※ 第7話 憂さ晴らし

「そ、そういえば体育祭は親御さんは来られるんですか?」



気不味くて話題を逸らしてしまった。



「来る訳無いでしょう。父も兄も極道ですよ。母は既に他界していますし」


「あっ、す、すみません……」


「ひな子が気にする事ではありません。

どうしても親に来て欲しい、という年齢でもありませんし」


「はぁ……」



それは確かにそうなんだろうけど……



「私が行ったら駄目、でしょうか?」



ついポロリと、そう呟いてしまった。



「はい?」


「あの、その……体育祭って、私が行ってはいけませんか?」


「構いませんが……面白くも無いと思いますよ?」


「良いんです!」



つい興奮気味に答えてしまった。高嶺様はポカンとしている。

し、しまった……! 奴隷なのに何を家族面して……⁉︎



「すみません!私如きがこんな事を……!」



あたふたと弁明する私に高嶺様は少し考えて……けれどその割にはあっさり頷いてくれた。



「まぁ、別に構わないでしょう。

学校には従姉妹だと伝えておきます」


「あ、ありがとうございます! お弁当沢山作っていきますね!」


「食べ切れる量にしてください。私はひな子と違って少食なんですから」


「わ、私だって大食いな訳じゃないですよ……⁉︎」


「そうですか。まぁ、楽しみにしていますよ」



うぅ……本当なのに。

……本当にちょっと食べるのが好きなだけなのに。


まぁとにかく体育祭には行ける様になった。

これで少しでも高嶺様を楽しませられたら……



※※※※※



体育祭当日。


早めに起きてお弁当作り。

おにぎりに玉子焼き、唐揚げにポテトサラダ……というありふれたメニューだけど喜んでくれるかな?



「応援するのは構いませんが様付けはしないように」


「は、はい!」


「では私は先に行きます」


「いってらっしゃいませ!」



それから準備を進めて……



「お弁当よし! 首輪隠しよし! キスマークもなし! 出発!」



※※※※※



「ここが高嶺様の学校……」



校庭には既に父兄の方々がシートを広げていた。

空いてる所を見つけて私もシートを広げる。



「あ、入場……」



生徒達が入場し、開会式が進行する。

開会式が終わると早速競技の始まり。


高嶺様は……あ、いた! やはりと言うか案の定というか孤立している。

何しろ現役JKヤクザ。噂は広まってるみたいだし……



『続いての競技は100メートル走です』



アナウンスが流れ、高嶺様を含む各クラスの女生徒がスタート地点に並ぶ。



「位置について! よーい!」



ピストルの音と共に一斉に走り出す生徒達。高嶺様は……



「お、遅い……」



前々から思ってたけどやっぱり運動は苦手みたい。

フォームもバラバラ。転ばないかハラハラしてしまう。



「た……」



高嶺様、と叫びそうな所をぐっと堪える。

今朝に高嶺様とは呼ばないようにと言われたばかり。

今の私は従姉妹という設定。だから……



「高嶺ちゃーん!」



ちゃん呼びは許してほしい。


もっとも、応援されたからと言って急に足が早くなる訳も無く、高嶺様は最下位だった。

だけど……決して最後まで諦めず、手は抜かなかった。



時間は過ぎてお昼ご飯。

高嶺様が私のシートの所にやってきた。



「本当に来たんですね」


「はい! じゃなくて……うん!

お弁当も作ったから食べて食べて!」


「頂きます」



そう言って高嶺様はおにぎりを手に取り、一口食べた。



「……美味しいです」


「良かった!」


「でもこんなに食べられませんよ」


「ひぅ⁉︎ ご、ごめんなさい……!」


「……さっき高嶺ちゃんと呼んでいましたね?」


「は、はい……!」


「今は従姉妹、ですからね。高嶺ちゃんで良いよ……ひな子お姉ちゃん」


「……っ⁉︎」



な、何この破壊力は……!



「お、お姉ちゃん……?」


「ダメ?」


「ダメじゃ無いよ! た、高嶺ちゃん!」


「……良かった」



ふい、と顔を背けて高嶺様はお弁当を食べ始める。その横顔は少し赤かった。

そんな様子に私は胸がキュンキュンしてしまう。

あぁ、可愛い……!

結局と言うかやっぱりと言うか、お弁当は全部は食べきれず残りは私が食べる事になった。体重が……


その後も競技は順調に進み、高嶺ちゃんは相変わらずの最下位争い。

だけど、それでも……汗びっしょりになりながら最後まで真剣に取り組み続けた。



※※※※※



「……で、するんですか?」


「えぇ」



体育祭を終え、食事や入浴も終え、さあ寝ましょうという気分になっていた。

だけどそれは私だけだったみたいで、高嶺様に部屋に呼ばれて……今は全裸で手足をベッドの四隅にXの字に繋がれている。



「その、お疲れでは……?」


「確かに疲れてはいますが、それ以上に悔しかったので……憂さ晴らしです」


「そんなぁ……あっ、高嶺様……っ」


「……ひな子」


「は、はい? んっ……」


「今だけは私の事を高嶺ちゃんと呼びなさい。

私は貴女の事をひな子お姉ちゃんと呼びます」


「……えぇ⁉︎ ちょ、高嶺さ……」


「ひな子お姉ちゃん……」


「ひぅっ⁉︎」



み、耳元で囁かれて……!



「た、高嶺様……」


「高嶺ちゃん、って呼んで?」


「た、高嶺ちゃん……?」


「んふふ、ひな子お姉ちゃん」


「あぁっ! 高嶺ちゃん! 高嶺ちゃん……っ!」



耳元でひな子お姉ちゃんって呼ばれて

私は高嶺ちゃんって呼んで

まるで姉妹みたいに呼び合うのに気持ち良い事は止めてくれなくて


すぱーくした





「……んぁ」


「目が覚めましたか?」


「高嶺様っ⁉︎ わ、私はどうなって……」


「気絶してました。そんなに気持ち良かったですか?」


「あ、うぅ……っ」


「クス……その気になったらまたしてあげますよ。ひな子お姉ちゃん」


「ひゃ、ひゃいぃ……」



あぁ、年下の女の子と姉妹プレイして気絶するぐらい果ててしまうなんて……

恥ずかしすぎてまた気絶しそう……!

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