【第3話】
それからショウとユフィーリアは、各エリアのアトラクションを楽しんだ。
「え、これ落ちるよな落ちるよな落ちる落ちる落ちるひゃっふー!!」
「ひゃあああああ!!」
ウォータースライダーみたいなアトラクションでは、全身がずぶ濡れになるほど水を被る羽目になった。全部が終わり、互いの姿を見て思わず吹き出してしまった。
「おおおお凄え速い速い速い!!」
「わわわわわわーッ!!」
暴走機関車をテーマにしたジェットコースターでは思い切り振り回されたが、そのスリルがとても楽しかった。
「この歌、何だか眠くなりそう」
「寝るか?」
「いや、人形が綺麗だから見てる。寝そうになったら引っ叩いてくれ」
「寝ないように頑張ってくれ……」
小舟に乗って歌を唄う人形たちの群れの中を進んでいくアトラクションでは、人形が身につけているドレスなどの衣装に目を奪われた。世界中の景色や建物がデフォルメされた内装がとても胸を躍らせる演出だった。
他にもランダムで行き先がバラバラになるティーカップに乗ったり、室内型のジェットコースターに乗ったり、メリーゴーラウンドに乗ったりなど様々なアトラクションに乗ることが出来た。アトラクションに乗るには並ばないといけないと聞いていたのだが、どのアトラクションも比較的空いていたのであまり待たずに乗ることが出来たのは奇跡である。
思う存分にアトラクションを巡ることが出来たショウだが、どうしても乗りたいものが1つだけある。それはおそらく、ユフィーリアが好まないものだ。
「どうしてもダメか?」
「うーん……」
件のアトラクションの前で、ユフィーリアは渋面を作る。
そのアトラクションの内容が、コースター型のお化け屋敷だ。古びた洋館に住まう大量の悪霊が云々という物語の内容で、アトラクションの見た目もその物語を忠実に再現していた。
ショウはこのアトラクションに、どうしても乗りたかったのだ。ユフィーリアは苦手だと知っているのは重々承知だが、初めてこのアトラクションを知った時は「どうしても乗ってみたい」と願ったほどである。
非常に悩む素振りを見せるユフィーリアは、
「どうしてもか?」
「お願いだ、ユフィーリア……」
「お願いされると弱いんだよなァ」
ユフィーリアは「分かった」と頷き、
「ただ、手を繋いでいてくれよ。多分終わったら死んでると思うから」
「死なないでほしいのだが、貴女のお願いなら受け入れよう」
少し緊張気味のユフィーリアと手を繋ぐと、彼女は離さないとばかりに指先を絡めてきた。
☆
いざコースターに乗ったらユフィーリアがガタガタと小刻みに震え始めた。
「あば、あばばばばば」
「ユフィーリア、大丈夫だ。手を繋いでいるから」
小刻みに震えるユフィーリアを落ち着かせるように、ショウは強めに彼女の手を握ってやる。
怯えるユフィーリアをよそに、2人を乗せた黒いコースターはゆっくりと屋敷の中を進んでいく。古びた扉が並ぶ廊下の先にあるのは書斎のようで、背の高い本棚には古い布や蜘蛛の巣などがかけられて屋敷の荒れ模様を演出している。
その前に置かれた4人のおじさんの胸像が、コースターの動きに合わせて首を動かしていた。どこにいても目が合うような不思議な感覚である。
「目が合った!!」
「ユフィーリア、落ち着いて」
反射的に魔法を使おうとするユフィーリアを、ショウは宥める。
グイグイと暗い中を進んでいくコースターは、どこかの廊下に行き着いた。その先に浮かんでいるのは小さな火が灯った燭台である。ゆらゆらと空中で揺れるそれを見てしまったユフィーリアの口から「ぴッ」という短い悲鳴が漏れた。
勝手に音楽を奏で始めるピアノでは肩を揺らして驚きを露わにし、扉が内側から叩かれる場所では「どちら様ですかァ!?」と声を上げる始末である。もはやユフィーリアの驚き方がエンタメと化していた。
そして最大の見せ場である幽霊たちの舞踏会では、
「わー、幽霊たちが踊ってるー」
「とうとう現実逃避をし始めてしまった」
据わった目付きで遠くを見つめるユフィーリアに、ショウは申し訳なさを覚える。こんな状態になるんだったら乗せなければよかった。
黒いコースターはどんどん進み、最後には屋敷の庭と称される広い空間に行き着く。そこは墓地がテーマとなっており、老人と痩せぎすの犬が墓を荒らしている場面が見れた。やけによく出来た人形たちで、すぐ近くを通り過ぎると「はあ、見つからない」「くぅーん……」という音声が流れる。
そして墓荒らしの場面を通り過ぎれば、次は墓場での大運動会だ。主にゾンビが墓石の影から顔を覗かせていたり、棺の蓋を開けようとしていたりと洋風のお化けといったものがわんさかと並んでいる。
さすがに悲鳴を上げるかと思ったショウだが、
「
「あ、心配するのはそっちか」
ユフィーリアが見当違いな心配を見せてしまい、ショウの懸念は杞憂に終わる。まさか魔女観点で冷静に分析するとは想定外だ。
だが、最後に待ち受ける鏡越しに子供の幽霊が映り込む映像には甲高い悲鳴を上げていた。これはさすがにショウでも悲鳴を漏らすほど出来栄えは素晴らしかった。
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