第26話 再びアザイドへ〈カンネ救出〔起〕〉

 早速、ハヤセたちは行動を開始しようと、その手順を確認することにした。


「ルシアさん、どうやってアザイドに戻るんだよ。またあの転移陣を使うのか?」


 ハヤセの問いに答えるように、ルシアは頷きながら返した。


「──そうね……。それが一番手っ取り早いわね。でも、普通に使用したら真創を大量消費するから借りるわ。ただ、ロイゼンとか言う副所長が明日の午後くらいと言って、今日はもう日付を超えてるから1日空くことになる……。これがどういう事か分かる?」


 そう問われたハヤセとキキノは疑問を浮かべていた。なぜなら、焦っているのなら、すぐにでも誘き出せばいいものにも関わらず、という事だ。


 何かの理由があると察したハヤセはルシアに聞き返していた。


「──ロイゼンは何かを企んでる? という事なのか?」

 これに続くようにキキノも口を開いた。


「……準備を整えている? という事ですか?」


 キキノの返事にルシアは大きく頷くと、言葉を続けた。


「キキノちゃんの言う通りよ。1日空けたと言うことは、必ず来ると確信している訳なの……。だから、この間にあなた達を捕える為の準備を確実に行おうとしている。恐らく、これまでと比べ物にならないほどの敵を用意していると思うわ……。転移陣を使ってアザイドに向かっても、その周辺には必ず敵を用意している。だから、借りる座標を少しずらしアザイドの違う場所へと転移しようと思う」


 ルシアのその説明を理解したハヤセとキキノは顔を見合わせると、ハヤセが口を開いた。


「でも、座標を変えるってどうするんだよ? それに真創を使用せずに転移陣をどうやって利用するんだよ?」


「真創を使用しないとは言ってないわ……。を使用しないの。私がその代わりをするから大量消費はないし、座標も変えられる」


「そんなことが出来るのかよ……」


「まぁこれは、真創を使用する為の恵印が強くないと出来ないけどね。恐らく、一部の者にしかできないわ。だから尚更、ロイゼンはアザイドの転移陣付近に敵を配置するはずよ。まさか、そことは全く違う場所に現れるとは思っていないでしょうから……」


 そう説明し終わると、ハヤセとキキノに準備を促した。

 まず、ハヤセには、学生服とは違う動き易さと、防御能力を施した皮の服を着るように言い、キキノには着物のような囚人服から、膝丈ほどのスカートにショートタイプの黒のレギンスを合わせ、上半身はオーバーサイズのロングシャツを着用してもらい、こちらも防御力強化を施してあった。


 ルシアは黒のショートパンツを履き、こちらもオンバーサイズのロングシャツを着用していた。


「じゃあ準備は出来たわね!」

「早速向かうんだろう?」 


 キキノも頷いた。

 でも、ルシアからは予想外の言葉が出て来た。


「じゃあとりあえずご飯にしよっか。すぐに準備するわね」


 ルシアのその言葉にハヤセとキキノは再度顔を見合わせると言った。

 

「ルシアさん! 今はなるべく急がないと!」

「──あの、ルシアさん……? 私も急いだほうがいいと思うんですが……」


 そう言うハヤセたちに、腰に手を当て胸を張り言った。


「急ぐのは分かるわ。でもね、アザイドから戻ってすぐにまた向かうのは体力的にも集中も切れかねないからね! 急いでいる時こそ、ちゃんとした準備をしないとね? だから、ひとまずご飯は食べよ! ロイゼンもこの短時間ならすぐには準備出来ないから」


 ルシアは笑顔で言うと、食事の準備を始めた。


 この時間は、大きな戦いの前のひとときであった。


 これから起こる大きな出来事の、唯一のほっとする、落ち着ける時間になった。

 

 

 

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