スローモーションで踊って

らくがき。

スローモーションで踊って

世の中はこれを恋と呼ぶのだろうか。

昨日、深夜にある映画を見た。仕事が遅くまで続いてしまい、疲れていたせいなのだろうか。何故かその作品を見ていた時間が幻ように感じられ、ずっと頭から離れなかった。

時がスローモーションになって、映像に少女漫画とかでよくある、あのキラキラエフェクトがかかっていたかの様だった。変だよ変。そんなはずない。だけど、そんなの気にする余裕が無い程に私は夢中になっていた。

そんな感覚の中私は、その作品の色、音、息遣い、全て見逃すまいと目を見開き、呼吸をも忘れてその映画を鑑賞していた。

美しかった。何もかもが美しかった。でも、同時に何もかもがぎこちなくて、不格好だった。その矛盾に、私はものすごく人間を感じていたのだ。そこにいるのは紛れもなく人間だった。私と同じ人間。

「あるよね、そういうの!映画とか見てハマって、その作品の監督とか、俳優さんとかのこといっぱい調べちゃうの!あるあるだよ」

昼休憩に一緒にランチをしていた友人は、呑気にサンドウィッチを頬張りながら、私の話を適当に受け流していた。

「いや、そうじゃなくて。何か特別な、運命的な?そういうのを感じたんだって!」

「何それ、あんた疲れてんだよ」

「そうなのかな」

私は納得がいっていなかったが、諦めて同じくサンドウィッチを口に運んだ。あまり味がしなかった。

その夜、もう一度その映画を見ることにした。何故か変に緊張してしまい、再生ボタンを押すのに少し時間がかかってしまった。

映画は、数日前にレンタル屋で借りてきたものだった。あらすじなども見ずに、何かに命じられたかのように、一直線にその作品に向かって手を伸ばしていた。

運命という言葉を使うなら、私は作品というのに出会えた瞬間に使いたい。特に店やネット、色んな場所をフラフラと漂っている時に、気になる作品に出会えたあの高揚感は、何物にも代えがたい。

私は、もう一度その映画を見ることで、あることに気がついた。私はただただ純粋に、この作品に出会えて嬉しかったのだ。もしかすると、この先ずっと出会うことが無かったのかもしれないと思うだけで、胸が苦しく、私の心臓は動くことをやめてしまいそうだった。

昔からずっと思っていたことがある。作品というのは、人間の脳や肉体など様々な部分から創り出されたもので、その人の生命そのものだということ。私は、それを全身全霊で感じたい。余すことなく、私も命懸けでそれを受け止めたい。私なりの作品への愛だった。

気がつくと、私は涙を流していた。

「嬉しいんだ。そうだ!嬉しいんだ!私はこの作品に出会えて嬉しくて仕方がないんだ。」

私は勢いよく立ち上がって、泣きながら叫んだ。感情でいっぱいになった私は、何かに突き動かされるかの様に、必死で踊っていた。部屋を真っ暗にして見ていたせいで、色んなものに足をぶつけた。

不格好だっただろう。だが、美しかったに違いない。作品と私が重なった瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スローモーションで踊って らくがき。 @uuuiiobgrl132

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ