第8話『残虐兵器撲滅少女ティアドロップ⑧』

 町外れの森の中、黒いローブで全身を纏い、不敵な笑みをこぼす。


「お前が酒場を燃やしたのか?」


「あら怖いわぁ、私はただの奴隷商人よ。それよりもウェイトレスの格好をしたそれが魔族って本当かしら」


「だったらなんだよ」


 リリアがソフィアをぎゅっと力一杯抱きしめる。


「奴隷にかわいい服着せるだけ無駄だなぁ……って思っただけよ。」


 女は不敵な笑みを浮かべながら挑発するように言った。


「こんな可愛い子を奴隷として売りに出そうなんて趣味が悪いぜ!」


「あらまぁ、褒めてくれるなんて嬉しいわね…。でもね、この子は商品にするつもりは無いの。私の大事なコレクションにしようと思ってね!」


 奴隷商の女の高笑いしながら話している。その声は薄暗い森に響き渡り、さらに緊迫感を増していく。


「コレクションだと?」


「そうよ。私は集めた奴隷を育てるのが趣味でね。もちろん人間として育ててるわ。まあ、何人かはもう死んじゃったんだけどね!」


「どうせお前が殺したんだろう? その時点で人間扱いなんかしてねぇーだろ」


 笑いながら話す女に俺は苛立ちを隠しきれない。


「それにしても、あの酒場は汚い魔族にご飯を運ばせるのね? 反吐が出るわ。燃やして正解ね」


 ソフィアとリリアに向かって奴隷商の女が挑発するように言うと。リリアは顔を真っ赤にして叫んだ。


「さっきから黙って聞いてたらいい気になってんじゃないわよ!」


「ちょっと言ってみただけだじゃない。怖い子ねー」


 奴隷商の女は相変わらずニヤニヤと笑っている。


「くそっ、どこまでもふざけた奴だな」


「うふふ。私、ふざけるの大好きなのよねぇ」


 奴隷商の女は楽しそうに話し、さらにリリアに向かって話し始めた。


「ねえ、あなたも魔族よね? だったら私のコレクションにならないかしら?」


「断る」


 リリアは考える暇など無く即答した。


「あら残念。せっかく仲良くできると思ったのに……」


 奴隷商の女はため息をつくような仕草をした。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はイリーナっていうの。よろしくね?リリアちゃんと……シャルマン・アルゼンフート君。ふふふ。」


「なぜ俺を知っているんだ?」


 俺は怒りで名乗るもんかと思っていたが、奴隷商から自分とりりあの名前が出た事に驚きを隠せなかった。


「あら、あなた達のことは奴隷商で知らない人はいないわよ?」


イリーナは意気揚々と答えた。


「それと、紹介が遅れちゃったわね。おいで」


 そう言うと黒い蛇型の残虐兵器が現れ、イリーナの首に巻きついた。


「かわいいでしょ? 私のペットなの。この子の牙には毒があってね。これで何匹もの奴隷を殺したのよ」


「……匹って、ほんと私達をなんだと思ってんの?」


 そう言ってリリアは臨戦態勢を取り、イリーナを睨みつけた。


「あら、奴隷ごときが人権主張なんて甚だしいねぇ」


「……っ」


「ねえ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


「聞くわけないだろ」


 俺が即答すると先程までの不敵な笑みが消え、イリーナも臨戦態勢に入った。


「……じゃあいいわ。力ずくで奪うまで」


 イリーナが手を前に出すと黒蛇は腕にぐるぐると巻きついていく。


災禍不滅炎サイカフメツノホムラ


 次の瞬間、イリーナの手に巻き付いた黒蛇がリリア目掛け、凄まじい炎を口から吐き出した。


「ティアドロップ‼︎」


 俺が大声で唱えると、リリアの姿はなくなり、俺の手のひらに球体が現れた。そしてその球が飛んでいき、球体からレーザーを放ち、炎を打ち消した。


「あーん! 凄いわそれ これが魔人器ってやつなのね!」


 イリーナは自分の攻撃が打ち消された事よりも、魔神器を使う俺らを見て興奮している姿に心底虫唾が走った。


「えっ! 魔人器になれたんですか?」


 ソフィアが大声で驚いた。無理もない。


「確か、魔人器って噂では魔族が人を愛し、無惨にも命を経ってしまった時その好きな人専用の武器として生まれ変わるって言われていたと思うのだけど合っているかしら?」


「ああ、間違いないな。」


「私もね。それが欲しくて何匹も何匹も奴隷をコレクションし、餌を与えて、殺したのだけど一向に魔人器になってくれないからデマだと思っていたのよ」


 そう言うイリーナの表情は、子供がずっと欲しかったオモチャを初めて手に入れた時のように興奮していた。


「そうかよ。そこに愛がねぇからだろ?」


「あら、それは残念だわぁ。でも大丈夫よ。また新しいコレクションが増えるのだから」


「ふざけるな! これ以上魔族は誰も殺させない!」


「じゃあ見せてもらうわよ。あなたのその覚悟がどれほどのものか」


 イリーナはニヤッとした表情を浮かべた。


「……いくぞ。」


 全神経を指先に集中させ、ティアドロップを動かした。


「あら、やる気満々ね。じゃあ、私も本気で行くわよぉ……黒蛇・絞殺コクジャ・コウサツ


 イリーナの腕から黒い蛇がするりと抜け落ちると勢いよく俺に飛びつき体を締め付ける。


「うっ……」


 全身に強い痛みを感じた。


「やはり噂通りね。魔人器を扱う人間は残虐兵器からは魔族として扱われるみたいね。ほーら、どう? 痛いでしょ? もっと苦しんでちょうだい!」


 さらに強く締め付けてくる。


「……ぐはぁ!」


 肺の中の空気が全て押し出され、呼吸ができなくなり視界がぼやけてきた。


「ふふふ。あなたもその魔族ももう終わりよ。魔人器は愛する人が命を落とした時対象を失い、消滅する。さあ、私のモノにならないコレクションを早く殺してしまいなさい」


 黒蛇は口を大きく開ける。


 まずいこの距離であの炎くらったらひとたまりもない。


「……ティアドロップ」


 俺はとっさにティアドロップを手元に全て回収し、


「これでも喰らえ!」


 黒蛇の口に無理やり捩じ込んだ。


 すると黒蛇が嫌がり、身体への締め付けを弱らせる。


 そして、体の自由が効くようになった俺はするりと蛇の拘束を抜ける。


「無駄よぉ。そんな小さな玉ひとつで何ができるというの!」


 イリーナは余裕そうに笑みを浮かべる


「それに魔人器は愛の大きさによって姿を変えると聞いていたけれど、あなたのそれは随分とお粗末なモノなのね?」


「好きって口にした数なら負けねえけどな!」


「爆ぜろ」


 俺はそう言ってティアドロップを爆破させる。


 爆風により黒蛇は吹き飛ばされ、地面に落ちた。


「なっ!?」


「驚くのはまだ早いぜ。右見て見ろよ! お前がさっき余裕で避けたティアドロップはお前のすぐ右側に浮いてるぜ」


「え?」


 空中に無数に散りばめられたティアドロップに俺は命令を下す。


「爆ぜろ」


 再び爆発が起き、イリーナが顔から床に倒れ込む。


「嘘……なんなのよ。私が負けるなんて。魔神器さえあれば……。」


「魔族をもの扱いするやつが魔神器なんて使えるわけねぇだろ。お前に関してはそれ以前の問題だけどな。」


 俺はそう言い残すとイリーナは意識を失った。


「……ありがとございます」


 ソフィアが頭を下げる。


「リリア」


 そう俺が名前を呼ぶと手元にあるティアドロップはリリアへと姿に戻った。


「シャルー!使い方乱暴すぎだよ!」


「ごめんなリリア、結構危なかったんだよ!ありがとうな。」


俺は怒り気味のリリアに満面の笑顔で謝罪と感謝を伝え、頭をぽんと撫でた。


「ま…まあ、いいけどね!これでみんなも無事解決したわけだし」


「大丈夫?」


騒ぎに集まった人々は、俺たちの活躍を聞き、次々に感謝の言葉を口にした。


「あなたたちがいなかったら、私たちの町はもう…。本当にありがとう」


と女店主が言う。


「いや、俺たちはただ、できることをしただけだ。みんなが無事で何よりだ」


 ソフィアは人々に囲まれながらも、俺たちの方を見て微笑んだ。


「みんな、本当にありがとう。こんなにも温かい場所を守れて、私は幸せだよ」


 リリアは顔を少しあかめて照れていたが、思い出したように話を続けた。


「そうだ、ソフィアさん。私たちは前にも言った楽園と言う名前で活動する組織の一員なの」


「楽園ですか……」


「主な活動内容は全残虐兵器の破壊とその間の魔族の保護を目的としてるわ」


「……そうでしたね」


 ソフィアが辺りを見渡し、店主を見る。


 店主の女将が少し寂しそうな顔をしながらおもむろに口を開く。


「リリアちゃんって言ったわね。お願いがあるんだけどこの子の保護をしてもらえないかしら……。」


「今回みたいに奴隷商が本気でこの子を奪いに来たら悔しいけど、私たちじゃどうすることも出来ない。」


 そう言ってソフィアを優しい笑顔で見つめた。


「……女将さん」


 ソフィアも女将を見つめた。


「問題ないわ。それにもう会えなくなる訳じゃないから明日にでも世界中の残虐兵器を全部シャルと私で破壊してみせるわ」


 リリアは笑顔で、任せてと言わんばかりに胸を叩いてみせた。


「頼もしいわね」


「女将さん……今まで育ててくれてありがとう。私ちょっとの間出掛けてくるね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 ソフィアと女将は寂しい気持ちを胸にしまい、お互いの幸せを願って離れることを決意した。


「いってきます」

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残虐兵器撲滅少女ティアドロップ 伊達夏樹 @deckmangrove

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