第13話 暴発した魔導具の使い手
魔導師団は四つの部隊で編成されている。攻撃専門の第一、第二、治癒専門の第三、そして魔導具などの開発や回復薬などの研究をする第四。
団長はバルト団長一人。全ての部隊を管理している。
団長の補佐として副団長が二人、そして部隊ごとにいる部隊長が主にその部隊を纏めている。
遠征や事務仕事、訓練や実験など、各部隊が持ち回り制になっているため、それぞれ休憩時間が違ったりする。
ちなみにノアは第一、私も魔導師団にいた頃は第一だった。治癒のような繊細な魔法より攻撃系のほうが得意だったのよね。アハハ。
一応治癒も使えないことはないが、人間得意不得意があるものだ。アシェルト様みたいに魔法において全方面に完璧な人間はまずいない。
大体皆、得意不得意がある。治癒魔法はその治癒する箇所を感知するところから始まる。
さらにその感知した箇所の原因を突き止め、それを治癒するために原因である箇所に合わせた魔力を細かく照射させていくのだ。
正直言って、こんな集中力のいる魔法はないと思っている。それを戦いの最中であろうが発動させる第三の魔導師たちには尊敬の念しかない。
ノアが訓練時間のときは、食堂や休憩室にいるのは、大体第二と第四だ。
第一が訓練中のときに同じ攻撃専門部隊の第二は休憩をしている。第三と第四は主に外での訓練はほぼないので、休憩は各々自由に取れる。
ということで、第一の皆に話を聞くのは後回しにし、休憩をしている部隊の人々に少しずつ声をかけていくようになった。
最初のうちは皆、やはり何年も前の記憶はかなり朧気で口々に「覚えてないなぁ」といったものばかりだった。
しかし、何日も通うにつれ、ほんの少しだが当時のことを思い出してくれる人も出てきた。
騎士団や魔導師団が使用する食堂。そこに集まる休憩中の人々。そこでは様々な会話が飛び交っている。
訓練についてや、遠征について、仕事についての会話であったり、プライベートの話題も多く飛び交う。新たな魔導具が開発中らしいぞ、という話も聞こえてくる。
それを耳にし、そういえば、と、ふと思い出す。確かラシャ様が亡くなったあの魔導具も開発されたばかりの新しい魔導具だったはず。
当時アシェルト様の行方を聞いて回ったときに、そんな話を聞いたような。
アシェルト様やバルト団長と同期の先輩方。その先輩方が休憩中のときに話を聞いてみた。
「あの、ラシャ様が亡くなったときの魔導具って確か、開発されたばかりの魔導具だったんですよね?」
「あぁ、確かそうだったかな? 使用実験は行われていて、使用者の安全性は確保出来てからの使用ではあったはずだけどね」
先輩は顎に手をやりながら、斜め上を見上げ、遠い記憶を呼び戻しているようだ。
「それにそういえば確かあれってアシェルトが使うはずだったやつだよな?」
「え!?」
先輩方は顔を見合わせ、皆が「そういえば」と頷き合った。
「危険な魔導具には誰が使ったか把握するため番号がふってあって、それを自分に割り振られた番号の魔導具を取っていくんだ」
「そうそう、でもあのときラシャは自分の魔導具がなにかおかしいからと、アシェルトのものと交換していた気がする」
お互いの記憶を照らし合わせるように、思い出しながら先輩方が話す。
さらに横で食事をしていた、別の先輩も身を乗り出して来た。
「俺も思い出した! あのとき事故にしてはあまりに酷いものだったから、当時団長だったアシェルトも調査委員会に取り調べられてたよな」
「あー、そういや、そうだそうだ」
「でもアシェルト自身が憔悴しきっていて、殺したなんて考えられないと判断されて、事故として処理されたんだよ」
「それからアシェルトは取り憑かれたように研究に没頭し始めたんだ」
先輩方は目を合わせ、当時を思い出しているのか少し悲しそうな顔となった。
「皆さんにも辛い記憶だろうに、思い出させてしまいすみません……」
アシェルト様ほど悲痛な表情な訳ではないが、それでもやはりラシャ様と同期の先輩方にしたら辛い記憶であるのには間違いないはずだ。
それが申し訳なく思い、素直に謝罪を口にすると、先輩方はニッと笑い私の頭に手を置きワシワシと豪快に撫でた。
「まあ辛い記憶は確かだが、もう何年も前の話だ。いつまでもグジグジしていたらラシャに笑われるよ。アシェルトもそれに早く気付くと良いんだがなぁ」
そう言って先輩方は懐かしい記憶に思いを馳せるように笑った。
先輩方にはお礼を言い、他の人にも聞いて回ったが、この日はこれ以上の話は出て来なかった。
「元々はアシェルト様が使うはずだった……」
今日はもう終了しようかと、団長室へ向かい歩いている最中、ノアがボソッと口にした。
それは私もずっと気になっていたこと。
「だからアシェルト様はあんなに責任を感じて……」
私も同様に呟いた。
アシェルト様が元々使うはずだった魔導具が暴発し、ラシャ様が亡くなった……。
アシェルト様がそのことを知っているのだとしたら、自分を責めるに決まっている。だからこそあれは事故ではないと思いたかっただけ?
ノアも私も無言だった。答えが出ているような気がしていたのかもしれない。
アシェルト様を否定したくはない。でも……。
団長室へ今日の聞き取りは終了し、帰ることを報告しに行くと、バルト団長はいつものように、なにか分かったことはあるか、と聞いてくる。
私は一瞬躊躇ったが、でも先程聞いた話をバルト団長が知らないはずはないだろう。だから今日聞いた話を全て報告した。
バルト団長は頷く。
「あぁ、俺も当時その話は聞いた。本来アシェルトが使うはずだった魔導具だった、と。だからだろうな、アシェルトはなおさら責任を感じたんだろう」
そしてバルト団長は小さく溜め息を吐いたかと思うと、少し躊躇うようにしながら言葉を続けた。
「なんせあの魔導具はアシェルトが開発したものだ、ということもあるしな」
「!? アシェルト様が開発!?」
「なんだ、知らなかったのか?」
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