赤ちゃんは見ている
白鷹いず
●
第一章 俺は生まれるからな
<1> よし! 行くぜ!
いろんな声があちこちから聞こえるんだ。
目をつぶって横たわってじっとしていると、
まわりからいろんな声がたくさん聞こえてくるんだぜ。
どの声も、
俺に「おいでーおいでー」って呼びかけてくるんだけど、
それでも無視して、ただじーっと聞き耳をたてているわけ。
するとだんだんわかってくる、自分が一番行きたいのはどの声がする方なのか。
最初はなんとなくだけど、だんだん確信を持ってわかってくるんだ。
俺がこっちだ! って決めると、
周りの声はスッと消えて、今まで聞こえていたたくさんの声は一気に絞り込まれる。
俺が行きたいと感じた方向からだけ声が聞こえて来るようになるんだ。
やっぱり「おいでーおいでー」って呼んでるんだけど
声の数も一気に減って、3つか4つ、いやもうちょっと多かったかな。
それでも俺が無視してじっと聞いていると
その声も一つずつ消えて、だんだん少なくなって
最後に呼ぶ声はひとつだけになる……。
その時目を開けちゃうと、また最初からやり直し。
もう一度目をつぶると、
最初みたく周りからたくさんの声が「おいでーおいでー」ってやかましく呼びかけて来るんだけど、
最後に残ったひとつの声が、なんだか優しくて暖かい気がしてさ
このままずーっと聞いていたいなぁ~って思ったとするでしょ……
そう思ってしばらく聞いていると
俺を呼んでいる声の主達が……
あ、声は必ず2人で同時に出してるんだ。
1人だけで俺の耳に届く声を出すことはできない。
必ず声は2人で一緒に呼んでいるんだ。
だから「声の主達」って言ったんだけど。
で、声をしばらく聞いていると、
その声の主達がどういう人柄で、どういう生き方をしていて、どういう生活を送っているのかとか
なんとなくだけど見えて来る。
「見えて来る」っていうのは違うな。
頭の中にイメージが入って来る感じで直接目で見てるわけじゃないから。
そしてこの時が最後の決断の時だ!
なんか違う! フィーリングが合わない気がするって、もしそう思ったら
この時ならまだ目を開けちゃえば最初からやり直す事ができるわけ。
でも、俺はそのとき思ったんだ。
この声の主達がさぁ、俺の父ちゃんと母ちゃんになったらいいなぁ~って。
父ちゃんと母ちゃんになって欲しいと思った二人が「おいでーおいでー」って呼ぶから
俺は迷わず「はーい」って返事をしたのさ。
その途端、俺は深い眠りに落ちたんだ。
ここからは賭けさ!
無事、自然に目が覚めるまで眠り続けていられるか
途中で起こされてまた元にもどって最初からやり直しになっちゃうか
二つに一つ。
どう転ぶかはその時になってみないとわからない。
ひどい時なんて、眠った途端にすぐ起こされる事もあるんだぜ
実はこのパターンが結構多いんだけど。
そして俺は
このとき「はーい」って言ったあと深い眠りについて
10ヶ月と10日眠り続けて目が覚めたわけさ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます