溜め息を吐き、キッチンへと向かった。夕食の準備をしていると、いつもなら出来上がるまで研究室にいるアシェルト様が、なぜかこの日はずっとキッチンにいた。
背後からの視線に居心地悪くなりながらも、必死に平静を装い準備を進めた。
「僕も手伝うよ」
「えっ!?」
突然アシェルト様が私の横に立ち、私の顔を覗き込んだ。その仕草にさらりと綺麗な銀髪が肩から滑り落ち、綺麗な水色の瞳が間近で私を見詰めていることにドキリとしてしまう。
「なにをしたらいい?」
「え、あ、えっと、そうですね……」
慌てて視線を外し、手元を見ながら話す。緊張していることを悟られたくなくて、必死に平静を装ってはいるが、きっとアシェルト様にはバレているんだろうな、と思うと、苦笑してしまった。
「えっと、そうですね、カトラリーを出しておいてもらえますか? それからそっちのお皿を……」
今日はあまり手の込んだ料理は出来なかったため、保存してあった干し肉を使ったスープとパンとサラダだ。アシェルト様にはサラダを取り分けてもらい、パンと共にテーブルに並べてもらう。そして鍋からスープを取り分け、テーブルに並べると、二人揃って夕食をいただく。
食事をしている最中、アシェルト様は魔導師団のことは一切聞いてこなかった。そのため私もなにを話したら良いのか分からず、お互い無言となってしまった。沈黙のなか、カトラリーが皿に当たる音だけが響く。
そして食べ終わり後片付けをしているとき、アシェルト様が口を開いた。
「それで、今日はなにか聞けたのかい?」
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