【コミッション】過去も未来も、この手の中に

霧江サネヒサ

過去も未来も、この手の中に

 先輩は、地元では有名な未来人だった。いや、正確に言うと、子供の頃にUFOに拐われて、未来を見てきた人らしい。

「もうすぐ、ひとり一枚板切れみたいなパソコンを持つ時代が来る」とか、「離れた土地の人ともカラオケが出来るようになる」とか言って回っていた。

 そうして、ついた渾名が、“ほら吹きおじさん”である。小学生たちがそう呼んでいた。

 しかし、現在。先輩のほらのほとんどは、現実になっている。

 みんなスマホを持ってるし、配信アプリで遠くの人ともカラオケが出来るようになった世界。私と先輩は、そんなSFみたいな現実を生きている。

「それじゃあ、先輩、宇宙人も本当にいるってことですか?」

「いるよ。地球人がモノリスに辿り着いたら、大使を送るってさ」

「へぇ」

 嘘くさい。しかし、先輩の言うことは、真実になってきたし。

 ということは、軌道エレベーターも造られるし、宇宙旅行も出来るようになるのか?

 にわかには信じがたい。

 でも、先輩は嘘つきじゃないし。と、堂々巡りする思考。

「先輩、私たちって、いつまで一緒にいられますかね?」と、なんとなく質問してみる。

「死ぬまで」

 先輩は、笑いながらそう答えた。

 死ぬまでかぁ。長い付き合いになりそうだ。

 そう思ったのが、半年前。

 夏の暑い日に、先輩は亡くなった。

 死ぬまでって、自分が死ぬまでって意味だったんですか。

 先輩は、亡くなる前に、私にひとつの箱を遺してくれていた。

 お葬式の後、自室で、それを開けると、先輩の日記が入っている。

 子供の頃に描いたのであろう絵日記から、最近書かれたものまで。

 絵日記をめくると、例のUFOに拐われた時のページに辿り着く。

 そこには、未来の私に会ったとも書いてあった。

 幼いながらも、懸命に記されたそれを読み解く。

 どうやら私は、UFO、いや、タイムマシンを造り、子供の頃の先輩に会いに行くらしい。

 その日から、私は、タイムマシンを造る研究を始めた。絶対に到達出来るという確信があるから、私は諦めない。

 そして、数年後。私は、タイムマシンを完成させた。

 さっそく、先輩が子供だった時に飛ぶ。

「こんにちは」

「わっ!? 宇宙人?!」

「そうかも。そして、未来人でもある。君の知りたいことを教えてあげる。何が知りたい?」

「好きな子のほしいもの! もうすぐたん生日なんだ」

「じゃあ、未来を見に行こうか」

 先輩、私が欲しいものは、あなたと過ごす時間だったんですよ。

 先輩との思い出と、遺された時間を抱いて、私は生きよう。

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