前髪を切った私と、恋に落ちて欲しい

那須茄子

前髪

 不覚にも。

 隣の冴えない男の子が、ふと見せる真剣な眼差しにときめいちゃって。


 朝の「おはよう」ぐらいの挨拶でも、ビクッとドッくんが重なる鼓動のアップテンポに襲われる。


 気持ちなんだか、激しめの焦燥に駆られ、頭の中がふわふわ状態。



 自己防衛発動!


 目にかかる前髪が邪魔して、彼を見えなくする。多分これは、『一目惚れ注意』の意思表示。


 

 あーあ、これで良いのかな?


 あーあ、どうする?


 あーあ、やっぱ好きなんでしょ。


 あーあ、このままじゃ手遅れ。


 あーあ、彼にもその内彼女ができちゃうんじゃないかな?


 

 そんなの堪えらんない。

 さぁ、────思いきって前髪を切る。

 



 少しばかりの勇気と決意した恋を持って。


 目と目が合うように、ちょっとドキドキ緊張しながら彼に。


「....どう? 髪切ったんだ..」と恐る恐る。


 

 そこに居たのは、いつもとは違う彼。

 赤く染まる頬が、切り開けた視界の中でよく見える。


 この一瞬は逃せない。



「前髪を切った私と、恋に落ちて欲しい」



 私は言った。

 これまで抱えていたその言葉を、優しく送り出すように。


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