君と伝える吸血鬼譚

めぐむ

プロローグ

 腕の中で冷たくなっていく友のことをよく覚えている。

 彼は好きだと見上げていた満月を、いつものように見上げて倒れていた。好きだと言った明かりに照らし出された顔は穏やかで、人の死とはかくも美しいものかと。不覚にもそんな虚しい感想を抱いてしまうほどに、友の最期を覚えている。

 髪の色も目の色も服の色も肌の色も、段々と冷えていく体温も、何もかもを。

 余すことなく、そのすべてを記憶の隅々にまで行き渡らせて。ひとつも取り零すこともできずに、私は延々にそのときと友を忘れることなく覚えている。

 永い永い吸血鬼生。私はきっと彼を忘れることはないだろう。たとえ、女々しいと言われようとも。死人に飲み込まれていると言われようとも。どうしたって、忘れられるはずもない。

 その予感を胸にしながら、私はそのときのことを鮮明に覚え続けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る