※ 第10話 強襲

「うぅ、遅くなっちゃった……」



私の誘拐事件から三ヶ月経った。

冬になりコートが手放せなくなった季節。

護衛を付けてくれているからか、その日以来特にトラブルは起きていない。

夜中に高嶺様のおやつを買いに行ったけど、今もこっそり護衛されているらしい。

もっとも、護衛の人が見張っているのはマンションの前まで。

流石にプライベートまで見られたくないみたい。

私も高嶺様に縛られて鳴かされる様を見られるのは嫌だし。





だから油断していた。

私も高嶺様も、鳳組の人たちも。

三ヶ月経って何のアクションも起こさなかったから気の緩みが出てきてしまった。

話に聞くだけでも、澤田会長と女郎蜘蛛が手を引くなんて考えられないのに。


もしかしたら、いくら何でも非道な事はしないだろうという極道なりの信頼があったのかもしれない。


けれど現実として……



「ただいま戻り……っ⁉︎」



私と高嶺様のマンションは襲撃された。

言い終わる前に部屋の中に引き摺り込まれ、両側から腕を抑えられて跪かされる。



「⁉︎ なに……っ⁉︎」


「こんばんは、ひな子ちゃん」


「貴女、は……⁉︎」



初めて見る人。だけど赤髪赤目……そして人を人とも思わない見下す視線。

間違いない……



「女郎蜘蛛……!」


「ご名答。ふふ、可愛いしスタイルも良い……高嶺ちゃんが奴隷にするのも分かるわ」



そう言って煙管をくわえ、フゥ……と煙を私の顔に吹きかけてくる。

煙に思わず咳き込むけど、それをクスクスと笑われた。

  


「ふふ、可愛い。高嶺ちゃんも同じ反応してたわ」


「っ⁉︎ 高嶺様……高嶺様は何処ですかっ⁉︎」


「さぁ? 探してみたら?」


「く……!」



腕を掴まれたまま部屋の中を見渡す。

どうやら女郎蜘蛛の手勢は女性しか居ないみたいだけど……その中には高嶺様の姿は見られない。

もう何処かに連れて行かれた?

逃げられてるならそれが一番だけど……



「何処、何処……高嶺様……っ」


「ぷ、あははははは! 貴女本当に可愛いわね。

ごめんなさいね、見える所には居ないのよ。青、黒」



女郎蜘蛛の呼び掛けに応えるように二人の女性がスーツケースを開いた。

その中には……



「高嶺様っ!」



裸で両手両足を縛られ猿轡をされ……私と同じ首輪を嵌められた高嶺様が納められていた。

二人の女性がスーツケースを立てて乱暴に高嶺様を放り出した……⁉︎



「高嶺様……!」


「んん……っ!」


「は、離して! 高嶺様! 高嶺様ーっ!!」


「落ち着きなさいな。別に取って食おうって訳じゃないんだから」


「高嶺様を解放してください!」


「駄目よ、商品なんだから。逆に言えば貴女は解放してあげても良いんだけど」


「……え?」


「これ、なーんだ?」



女郎蜘蛛が取り出したのは一つの鍵。

見た目は小さくて、そんなに古い物では無さそうだけど……



「ふふ、これはね? 首輪の鍵よ」


「……っ⁉︎」


「貴女の首輪……今は高嶺ちゃんも付けてるけど、GPSが仕込まれてて現在地が丸分かりなのよね。

これがあるから貴女は逃げられなかった。奴隷の立場に甘んじるしか無かった。

だけどこの鍵が有れば貴女は解放される……欲しい?」


「……⁉︎ 欲しい、です」


「ふふ、素直な子は好きよ。条件を呑むなら鍵をあげるわ」


「条件、ですか?」


「まず一つは……緑」


「はい」



緑と呼ばれた女性がタイマーの付いた手錠を持ってくる。



「すぐに警察に連絡されても面倒だからこの手錠を付けて貰うわ。

一時間経ったら自動で外れるから、私達はその間に脱出させて貰うって訳」


「……もう一つは?」


「高嶺ちゃんを蹴りなさい」


「……え?」


「蹴って、踏んで、尊厳を踏み躙って、小娘の分際で私に舐めた口を聞いた事を後悔させなさい。それが出来たら鍵をあげる」


「そ、そんな事出来ませんっ!」


「うふふ、大した忠犬っぷりね。騙されているとも知らずに」


「騙す……?」


「ひな子ちゃんは何故高嶺ちゃんの奴隷になったの?」


「それは……借金の連帯保証人になって借金を背負ったからで……」


「その借金の原因になったひな子ちゃんの元カレ……もうとっくに見つかってるのよ。

奴隷になってから一月もしない内にね」


「え……?」


「それで“色々”やって借金は回収済み。

その時点でひな子ちゃんが奴隷をする必要は無くなった。

本来ならとっくに解放されていなければいけないのよ」


「高嶺、様……?」



高嶺様は俯くばかりで目を合わせてくれない……



「どうしてひな子ちゃんにそこまで執着したか分かる?

それはひな子ちゃんを愛していたからじゃないわ」



そう言って女郎蜘蛛は一枚の写真を放ってきた。この女性は……?



「山中 美咲」


「……っ⁉︎」



美咲さん……高嶺様の大切な人!



「ふふ。この子、ひな子ちゃんと雰囲気が似てるわよね?

歳も体型も顔立ちも、ひな子ちゃんとそっくり。

その体型を維持するようにしつこく言われた事は無い?」


「っ、まさか……」


「そう。高嶺ちゃんにとってひな子ちゃんはただの美咲ちゃんのスペア……代替品。

結局は美咲ちゃんの代わりにされて最終的には捨てられるだけ。

それでも忠犬を気取れるかしら?」


「……そんな」



そんな……そんなのって……!



「貴女は激務ではあるけど高収入な会社でしっかり結果を残して順風満帆の人生だった。

それを高嶺ちゃんは壊したのよ? 貴女を求めてではなく……美咲ちゃんの代用品として。許せないわよねぇ?」


「わ、私は……私は……っ!」


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