親が決めた結婚は嫌なので、家から飛び出して商業ギルドを作って自立してみた!!

入江 郊外

第1話 お嬢様な金策編①

 リーシャ十五才の頃


 王国屈指の公爵貴族、ケンベルク家。国内でも五本の指にも入るといわれる一家のお嬢様であるリーシャ・ケンベルク。彼女は父親でケンベルク家の当主でもある”サダルージ”に言われ、無理やり学校へと通わされ、お嬢様として、そしてケンベルク家の娘という上辺だけの立ち振る舞いをすることを強いられる学校生活を送っていた。


 三年が経ち、ようやく訪れた卒業の日。これで、この退屈な上辺だけの学校生活にも終わりをつげ、二度と訪れることはない学校の門を出る。

 心地の良い風が吹き、リーシャの薄赤い長い髪が周りの木々や草花と同じようにきれいになびく。


 すがすがしい気持ちの中、これから自由奔放な生活へ夢と希望を、赤く長い髪を耳に掛けながら胸の中で描く。

 そんな彼女の夢を打ち砕くように、馬の蹄の音とともに遠くから見覚えのある馬車がやってくる。


 ――うちの馬車だわ。いやな予感がする。


 リーシャの予感は当たっていた。リーシャの目の前に馬車が止まると、サダルージの執事が下りてきて、胸に手を当てながら軽く会釈をした。顔をあげると何一つ表情を変えずに宣告した。


「リーシャ様、お見合いの時間です」

「はい?お見合いですって!?」

「はい、お見合いです。すでに段取りの方は準備しておりますので、馬車の方へ。これはサダルージ様のご命令でありますから」

「お見合いの話なんて私は聞いてないわ!!それにお父様は今まで何も言ってこなかったじゃないの!!」


 リーシャは、門を行きかうほかの生徒がいる中にもかかわらず、感情的になってしまい、ほんの少し声を荒げて執事に言い放つ。


 サダルージの執事は、リーシャの心情なんか気にも留めないように、声色は淡々としたまま、あえてより静かに忠告した。


「リーシャ様、お立場を弁えてください。名家の女子、しかも公爵貴族の女子に相手を選ぶような権利があるとお思いですか?」


 リーシャは執事が静かに言った意図を理解し、少し周りを見渡した。周りにいる生徒の視線のほとんどが自分の方に向いていると気づいた彼女は少しうつむいから、選択肢が一つしかないこの現状を受け入れるしかなかった。


「…………自覚が足りず……申し訳ございません」

「では、馬車へ」


 リーシャはこれ以上、何も言うことはできなくて、黙って馬車に乗り込んだ。

 馬車が馬の蹄と共に音を立てて動き出す。

 リーシャは馬車の中で向かいに座っている執事に聞いた。


「お父様は今どちらへ?」

「お屋敷で執務をなさっているかと」

「あぁそう?」


 窓の向こう側の街並みを、しばらく黙って眺めている彼女は、その景色が流れなくなったところで行動を起こすのだった。


 いきなり立ち上がったリーシャは、馬車の扉へと手をかけた。


 執事は微動だにせずに、リーシャにも目を合わせることをせずに、淡々と言うのだった。


「お嬢様、無駄ですよ」

「無駄?私が今からするのは、お父様に許しを請うことではなくてよ!!」

「おやめなさい。私は忠告しましたよ?」

「あなただって、そんなに私を止めたいというのなら、馬車の扉に鍵をかけておくべきだった。そうでしょ?」

「はい、その通りでございます」


 リーシャは馬車から飛び出して、全力で自分が住んでいた屋敷へと走り出した。

 息を切らしながら、屋敷までたどり着くと、メイド達のお出迎えを振り払って、父親であるサダルージの執務室へ向かい、ドアを軽くたたいてノックをした。


「お父様、リーシャです」

「何故お前がここにいる?執事にお見合いの相手方へ屋敷へと行くように言ったはずだが?」

「馬車から降りて戻ってきました。ドア越しではお話もしにくいですし、入ってもよろしいでしょうか?」


 リーシャは、父親に執務室への入室の許可を聞いた。ただ、返事は一向に返ってこない。ドア越しで退治している二人に長い沈黙が流れた。

 彼女はもう一度ノックをした。


「お父様?」


 返ってきたのは、返事でも怒号でも罵声でもなく、机をぶっ叩いた音。


 リーシャはその音に一瞬委縮してしまったが、大きく息を吸い込んで決心した。


 ――お父様の言いなりじゃ、ケンベルク家の道具にされてしまう。なら、私は私の意志で生きたい!!


 お父様が今だにリーシャに対して何も返事をしていないなか、彼女は執務室のドアを開けた。


 サダルージは執務室の机で筆を手に取り、目の前の書類に目を通しながら、ペンを片手に黙々と筆を執っていた。

 リーシャがドアを開けても、手元の書類からは目をそらさずに、少し強い口調でリーシャに言いつけた。


「今すぐにでもお見合いに行きなさい!!」

「いえ」

「先方にも失礼だと思わないのか!!」

「はい、重々承知しております」

「ならば、どうして今お前はここにいる?」


 リーシャは執務室の中へと、大きな一歩を踏み込みながら向かっていった。サダルージが黙々と執務をこなしている机へと。

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