いきなり、最終決戦
「おっ……女の子ぉっ⁈」
公太は目の前に現れた魔神の容姿を観て、畏怖とは違った意味での驚きの声を挙げた。
見た目の年の頃は、ミレーヌよりも若く見えるほどで――小柄な体躯をした、長い黒髪を垂らした少女と言った様相だ。
その様から反する様な、先程から聞こえる老獪な物言い……まずまず、想像に難い容貌である。
「……くっ!」
――だが、側に居るミレーヌの表情が更に険しくなった事に公太は、この魔神と思しき少女が、これから対峙する予定の……"ラスボス"だと思うべきなのだと改めて気付く。
『……ん?、面妖な服装の男だな――もしやこの者が、己らの切り札たる異界の者か?』
公太の姿を目に付けた少女は、ほくそ笑みながらミレーヌに説明を促した。
「――っ!」
しかし、ミレーヌはそれを慨さず、立ちはだかる様に少女と公太の間に割って入る。
『ふっふっふっ……答えてくれても良かろうよ?、エルフィが小娘よ。
せっかくの来訪者と思しき者だ――クートフィリアの者として、歓待の挨拶でもをと思うて尋ねておるのだがなぁ?』
少女は不敵な笑みを浮かべたまま、そう言いながら徐に二人との距離を詰める……
ガサァッ!、バサァッ!
――と、その時!、少女に背後から襲い掛かる、2つの影が公太の目に飛び込んで来たっ!
「おぉぉぉぉっ!!!!!」
一つは、剣を大きく振り被った栗色の髪の若い男――裂帛の気合を表す叫びと共に、少女の右の胴腹に向けて刃を振るおうとしている!
「やぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
もう一つは、長い黒髪を結んで束ね、背へと垂らしている若い女――彼女も、猛々しい気合と共に飛び抜き、見るからに鋭く強烈な回し蹴りを少女の延髄に向けて放った!
『ふん、来訪者を前にしての、礼節がなっておらん様だなぁ!』
少女はそう言ってまたほくそ笑むと、両腕を大きく拡げ、その掌を迫る二つの影に向けて開き、掌に浮かんだ、ドス黒く光る光球をその二つの影に向けて放り投げた。
ドッ!、コォォォォォンッ!
「うわぁぁぁぁっ!!!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!!!」
二つの影――いや、"二人"と激突した光球は、瞬く間に炸裂し、二人は悲鳴と共にその場に崩れ落ちる。
「アルム様ぁっ!!!、チュンファぁぁっ!!!!」
ミレーヌは血相を変え、その二人の名と思しき言葉を泣きながら叫んだ。
「――っ⁉、マジかよぉ……いくらラスボスだからって、圧倒的過ぎんじゃねぇか」
公太も、流石にこれまでの様相には恐怖を覚え、笑顔を湛えながら一歩ずつ近づいて来る、この魔神と思しき少女の顔を真っすぐに見詰めた。
『……ほう?、なかなか肝が据わった異界人じゃな。
我の威容を前にして、目を逸らさずに凝視して見せるとは』
少女は公太の表情を見据えながらそう言うと、更なる破顔を露呈する。
「へっ、へへへへ……随分と、可愛らしい魔神様だと思ってね――見惚れてたのさ」
公太も果たして負けじとなのか、引き攣った笑みを少女に送り、そんな戯れ言を返す。
『ふふふふ……酔狂な物言いをする異界の者じゃな、大したモノだ』
少女はニヤッと笑い、関心した体で公太にそう告げる。
「そ、その可愛い姿は、野盗に殺されちまったって言う、今の依り代――ってトコかい?」
『ふむ、それに気付くかぁ……恰好同様、ますます面妖な異界の者よなぁ。
如何にも――この身は単に、最後の依り代であったのがこの愛いな娘ゆえの名残りじゃ』
魔神少女は、公太の問いに楽し気に応じ……
『愛いな娘の中身が、数万年を過ごした魔の神というのも、うぬの物言い同様に実に酔狂なモノであろうて?』
――と、呆れた様子で頭を垂らした。
『――しかし、うぬは何故、それに気付いた?
小娘が連れて来たのは、ほんの先程に過ぎずぬはず――それでわざわざ、我が姿の事を第一に尋ねたは、小娘からは我が姿の事を聞かされていない証』
「くっ、口が開いていなかったからね、喋る時に……周りの、魔力の波動みたいのが、
顔をしかめて尋ねる魔神少女の言葉に、公太は冷や汗を掻きながらそう答える。
『異界から魔の力が失せ、異界人は魔とは違った術へと舵を切ったと聞いて久しいが――頭の中は、まだまだ萎んでいない様だのぉ』
魔神少女は関心した体でそう呟くと、公太に渋い顔を見せ……
『――時にうぬよ、その五体の様……病でも患った、馴れの果てと見受けるが?』
……と、彼の右半身へと指を指して尋ねた。
「あっ、ああ、そうだ……」
「――ふむ、そうかぁ……」
魔神少女は公太の返答を聞くと、鋭い眼光をミレーヌへと向けて……
『……"スーデル"の事を知って、それを交渉材料としたか――賢しいな、エルフィの小娘も』
――と、微かな笑みを造りながら、そんな事を呟いた。
その時!
ブゥゥゥゥン……ガチッ!
――と、魔神少女の背後に現れた、魔力で生成されたと思しき光る鎖が彼女の身に纏わり付き、その身を拘束した。
『おや?、これは……』
「ミッ!、ミレーヌ様ぁっ!、アルム様ぁっ!」
魔神少女が顔をしかめ、自分を拘束した魔法の鎖を手に取って眺めている所に、先程の馬蹄と車輪が回る音と共に、声高に叫ぶランデルの声が響いた。
「――サラキオスっ!、召し捕ったりぃ~~~っ!」
同時に、馬車を御すランデルの幌の窓から手を伸ばし、例の魔法の鎖を振るっている張本人――ブロンドの長髪を背に垂らしている、ミレーヌと同じ形の耳をした男がそう呼ばわった。
「!!!、ローラン!」
「はぁぁぁぁっ!!!」
ミレーヌが顔を上げ、名前らしき言葉を叫ぶと、そのエルフ……ローランは魔法の鎖を操り、魔神少女の身を振り回す体で例の魔方陣の上へと引き摺る。
『ほほぉ……例の短剣を忍ばせている、ヒュマドの小童の方が囮であったとはなぁ』
拘束されたまま、魔方陣へと至った魔神少女は楽し気にまたほくそ笑み、幌の中から鎖を操っているローランにその笑みを向けた。
「姫様!、王子!、今にございます!!!」
ローランは、鎖に更なる魔力を流し込みながらそう叫び、半ば立ち竦んでるミレーヌと、剣を杖替わりにしてようやく立ち上がった、アルムと呼ばれた方の栗色の髪の男を叱咤する。
「――ええっ!」
「……うっ、あっ、ああ」
その叱咤に応じて、ミレーヌは魔法の『印』らしき手つきを手早く結び、アルムは痛む身体を圧して懐から封印の短剣を抜いた!
「……おい、魔神様――さっきまでの圧倒的な感じは一体どこ行ったんだ?
何か……企んでやがんのかい?」
――と、公太は何故か、抵抗の姿勢を見せない魔神少女の様子を不思議に思い、畏怖を抱いた表情でそう呟く。
「⁉、確かに……いくらローランが拘束魔法に長けているといっても、魔神サラキオスを、こうも易々と捕えられて居られるのは……」
ミレーヌも、公太が呟いた疑念が背筋を奔る悪寒へと変わり、彼女は思わず儀式の手を止める。
『ふふふ……やはり、先に見抜いたのはうぬか、面妖な異界の者よ。
如何にも――我は企んでおるよ』
魔神少女は感嘆の表情でそう言うと、これまで以上に不敵な笑みを浮かべ……
『大人しく、封じられてやろうか……という企みをな♪』
……と、最も意外な返答をした。
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