2つの国を背負って生きたい

@trantran8910

第1話

リン:私の名前は奥村リンです。もう一つ名前があります。トラン・ミィ・リンです。

私は日本とベトナムのハーフです。この言葉を今までずっと言えなかった。

(大学の新入生サークル勧誘。ザワザワとした音。)


生徒一:演劇のサークルなんですけど興味…あ、留学生ですか?


リン:日本国籍です…。


(走ってくる足音)


生徒2:ねえ沖縄出身?俺もなんだけどエイサー踊る部活で…。


リン:あの、関東出身なんです。


(歩いてくる足音)


生徒3:ハロウ!スラマッ…あれマレー語話せない?英語いける?


リン:あの、留学生じゃないんです…。


(家に到着。扉を閉める音)


リン:また言えなかった。もうハーフって言っちゃった方が話、早いのに。


(階段を登る音)


リン:でもハーフって言うと…。


(リンの想像)


生徒1:お母さんがベトナム人なんだね!ホーチミンそれともハノイ?俺、ベトナム好

きで…。


リン:ごめんなさい。ママがベトナムのどこ出身か知りません。


生徒1:ママとパパどこで出会ったの?


リン:どこで出会ったのか知らないです。


生徒一:えーママに聞いてみればいいじゃん


リン:ママは家にいなくて…パパはママの話しをしてくれないから聞けないです。


生徒1:…え、そうなんだ。なんか、ごめん…大変なんだね

(リンの想像終了)


リン:言えない。ベトナムのこと質問されても答えられないし、ママいないから知らないとか言いにくいし…。


(廊下を歩く音)


シュウ:リン、さっき不動産屋さんから電話来てたぞ。リンが住みたいって言ってたあ

のアパートいけるって。大学から四十分のところ。


リン:パパ本当?よかった!もう一人暮らし無理かと思った。


シュウ:大学近くはすぐに空きがなくなるし少し離れたところもダメだったし…予想外だったな。でも良かった。一人暮らしに必要なものは何でも持っていっていいからな。


リン:…ママの写真とかは?本当に一枚もないの?

(沈黙)。


リン:…ごめんなさい


シュウ:いや、別に謝ることじゃないんだ


けど…パパ前から写真とかそういうの捨てちゃってたって言ってただろ。ちょっと思い出したくなくて…ごめんな。一枚だけでも残してたら良かったんだけど。


リン:ごめん。ちょっと言ってみただけ。


(階段を登る音。扉を閉める音。)


リン:なんでママの写真全部捨てるんだろなんで思い出したくないんだろう。そんなに嫌だったのかな。 


(大学。足音。)


女子生徒1:一緒にお昼食べて行かない?私ここ地元だから美味しい店たくさん知ってるよ。


女子生徒2:やったー。行こう行こう。リンちゃんも行ける? 


リン:うん!行きたいー。どんなお店行く 


女子生徒1:ここら辺、外国のお店いっぱいあるんだ。なんか、韓国料理とか、インド料理とか、ベトナム料理とか。アジア系の料理が多いんだけどいけるかな?


リン:…あ、あのベトナム料理なら私はいけるかも…。


女子生徒1:あ、リンちゃんベトナム料理好きなの?


女子生徒2:えー、私ベトナム料理食べたことない。なんかイメージ的にヘルシーそうだし行ってみたい!


女子生徒1:じゃあ行こう。なんかベトナム大使館の近くにベトナム料理たくさんあるから適当に良さそうなところに入ろう。十分くらい歩くけどいい?


女子生徒2、リン:うん。全然行ける!


(歩く音)


女子生徒1:確か。ここら辺だよー。あれ?なんか今日人多いね。


群衆:犬肉反対!犯罪者!動物虐待をやめ

ろ!


女子生徒2:え?ビックリした何?デモ?


女性:ベトナム大使館は犬肉に反対するべきです!


男性:ベトナム人は犬を盗んで食べるんです!日本の犬だって盗まれるかもしれませんよ!愛犬を守りましょう!


女性:犬肉を食べるような人が近くに住んでいるのは怖いです!


女子生徒1:何これ初めて見た。犬食べるとか最低ー。私、犬二匹も飼ってるからマジで許せない。


女子生徒2:私も犬飼ってるから分かるなー。なんかベトナムのイメージ悪くなった。


男性:ベトナム人がヤギを盗んで食べたことを知っていますか?犬も同じように盗まれ食べられているはずです!日本で犯罪をするなら出て行け!


女性:犬を食べるような残酷な人は人間にも危害を与えるんです!危ない存在です!

男性:取り締まれ!出て行け!犯罪者!


(笛の音)


警察:デモの主旨に関係ない発言はやめてください!


男性:うるさい!犬を食べる奴は犯罪者だ!


女性:日本に外国人なんていらない!


(足音。ベトナム人の子供が母親に言う。)


ベトナム人の子供一:僕、ベトナムで犬なんて食べたことないよ。


ベトナム人の子供2:ベトナムで犬盗んだら警察に捕まるよ…この日本人達は何言ってるの?

ベトナム人の母親:相手しない。無視して怖い人たちだから…ほら、行くよ。


(走り去る音。警察と群衆が揉める音)


女子生徒1:なんかすごいことになってるね。別のところ行こっか。リンちゃんも行こ。


(リン、怯えた声で言う)


リン:ごめん。ちょっとこういうの苦手でごめん。帰る。


(リン走り去る音)


女子生徒1:何あれ?メンタル弱すぎ。


女子生徒2:リンちゃん派手な顔してるけど繊細だから…ちょっと面倒くさいよね。


(扉を閉める音。リン、家に帰る)


リン:え、何あれ。何あれ。ひどい…。


(リン、カバンからスマホを取り出す音。操作する音)


リン:…ネットで聞いてみよう。


リン:『ベトナムについて質問です。今日ベトナム料理を食べに行った時、犬肉反対の

デモ?みたいなのを見ました。たくさんの人がベトナム人を犬肉を食べる犯罪者とか出て行けとか言っていて怖かったです。日本人の人ってベトナムの人のこと嫌いですか?犬を食べるのは可哀想だけど、犯罪者とか出て行けとか酷いと思います。』


リン:きっと一部の人だけだよね…。


(リン。扉を閉める。しばらく間。扉を開ける音。)


リン:あ、回答けっこう来てる。


回答者1:『どうせ悪いことばっかりしてんだろ。国に帰れって思う。』


回答者2:『ベトナムの人みんながそうではないと思いますがイメージが悪いですね。盗みとか違法就労しているいるイメージです。』


回答者3:『うるさくて目障り。夜中にパーティーとかすんなよ。』


回答者4:『どうしてもベトナム人のせいで治安が悪くなったと考えてしまいます。』


回答者5:『質問者さんはベトナム関係の方ですか?国へ帰れ。日本に来るな。』


リン:…なんで。どうして。


(リンの泣き声)


リン:ベトナム人…ニュース…犯罪とか不法滞在とか悪いことばかりニュースになってる。みんな、なんてコメントしてるんだろう。


コメント者1:『犯罪者予備軍。すぐに国に帰ればいいのにと思う。』


コメント者2:『ベトナム人が近所にいたら嫌だ。』


コメント3:『ベトナム人の犯罪多すぎ。全員強制送還しろ。』


(リン泣きながら言う。)


リン:悪いコメントしか出てこない…。


(扉を叩く音)

シュウ:リン大学はもう終わったのか?買い物行くけどついでに何か買って来ようか?


(リン、扉の向こうから言う。)


リン:パパ。日本人の人ってベトナム人嫌いなの?


シュウ:急にどうしたんだ…リン、ベトナム人の母親がいるって誰かに言ったのか?


リン:違う!ベトナム料理友達と食べに行っただけ。そしたらそこで犬肉反対デモがあってベトナム人のこと犯罪者とか。国帰れとか。ネットでもベトナム人への差別のコメントばっかり出てくる…なんで?


シュウ:ネットは過激な人が多いんだから仕方ないだろう。嫌ならベトナム関連のニュースを見なければいい。


リン:そういうことじゃないよ。


シュウ:デモだって過激な人が多いだけだ。別に毎日デモしてるわけでもない。気にしなければいい。


リン:だっておかしいよ。ネットでもデモでも、過激派が多いとかそういうのじゃない犯罪者とか、国帰れとかこんなの差別じゃん。ネットだからオッケーとか毎日デモしてるわけじゃないからオッケーとかそんなのおかしい


シュウ:…リンは日本人だ。


リン:こんなの…ベトナム人へのヘイトスピーチじゃん。


(シュウ怒った強い声で言う。)


シュウ:リンは日本人なんだ。ベトナム人が差別されても日本人には関係ないだろう。お願いだからそういうことに関わるな。それはベトナム人の問題で日本人には関係ない。


リン:私は…半分。


(シュウ、遮るように言う。)


シュウ:日本生まれ日本育ちで母語も日本語だろ…日本人として生きた方がいい。母親がどうとかそんなのは忘れて日本人として生きろ。分かったな…余計な差別を受けてほしくないから言うんだ。ネットを見れば分かるだろう。日本には過激な思想を持つ人も多いんだ。


(シュウが階段を下る音。)


リン:パパも差別主義者だ。私には味方がいない。


(リン、床に寝転ぶ音)


リン:そうだ…味方を探せばいいんだ。


(翌日。ガヤガヤと皆が話す音)


男性:日本とベトナムの交流会への参加は初めてなんだね。よろしく。リンさんはベトナム人?


リン:あの、母親がベトナム人です。


男性:あーそう。お母さんはどこ出身?

リン:一緒に暮らしたことなくて分からないんです。


(しばらくの沈黙)


男性:あ、じゃあお父さんが?


リン:はい。一人で育ててくれました。


男性:えらいねー。お父さんに本当に感謝しないと。ベトナムの女性に騙されちゃって大変だっただろうね。


リン:…騙される?


男性:そうそう。可哀想にねー。じゃあリンさんはベトナム語勉強したことないの?


リン:…はい。大学受験とか、部活とか忙しかったので。


男性:それちょっともったいないよねー。せっかくハーフに生まれたのにね。まあ、でもベトナム語勉強してもあんま使わないか。

無駄だよね。ボク何回もベトナム出張してるけど英語で話してたよ。


(家に帰る。扉の音。)


リン:なんか嫌だった…。


(男性の言葉を思い出す。)


男性:『ベトナム語勉強してもあんま使わないか。無駄だよね。』


(扉を開ける音。歩く音。)


リン:ベトナム語は無駄なんかじゃない。


(書店。レジを打つ音。本のページをめくる音。)


リン:ベトナム語…本少ないな。基礎のものはどれだろう。


(ページをめくる音。本を取り出す音。)


(リン家に帰る。ベッドに寝転がる音。本のページをめくる音。)


リン:シンチャオ…こんにちは。カームオーン…ありがとう。ヘンガップライ…また会いましょう。

(ページをめくる音。)


リン:トイ・テン・ラー・リン…私はリンです。


(泣き出しそうな声で言う。)


リン:これがベトナム語。


(ページをめくる音。)


リン:トイ・ラー・ムィタム・トォイ…私は十八歳です。トイ、ラー…。


(段々リンの声を小さくしていき次の場面に移る。)


(スマートフォンの電話の音。)


リン:シンチャオ。トイ・テン・ラー・リン。リンです。よろしくお願いします。


トアン:わあベトナム語とても上手です。ボクの名前はトアン言います。ではベトナム

語、勉強しましょうね。


(扉をノックする音。)


パパ:リン話しがあるんだ。


リン:ちょっと後にして。今、ベトナム語のレッスン受けてるから。


パパ:…分かった。じゃあ後で話そう。また時間できたら教えてくれ。


(リン。階段を降りる音。)


リン:話しって何?


パパ:まあ、とりあえず座ってくれ。


リン:ベトナムのこと?


パパ:…そう。急にどうしたのかと思ったんだ。今までベトナムのことに興味なんてなかったのに最近はベトナム人差別の話とかベトナム語の勉強とか、レッスンとか…急に何があった?


リン:急にじゃない。今まで受験とか部活で忙しくて時間が作れなかっただけ。本当はずっとベトナムのこと知りたかった。私はベトナムハーフなのにベトナムについて知らない。


パパ:リンは日本人だろ。


リン:私はハーフだよ。日本人じゃない。母語や生まれや育ちとか関係ないよ。私ハーフだから…。


(急に怒った声で。)


パパ:じゃあどうするって言うんだ。ベトナムに行くつもりなのか?リンはまだ十八だ。ベトナムに行くことは親として許可出来ない


リン:…パパはおかしいよ。どうしてベトナムのことになるとそんなに怒るの?なんでベトナムやママのこと隠すの?


(リン震える声で。)


リン:なんか、パパにベトナムのこととかママのこと隠される度に…。


(リン。涙声になる。)


リン:生きてていいのか分からなくなる。全部隠されて何も分からなくてずっと嘘ばっかりつかれて…パパはそんな人生が良いと思う?そんな人生生きてて楽しいって思う?


(シュウ。息を呑む音。)


リン:どうして隠してばかりなの?


シュウ:…リンが傷つくと思って…リンのことを考えて隠していたんだ。


リン:隠される方がもっと…。


シュウ:…彼女はリンの母親はリンを誘拐したんだ。その上、世話をしないで放置した。


リン:…え、何それ。本当にママがそんなことしたの?


シュウ:こんな時に嘘ついてどうするんだ…。そうやってリンが傷つくから言えなかったんだ。


リン:そんな…。じゃあママは本当に私のこと誘拐して世話もしなかったの?


シュウ:…僕はリンを愛していた。愛してた娘が何の連絡も無く突然いなくなった。やっと見つけたら世話もされずに放置されていた…だから僕はリンの母親からリンを引き取って日本に帰ったんだ。


リン:でも…誘拐って母親でしょ…と言うよりまずママは私をどこに誘拐したの?


シュウ:ベトナムだ。勝手に連れて帰ったんだ。


リン:え?それ誘拐なの?でも勝手に私を連れてベトナムに帰るって何かあったんじゃないの?私、ママに会いたい。離婚したなら住所とかは調べられるんじゃないの?会って話が聞きたい。


シュウ:それは無理だ。


リン:なんで?引っ越したの?今の時代名前さえ分かったらSNSとか何かで住所が分かるかもしれない。ママの名前だけでも教えてお願い!


シュウ:無理なんだ!…リンの母親はもう亡くなったんだ。


リン:亡くなった?え、どう言うこと?


シュウ:詳しくは知らない。六年前に突然仕事用のメールアドレスに連絡が来てリンの母親が亡くなっていたことを知った。僕はリンを日本に連れて帰ってすぐに引っ越した。リンの母親や親戚と連絡を取らなかったから知らなかったんだ…彼女は昔…僕とリンが日本に帰ってからすぐに亡くなったそうだ。


リン:もしかして…え、それって。


シュウ:…お願いだから。そんな目で見ないでくれ。僕はそんなつもりじゃなかった。ただ、娘を連れ戻して一緒に暮らしたかっただけなんだ…でもリンの考えていることは分かる…リンは『パパのせいでママは亡くなった』ってそう言いたいんだろう。


リン:そんなこと…思ってない。


シュウ:…僕はどうするべきだったのか分からない。でも間違えたことをしたとは思えないんだ。


リン:…ごめん。


(リン扉を閉める。リンが階段を上がり扉を閉める音。)


リン:ママが亡くなった…ママが。


(リン座り込む音。)

リン:もう何も分からないんだ…何も分からないままなんだ…なんで!


(リン。枕を壁に投げつける。)


リン:私は何なの…あ。


(リン。自分の言葉を思い出す。)


リン:『今の時代名前さえ分かったらSNSで…』


リン:それだ。


(リンスマホを取り出す。スマホを打つ音)


リン:ベトナム人がよく使うSNS…拡散されやすいもの…これを使おう。

(スマホを打つ音。)


リン:『こんにちは。私の名前は奥村リンです。2014年の9月7日に18歳になりました。私の母はベトナム人です。小さい時に母と離れ離れになりました。私は母のことが知りたいです。私の写真を載せます。誰か私のことを知りませんか?情報をください。』これを翻訳アプリで訳して投稿しよう。


(通知音が何回も鳴る。)


リン:通知音が鳴り止まない…皆んな投稿に反応してくれてるのかな。


(翌日。リン、カバンを開けてスマホを取り出す。)


リン:1日経ったけどどれくらい反応来てるかな…2000以上いいねが来てる…コメントベトナム語ばっかり日本語ないかな。


コメント1:『顔、南ベトナム。ホーチミンかメコンデルタ出身かもよ。』


コメント2:『お母さんの名前や写真あるですか?』


コメント3:『トゥイ・アンにそっくり』


リン:トゥイ・アン?


コメント4:『大学のクラスリーダー似てます。彼女にシェアします。』


(通知音。)


リン:メッセージだ…あれこのプロフィールの写真…私に似てる…。


アン:『突然のメッセージ失礼致します。同級生からこの投稿のことを聞き連絡しました。奥村リンちゃんですか?』


(リン、メッセージを入力する。)


リン:『はい。奥村リンと言います。』


アン:『私はトラン・トゥイ・アンと言います。リンちゃんのお母さんの兄の娘です。

つまり従姉妹です。今は大学四年生で工学部で電気について勉強しています。年は22歳です。0歳のリンちゃんと私が写った写真を持っています。添付しますね。』

リン:『ありがとうございます。』


アン:『多分リンちゃんのお父さんは私の名前と顔を覚えていると思います。お父さんに私の名前を言ってみてください。そしてリンちゃんと写った写真を見せてください。私はリンちゃんに会いたくて12年間日本語を勉強してきました。リンちゃんに会いたいです。私の住所を送ります。私の父にもこのことを伝えます。空港まで迎えに行きます。渡航費も払います。私達に会いに来てください。お願い致します。』


リン:『ありがとうございます。』

…すごい。従姉妹が…従姉妹が見つかった。


(リンが階段を降りる音。シュウに向かって言う。)


リン:パパ。今日の夜、話があるの。


シュウ:…分かった。予定を空けておく。


(リンとシュウが座る音。お茶を入れる音)


シュウ:ベトナムのことだろう。


リン:そう。私トラン・トゥイ・アンさんに…私の従姉妹に会いたい。


(シュウ息を呑む音。)


シュウ:どこでその名前を…あの子、リンの連絡先まで特定したのか…アンからメールが来たのか?


リン:アンさんのこと知ってるんだね。私から連絡したの。SNSに顔写真載せて私のこと知っている人はいませんかって聞いた。そしたらその投稿を見た人がアンさんを紹介してくれた。


シュウ:SNSに顔写真を載せるなんて…なんて危ないことをするんだ…。


リン:でもそうでもしないと…私は自分のルーツが一生分からないままだよ。そんなの嫌なの…パパ、写真見て。この赤ちゃんが私で隣の子がアンさん合ってる?


シュウ:…間違いない。


リン:パパに嘘つきたくないから言うね。アンさんは住所を教えてくれた。私はベトナムまで会いに行く。


シュウ:そこまでして自分のルーツを知りたいのか…差別されてもいいのか?日本人として生きたら差別なんて…。


リン:日本人として生きてずっと自分のルーツを隠して…パパ、私がベトナム人のハーフとして生まれたことがそんなに…恥ずかしい?


シュウ:違う…それは違う。



リン:一生隠さないとダメなの?

シュウ:…違うんだ。僕自身が差別を受けたから言うんだ。


リン:パパが?


シュウ:外国人の顔をした女の子を男が1人で育ててると本当に色んなことを言われた。『金で外国人の子供を買った』『外国人に騙された男』『外国人の子供と住んでるなんて怪しい』そう言われて何度も警察を呼ばれた。児童相談所にも何回も通報された。会社でも噂を流されて辞めざるを得なかった。


リン:そんなの酷い…。


シュウ:リンの顔が成長するにつれてちょっと日本らしくなった時には…正直すごく安心した。これで変な噂を流されることも目立ちすぎることもなくなるんだって…普通の父親と娘として生きられるんだって安心したんだ。


リン:普通の…。


シュウ:正直日本人の子供を父親が一人で育ててるならここまでの差別は受けなかったと思うんだ…これが現実なんだよ。日本人で外国人の家族を持つだけでもここまで差別を受けるんだ…外国人当事者として、外国にルーツを持つものとして生きるならどうなる?


リン:それでもベトナムに行きたい…。ルーツを知りたい。


シュウ:差別されても?


リン:だってルーツは隠せても変えることは出来ないから…。


シュウ:…もう仕方のないことなんだな。


(シュウ立ち上がる音。足音。パソコンを叩く音)


シュウ:ずっとリンの叔父さんと従姉妹は僕とリンにメールを送っていたんだ。ベトナムに行く前に読んだらいい。 


リン:そんなの知らなかった。 


シュウ:ずっと隠してた。リンがベトナムに興味を持たないならずっと隠したままにするつもりだった。 


リン:…メール読んでみる。  


(クリックする音。)


アン:『シュウ叔父さんへ。お元気ですか?この前、日本語能力検定の結果が返ってきました。結果は合格で私は一級を取得しました。リンちゃんに会いたくて10歳からずっと日本語を勉強してきました。リンちゃんと何も問題なく日本語で話せる自信があります。私には姉妹がいないのでリンちゃんをずっと妹のように想っています。リンちゃんに会わせてください。お願い致します。』


シュウ:こっちは叔父さんからのメールだ。


コン:『リンちゃんは今年18なりましたね。ここまでリンちゃんを育ててくれてありがとうございました。最後にリンちゃんに会ったのはリンちゃんが2歳の時でした。その時から今まで一度もリンちゃんを忘れたことはありません。毎日考え続けています。リンちゃんに会いたいです。返信して頂けないでしょうか。お願い致します。』


リン:2人とも会いたいって言ってくれてる…忘れたことはないって…なんでパパ…返信もしてないしなんでずっと無視してるの?


シュウ:…僕の娘を誘拐した人の親戚だ。信頼出来るわけないだろう。


リン:…でも…会いたいって言ってくれてるし、アンさんも叔父さんもこんなに日本語勉強してくれてる。 


シュウ:そう思うなら会いに行けばいい…きっとベトナムに行けばリンは僕を恨むようになると思う…その前に一言だけ言わせてほしい。


リン:…うん。


シュウ:いくら差別されても僕はリンを一人で育ててきた。仕事も在宅にして家事もして寂しくないように不自由がないように一人で育てた…全部リンが娘として大切だから出来たんだ。


(シュウ。「もう寝る」と呟き出て行く。扉の閉まる音。)



(空港。ザワザワとした音。)


リン:迎えに来てくれるって言ってたけど


(走る音。)


アン:リンちゃーん!リンちゃんだよね!アンだよ!従姉妹のお姉ちゃんだよ!


(抱きつく音)


アン:会えて嬉しい!


(リン。笑う声。)


リン:…ごめんなさい。実際に会ったら…なんか想像以上に顔がそっくりで。


アン:そうだよね!私も思った!長いサラサラの黒髪とか大きい目とかぺちゃんこの鼻とかもう全部似てるよ。似てると思った!嬉しいよー。リンちゃんー。


(アン、泣き出す。)


コン:アン。いきなりそんなことされたらリンちゃん驚きます。やめてください。

すみませんリンちゃん。私は叔父のコンです。この子は娘。リンちゃんの従姉妹のアンです。リンちゃんのママに似て落ち着きのない性格ですがとても良い子です。


リン:…私の母、こういう性格だったんですね。


コン:はい。元気で好奇心が強くてよく笑ってよく泣く子でした…続きは家で話しましょう。車に乗ってください。


(車が走る音。)


アン:もう本当にビックリしたんだよ。ビックリしすぎて私、教室で叫んじゃったの。投稿をシェアしてくれた同級生の前で『どこでこの投稿見つけたの?この子私の従姉妹だよ!絶対そうだよ!』って大騒ぎしちゃった。


コン:仕事中にアンから『リンちゃんを見つけた』って泣きながら電話がかかってきて…大変でした。でもリンちゃんに会えると思うと本当に嬉しくて仕事中なのに泣いてしまいましたよ。


リン:ありがとうございます。私も会えて本当に嬉しいです…それにしても二人とも日

本語上手いんですね。日本に来たことがあるんですか?


コン:日本には行ったことがありません。勝手に日本に来てリンちゃんに会うと警察を呼ぶと言われていたので行けませんでした。日本語は働きながら日本語学校に通って勉強しました。そして習ったことをアンに教えました。でもいつの間にかアンの方が日本語が上手くなってしまいました。


アン:私は日本の企業で働くからこれくらい話せないと話にならないよ。


リン:アンさんは日本の会社で働くんですか?


アン:そう。日本に行けばリンちゃんに会えるかもしれないって思ったから。それに日本の会社の技術も学びたかったし…それより

敬語やめてよ。タメ口でいいから。従姉妹だしアンさんじゃなくてチー・アンでいいよ。


リン:チー?


アン:そう!チー・アンでアンお姉ちゃんって意味なの。私はリンちゃんの従姉妹のお姉ちゃんだから!


リン:チー・アン…なんか嬉しい。お姉ちゃんが出来るなんて…。


コン:もうすぐ着きますよ。リンちゃん。ここはリンちゃんの故郷です。ビンズンです。


リン:私の故郷ビンズンって言うんですね。叔父さん私はもっと知りたいんです。故郷のことも…ママのことも。


コン:リンちゃんはママのこと覚えてないんですね。きっとシュウさんは話したがらなかったんでしょう。 


リン:パパはママが私を誘拐したとか、世話しなかったとかそんなネガティブな情報しか話しませんでした。私はママがそんなことをしたなんて信じられない。


コン:リンちゃん。シュウさんはずっと偏った情報を話していたんですね。リンちゃんのママは…ハーちゃんはそんな人じゃありません。事情があったんです。


(コン泣くのを堪える。)


アン:リンちゃんのママのことについては後でちゃんと説明するね。私達はリンちゃんに本当のことを知ってほしいの。


(扉を開ける音。)


コン:ここは私たちの家です。私、アン、そして妻が住んでいます。妻は今、シンガポ

ールに出張していて家にいないのですが彼女もリンちゃんに会いたがっていました。


(三人分の足音。扉を開ける音。)


コン:リンちゃんのママの写真です。彼女はハーという名前です。…ハーちゃん。聞こ

えますか?リンちゃんが来ましたよ。ハーちゃんはずっとリンちゃんに会いたかったですね。


(コンが写真をリンに渡す音。)


リン:私のママ。『ハー』って言う名前なんですね…ママ…すごく綺麗…それに若い。ママは何歳でなくなったんですか?


コン:23で亡くなりました。21歳でリンちゃんが出来たので大学を中退してリンちゃんを産みました。


リン:ママは大学辞めたんですか?


コン:ハーちゃんには新聞記者になりたいという夢がありました。けれど駐在員としてベトナムに来ていたシュウさんと知り合いリンちゃんを産んだので夢を諦めました。大学を中退してシュウさんと日本に行きました。


(コン。涙を堪えながら言う。)


コン:あの時、止めれば良かったんです。


ハーちゃんは21歳。シュウさんは23歳…二人とも若すぎたんです。もっと支援す

るべきでした。なのに私は何も考えずにハーちゃんを日本に送り出してしまった…。


アン:…パパ。とりあえず座って話そう。私はお茶を入れるから。


(お茶を入れる音。椅子に座る音。)


コン:ハーちゃんの…リンちゃんのママの話聞いてください。


リン:はい。教えてください。


コン:ハーちゃんはリンちゃんを産んで日本に行きました。けれどシュウさんは夜も土日も仕事で家にいませんでした。ハーちゃんは一人で子育てをしていたのですが近所の人たちから虐められ体を壊してしまいました。


リン:虐められる?


コン:『日本語下手。』『お金目的で日本の男と結婚した。』『風俗出身。』『目が大きすぎるから整形しているに違いない。』…彼女の話によると毎日こんなことを言われ相当酷い虐めを受けたようです…そしてリンちゃんが生まれてから2年後、事件が起きました。


(回想シーン一。ハーが家の扉を叩く音。幼いリンの激しい泣き声。)


コン:…ハーなのか?どうしたんだそんなに痩せて…リンちゃんもどうしたんだ?虫歯だらけじゃないか…可哀想に。


(幼いリンの泣き声。)



リン:やだー!やだー!暑いー!ご飯!ママー!ママー!


(ハー。弱々しい声で言う。)


ハー:お兄ちゃん…もう日本に帰りたくない。虐められるし体がすごく辛くて…リンちゃんの世話が出来ないの。


(回想シーンニ。リンの泣き声。)


リン:寝ない!寝ない!やだー!やだ!


(布団を叩きつけて暴れる音。ハー咳をして苦しそうにしながらリンに言う。)


ハー:リンちゃんお願い。ママ寝れない。リンちゃん寝てほしい。


コン:大丈夫か?明日病院行こう…叔父さんにも連絡して来てもらおう。


ハー:ダメ。シュウさんがリンちゃんを日本に連れ戻しに来るかもしれない。叔父さんに迷惑をかけられない。お兄ちゃんにも迷惑だから…早く引っ越さないと。


コン:何言ってるんだよ。迷惑なんて一回も思ったことはない…ずっと二人で生きてきただろう…?


(リンの泣き声。)


ハー:ごめんね…もう…どうしたらいいのか分からない…苦しい。


(回想シーン3。激しく扉を叩く音。)


シュウ:ハー!ここにいるのは分かってるんだ!なんで勝手にリンを連れて行ったんだ。


(扉の開く音。リンの泣き声。)


シュウ:リン…こんなに痩せて、歯もボロボロじゃないか…ハーにリンを育てる資格なんてない!


ハー:シュウさん…私、日本辛い。日本帰る嫌です。シュウさん別れる。ベトナムいてリンちゃんと一緒良いです。


シュウ:離婚するのは別にいい。けれどお前を誘拐と児童虐待で訴える。


ハー:…誘拐?児童虐待?私、それしないです。


シュウ:リンを見てみろ。痩せてるしずっと泣いている。虫歯もある。お前はリンをちゃんと世話出来ていない。これは虐待だ。それに僕に何も言わずにリンをベトナムへ連れて行った。これは誘拐だ。


ハー:私、体辛いだから。でも時間ないだから病院行く時間ない。寝る時間ない…。


シュウ:今は誘拐と児童虐待の話をしているんだ。僕は弁護士を用意している。


(コンが走って近づいてくる音。)


コン:シュウさん!妹、病気…。あなた出ていく!


(コンがシュウの手を払いのける音。)


シュウ:暴力はやめろ。暴力を奮ったことも弁護士に話すからな。


コン:妹の育児、私助ける。だから…。


シュウ:続きは弁護士と話すんだな。リンは日本に連れて帰る。今後、勝手にリンに会ったら警察を呼ぶからな。


コン:やめろ!リンちゃん返せ!


(コンが机を叩く音。リンが激しく泣く。)


リン:こわいよー。やだー。やだー。


ハー:お兄ちゃん!…もういいよ。リンちゃん。リンちゃん虫歯あるね。痩せてるね。たくさん泣くね。全部ママのせい。ママ体壊れただから…世話出来ないだから、リンちゃん幸せ違うね…ごめんね。


コン:ハー!


ハー:シュウさん…日本行てリンちゃんもと健康、幸せしてください。


シュウ:リン、日本に帰るぞ。


(リンを抱き上げる音。)


リン:やだ!ママは?ママ!ママー!ママやだやだ!ママー!ママ!ママー!


(リンの泣き叫ぶ声。足音。扉を閉める音。ハー。押し殺した声で言う。)


ハー:リンちゃん…行かないで…違う…違う…リンちゃんごめんね。リンちゃんごめんね…ごめんね。リンちゃん…リンちゃん。


(ハーの泣き声。回想シーン終わり。)


コン:その後、ハーちゃんは亡くなりました。ある日、急に気絶してその時に階段から落ちてしまったんです。


リン:気絶…?


コン:体が弱くなっていたのでそのせいだと思います。


アン:私は叔母さんが階段から落ちたのを見てたの。助けないとって思ったけれど私はまだ子供で…助けられなかった。私の目の前で叔母さんは亡くなった。


コン:アンはそのことで精神的な病気になり三年間病院に入院しました。私はずっと後悔しています。私が日本に行くのを止めていれば、早くに弁護士に連絡していれば、もっとお金があれば、知識があれば…ずっとハーちゃんの側にいれば…ハーちゃんもアンも苦しまなかったのに…。


リン:…ごめんなさい。叔父さんのせいじゃないです。父が悪いです…でも父は…。


(リン震える声で言う。)


リン:父は私を育てるために在宅の仕事を選びました。家事も…料理も全部やってくれました。習い事もさせてくれたし私立の大学にも行かせてくれました…。ずっと1人で…父は。


(リン。泣く。)


コン:…すみません。正直許せない気持ちは消せません。しかしシュウさんの気持ちは理解します。一人の父親として彼の気持ちは理解出来ます。


アン:…私は彼はよくやってくれたと思う。シュウさんが連絡先を全部ブロックして引っ越したから私達はシュウさんの名前を手がかりに色々調べた。そしてメールアドレスとSNSのアカウントを特定したの。そのSNSには一人でリンちゃんを苦労して育ててることが書かれていた…一人で苦労して育ててることがよく分かった。


コン:リンちゃんをここまで育てたのは彼です。彼のおかげでリンちゃんに今、会えました。だからそこは…そこだけは感謝しています。


(沈黙。リン、声を震わせて言う。)


リン:でも…私がいなければ…私さえいなかったらママは夢を諦めることも、日本で虐められることも…病気になることもなかった。死んじゃうこともなかった。


コン:リンちゃん。それは違います。それだけは違います。リンちゃんにずっとずっと見せたかったものがあるんです。


アン:これ…ハー叔母さんからリンちゃんに。いつか渡してほしいって言われてたの。


(封筒から紙を取り出す音。)


リン:ママが私に…。


(ハーの声。手紙の朗読。)


ハー:ママが愛するリンちゃん

リンちゃんごめんね。リンちゃん育てられないごめんね。一緒いれないごめんね。

ママ体弱いだからリンちゃん守れなかた。ごめんね。

でもママ、リンちゃん愛する。リンちゃん会えた一番幸せ。次生まれただったらお姫

様人生いらない。お金持ち人生いらない。でもリンちゃんに会いたいだよ。またリンちゃんギューしたいだよ。リンちゃんとずっと一緒いたいだよ。リンちゃん元気いてね。リンちゃんたーくさん笑てね。リンちゃん友達たくさん作てね。そしてリンちゃん幸せ。ママそれだけ願いよ。次、ママ強くなてリンちゃん会い行くよ。リンちゃん愛するよ。ママにたくさん幸せ。リンちゃんありがとうね。

ママ(トランサンハー)


リン:…ママ…ママ…ありがとう…ママ、大好きだよ…ママ。


コン:私はハーちゃんのことずっと可哀想だと思っていました。なんて可哀想。なんて辛い人生だろうと。でも、この手紙読んで十年以上ずっと毎日考えて思いました…ハーちゃんは幸せだったんです。リンちゃんに会えたから幸せだったんです…どうかリンちゃん。ハーちゃんの人生を認めてほしいです。


リン:私は…ママの子供に生まれて嬉しいです。こんなに想っていてくれたことを…ずっと忘れません。



(鳥の声。足音)


リン:チー・アン。


アン:リンちゃん…ごめんね。急に色々な話聞かせて。疲れたでしょ?


リン:大丈夫だよ。それより…チー・アンは卒業したら日本で働くの?


アン:うん!もう日本の技術系商社に就職することが決まったよ!


リン:…どうして?日本はママを虐めて病気にしたし、ママに優しくなかった。差別だってあるし…チー・アンに日本で苦しい思いしてほしくない。


アン:リンちゃんは…私のパパと同じこと言うんだね。パパも大反対したよ。リンちゃんに会うのは良い。短期で日本に行くなら良い。でも就職はアメリカかオーストラリアにしろって。日本に住むのはやめろって。苦しむ必要はないって言った。


リン:それなら…。


アン:でもリンちゃんに会うこと、リンちゃんの住む日本で働くのは私の希望だった。叔母さんが目の前で死んで精神的な病気になって入院して…子供ながらに絶望したよ。でもリンちゃんに会うこと、リンちゃんの暮らす日本に行くことだけを考えて生き抜いた。それだけが私の希望だった。


リン:どうしてそこまで…。


アン:リンちゃんは私のたった一人の血の繋がった妹だから。リンちゃんは私の家族。


(アン。リンの肩を抱く音。)


アン:私達、東南アジア人種が世界で差別を受けていることは知ってる。日本だけじゃない。世界中で差別を受けている。安い給料で使われて、貧しいって嫌われて、仕事を奪っていると言われて責められる。


リン:そんな…。


アン:でも、だからこそリンちゃんが差別を受けるなら私も一緒に受ける。リンちゃんが差別されて殴られるなら私も殴られる。


リン:チー・アン…。


アン:結論としては私はリンちゃんをもう一人にしたくない。リンちゃんは家族。もう絶対に一人にはしない。


(アン。泣きながら言う。)


アン:リンちゃん。チー・イゥ・エム…私はあなたを愛してる。


(リン泣く。)


リン:チー・アンありがとう。




(数か月後。ラストシーン。空港。キャリーケースを引く音。リン日本に来るアンを待っている。)


リン:あ!チー・オイ!エム・オー・ダイチー・アン!ここだよ!


アン:リンちゃんー!また会えて嬉しい!ベトナム語すっごい上手くなったね!嬉しい!


リン:私も嬉しい!チー・アン日本へようこそ。


アン:日本へ来ましたー!あ、そうだベトナムでリンちゃんに伝え忘れてたことがあるの!


リン:え何?メッセージしてくれたら良かったのに。


アン:直接言いたくて。歩きながら話そう


(二人歩く音。キャリーケースを引く音。)


アン:まずリンちゃんの名前!


リン:え?リンじゃないの?


アン:ベトナムの名前があるの。リンちゃんのママがつけてくれたベトナムの名前。


(二人立ち止まる。)


アン:トラン・ミィ・リン。それがリンちゃんの名前だよ。


リン:トラン・ミィ・リン…。


アン:美しく光り輝く。それがリンちゃんの名前の意味。


リン:美しく光り輝く…すごい…私にはベトナムの名前があったんだ。私はミィ・リンなんだ…名前があるんだ。


(リン涙声で言う。)


リン:ありがとう。私はようやくベトナムハーフになれた気がする…本当の自分になれた気がする。


アン:ミィ・リン。愛してるよ。ところで言わないといけないことがもう一つあるんだ。


リン:何?


アン:私、四年しか日本にいられない。


リン:え?なんで四年?


アン:ステップアップしたいから。日本である程度技術を学んだら次はオーストラリアに行きたいんだ。


リン:でもせっかくチー・アンに会えたのに…4年でさよならなの?


アン:4年って言ったじゃん。


リン:それは?


アン:つまり、リンちゃん今大学1年生でしょ。4年生で大学卒業じゃん。


リン:うん。


アン:大学卒業したら私と一緒にオーストラリア移住しようよ。


リン:え、そんな隣の県に引っ越すような感覚でいいの?だって準備とか仕事とか。


アン:英語は私がマンツーマンで教える。私はIELTSのスコア8だから教えられる。


リン:え、でも仕事は…?


アン:私は技術職だから特に問題ない。仕事はある。リンちゃんは何学部?


リン:…文学部の心理学科。


アン:それなら保育士の資格取って日系保育園で働くとか、精神保健福祉士の資格取るとか可能性が色々あるよ。大学の4年で資格と英語勉強しよう。大学は学ぶ場所だから。


リン:そんな可能性考えたことなかった。


アン:世界は広いよ。リンちゃんはどこにでも行ける。何でも出来る。それに私がずっと一緒にいる。ではリンちゃん。海外移住の可能性が今、リンちゃんの目の前に来ています…乗りますか?


リン:乗る!乗ります!


アン:オッケー!じゃあ出発!

(リンとアンの明るい笑い声。二人が走り去

る音。キャリーケースを引く音。)

終わり

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2つの国を背負って生きたい @trantran8910

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