第4話
油井君のレベルが5を超えると2人の行動範囲は広がって、いよいよ魔王討伐に向けた冒険が始まった。
それでも油井君の経験値の上限が来るまでだから思うようには進まないんだけど、土屋君は油井君が休んでいる間は1人で敵を倒しに遠くまで出かけて行くようになった。
なんでも、一定の距離さえ開いていたら土屋君が倒した敵の経験値が油井君にまで入らないことを発見したとか。
レベルの上限もそうだけど、土屋君ってなんだか色々と気付く人なんだなー。
土屋君と離れている時の油井君は、敵と戦う為にと剣の素振りをしているか野草を摘んでいる……んだけど、全然平和的じゃないのよ!
剣の素振りはまぁ良いんだけど、野草を摘む方が頭おかしい。
異世界の草木なんて、地球で植物博士とか呼ばれている人でも、その知識は生かせないと思うのよね。
だって未知の生物でしょ?どんな毒があるのかも分からないし、もしかしたら即効性の高い毒かも知れないのに、油井君はいちいち口に含む。
食べられる草かそうじゃないかの基準しかないわけ?
どうせそれで毒にあたっても我慢して土屋君の前では平気な振りするんでしょ?
「勇者様を誑かす魔族め!」
急に知らない声が聞こえて、アップで見ていた視点を少し引いてみれば、油井君の後ろに人間が5人立っているんだけど……油井君のことを魔族とか言った?
や~、分かるよ?
ファンタジーバリバリの世界観の中で現代学校の制服姿ってのは目立つし、毒草かも知れない草を躊躇せずに口に含む行動は魔物っぽい。
「ま、魔族?」
驚いて立ち上がった油井君は、まさか自分が魔族と呼ばれているとは思ってもいないのか、キョロキョロと周囲を見渡している。
「危ない!」
そんなほぼ無防備な油井君の頭に向かって、1人の人間が武器を振り下ろし、酷く鈍い音がして、油井君はその場に崩れ落ちてしまった。
そんな……。
「ぅ……」
「まだ生きてるぞ、トドメを!」
ちょっと、やめてよ……どうして、こんな……。
どうして助ける対象によって殺されなきゃならないわけ!?
魔物と戦闘して負けたとか、私みたいに囮に使われたとか、そんなんじゃなくて、どうして人間によって殺されなきゃならないの?
「油井!」
土屋君の声が聞こえてすぐ、油井君に追加攻撃をしようとしていた人間が炎に包まれた。
また少し引いてみれば、少し離れた所からダッシュしてきた土屋君が、炎に包まれている人間を他所に油井君に向かって回復魔法をかけている。
「勇者様、我らと共に来てください」
そして人間達も、炎に包まれている仲間のことなど見えていないかのような態度だ。
「油井、しっかりしろっ!油井!頼むから……息をしてくれ……」
え……。
息、してないの?
え?待って、本当に待って。
「藍川君っ!藍川君!」
私は部屋を飛び出すと、ここで目覚めた時に寝かされていた保健室のベッドがあるカロンの部屋に駆け込んでいた。
「茶山さん、油井はまだなんとか生きてるから落ち着いて」
え……私、まだなにも……。
あ、え?生きてる、の?
「まだなんとかって……危ないの?」
藍川君は水晶を眺めたままオイデオイデと手招きをしてくるから、恐る恐る近付いて水晶を覗き込んでみると、土屋君が油井君の回復に専念していた。
酷い怪我に変わりはないけど、それでも苦しそうに呻き声を上げているから息は吹き返したみたい。
もー、心配ばかりさせちゃってさ!
もう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます