いきなり、最終決戦
最悪なエンカウント
「おいおい……マジか?、これ」
ミレーヌに誘われるまま、クートフィリアへのゲートを通過した公太は、最初に眼前に飛び込んで来た光景に愕然とした。
まず目に映ったのは、夜闇を煌々と照らす火の明かり――そして、その大元が篝火の類ではなく、山火事さながらに炎上する森の樹々であるという事だった。
「一体、何があったというの⁈
何よりも、ココで待っているはずの
帰って来たはずのミレーヌも、この状況――いや、"惨状"には驚いているらしく、その場に崩れ落ちるように膝を折る。
「ミッ、ミレーヌちゃん……アレじゃね?、繋がってる世界が変わっちゃったってオチじゃ……」
「……いえ、ココは確かにクートフィリア――"クリシュラの森"です。
燃えているのは、この森特有の樹々ばかりですから」
公太の励ましの物言いをキッパリと否定し、ミレーヌは燃え落ちた枝を掴んで途方に暮れる.
「――⁉、おおっ!、ミレーヌ様ぁっ!!!」
――と、火の手の中から、声高に彼女の名を呼ぶ、男の声が聞こえた。
「!!!、その声――ランデル⁈、ランデルさんなのぉっ⁈」
男の声に応じてミレーヌがそう叫ぶと、馬が嘶く声と蹄音――そして、車輪が回る音が徐々に近づいて来る。
「……馬車、か?」
「――やっぱりっ!、ココですっ!!、ココに居ますよぉ!!」
公太は響く音から接近者の正体を邪推し、ミレーヌは確信を持って手を振り上げる。
「やっぱりミレーヌ様だぁ……良かった、本当に良かったぁ……」
近づいて来る馬車の手綱を握る、頭頂部が少し禿げ上がった、寂しげな栗毛の髪色とチョビ髭が印象的な中年男は、咽ぶ様な涙声でそう呟き、二人の方に馬首を近付ける。
二人の側に停まった一頭引きの馬車は、御者の他に4~5人は悠に乗り込める大き目な馬車である。
「ランデルさんっ!、一体何があったのです⁈
この火の手は一体……何より、他のみんなはどうしたのです⁉」
ミレーヌは慌てた様で御者――ランデルに詰寄る。
「うう……それについては、まさに苦難の顛末がございましてぇ……」
ランデルは目頭から溢れる涙を拭いながら、若干仰々しく語り始めようとするが……
「どこをどう見てもっ!、事は一刻を争う状況のですっ!、説明は簡潔にっ!」
――と、何やらこのランデルという男の行動を察した風に、ミレーヌは何かを遮る様にランデルに説明を急かした。
「はっ、はい……現在、我々は魔神、サラキオスの襲撃を受けております――ミレーヌ様」
「⁉、!!!!!!!!!!!!!!」
――ランデルが、簡潔に説明した状況とは……最悪で、衝撃的な事実だった。
「――異界とのゲートを守護するため、何よりもミレーヌ様の無事の御帰還を待つために、このクリシュラの森に野営を張っていた我々でしたが、異界に依り代を求めるという、我らの思惑を勘付いたのか、つい数刻前に突如、サラキオスが声高に我らを探す声が森中に響き渡りました。
その対応に苦慮していると……今度は、我らを炙り出そうと森に火を放ち始めたので、ゲートを見つけられてはならぬと、我らは打って出る事を決め――現在、アルム王子たちがサラキオスと交戦中にございます。
その際、ゲートに異変が起きた様だとローラン殿が、共に交戦に加わっていた私をこの場に遣わしたワケでございまして……」
詳細を告げ終えたランデルは、悔いを示したいのか拳を握って見せ、ミレーヌはその内容の衝撃さ故か、口をあんぐりと開けて固まっている。
「――ミレーヌちゃん、もしかして……今、"ラスボスと戦闘中"って事?」
公太も顔面を蒼白にしながら、ランデルが告げた事柄を更に簡潔に――彼にとっては最も解り易い表現でこの状況を評した。
「……ミレーヌ様、この面妖な恰好の御仁は、もしや……?」
「――ええ、依り代を引き受けて頂いた異界の御方、コータさんです」
公太の存在を改めて認識したランデルは、不思議そうに彼の様子を見渡しながらミレーヌに仔細を尋ね、尋ねられた彼女は頭を抱えてうな垂れながら答えた。
「――っ!、やっと、やっと魔神封じに必要な、全ての要素を揃える事が出来たというのに……」
ミレーヌはボロボロと涙を溢し、悔しげに上着の裾を握った。
「――じゃあ、その"最後の要素"が俺って事だよね?、なら……今、この場でその魔神封じをすれば良いんじゃねぇの?」
――と、公太はふと思った風に、実に簡潔な正答を投げた。
「――!!!、そーですよっ!、ミレーヌ様!
魔方陣を敷くための"6色の魔石"は全て揃い、この馬車に厳重に積んでありますし、"封印の短剣"も、アルム王子が肌身離さずお持ちになられておられる!
ミレーヌ様だって、儀式を行うための魔力錬成の修行を終えておられるのですから、唯一の課題だった依り代の確保が成った今ならっ!」
ランデルも何度も頷いて公太の意見に同調し、ミレーヌに決断を促す。
「でっ、でも……次元を超えて来たばかりのコータさんに、この世界の事を何一つも伝えられない内に、この世界を好きになって、愛して貰っていない内に、いきなり依り代の責だけを負わせるというのは……」
――と、ミレーヌは公太に対して、同情の念を慮っている事を明かした。
「――いや、魔神の襲撃で全てが御破算になっちまう方が、俺が次元を超えて来た意味がねぇし、俺にだって、わざわざ来た目的だってある……この身体を、どうにかするってぇのがね。
ぶっつけ本番覚悟でも、やるしかねぇだろうよっ⁉」
公太は叱責する様にミレーヌに言うと、不敵な笑みを浮かべ……
「……こんな、ニューゲーム早々にラスボスとエンカウントさせる、バグだらけのクソゲーみてぇな世界だって――もう、否が応にも好きになるだろうから安心しなよ。
何たって帰れねぇんだし、生き残ってココで暮らしていくしか道はねぇんだからね」
――と、ミレーヌに再度の決断を急かした。
「コータさん……」
ミレーヌは、肝が据えた体の公太の物言いと態度を見詰めると、表情を更に険しくさせてランデルに向き直る。
「……6色の魔石を、私に渡してください――これから、儀式の準備に取り掛かります。
コータさんは、私と共に儀式に備えてこの場に留まり、ランデルさんは前線へと戻って、儀式を行うと前線の王子たちにも伝え、サラキオスをこの場に誘導してください!
この場に誘導後、手筈どおりに誰かが封印の短剣をサラキオスの身に突き立て、依り代への封印を執り行いますっ!」
ミレーヌは決意に満ちた様子で、燃え盛る森の樹々たちを見やった。
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