BAD ENDから始まる異世界再起物語

やまたのおろち

第1話 終わりからの始まり

ああ、死なせてくれないか。

暗く、狭く、怖い牢獄に囚われた俺は、もう、生きたくなんかない。復讐なんてする気力も湧かない。ただ、死なせて欲しい。


チートも、レベルも、強さも…仲間も。全てを失った彼はこの世界に絶望する。これでも彼はかつては最強の勇者だった。そう、かつては。ああ、懐かしい。愚かだった。




「勇者様、この世界をお救いください!」

「いいぜ!」



「はじめまして勇者様。私はこの国の王妃、ベトレイです。あなた様の冒険は私がサポート致します」

「まじか!異世界最高!」




「今のは弱すぎるって意味だよな?」

「強すぎるって意味よ!」




「あのドラゴンを一撃!?キャー!素敵!」

「あれ、俺またなんかやっちゃった?」

おれのハーレムがまた、増えた!


「私はマーガレットです!これからよろしくお願いします!」

「全く、あんたなんかいなくたっていいのに!いいこと?ユキヤには絶対迷惑かけるんじゃないわよ!」


ああ、懐かしい。楽しかった。魔王を魔法3発で倒せたのには当時は流石に拍子抜けしたけど。—そこまではよかったんだ。




「明日、正式に宴を開くのよ!だから、今日はゆっくり休みましょ?」


出会った当時とは考えられないくらい態度が柔らかくなったベトレイ王女がそう言ってきた。


「ああ、そうだな!じゃあ、俺も休ませてもらうか!」


俺は自室で明日に備え眠りについた。それが間違いだったのか?



「あれ、何で手錠で繋がれてんの?」


朝起きたら、何故か宿屋ではなく冷たい監獄。


「あら、起きたようね」


美しい顔から腐った笑顔がこぼれ落ちている。ベトレイ?どうしたんだ?

ベトレイの隣には…誰だこの男?


「この人はナトリサム王国のクラプ王子。私の婚約者よ」


こ、婚約者!?


「あなたは魔王との戦いで死んだ。—国民にはそう、伝えてあるわよ」


は、はぁ?


「じゃあね。私たちは優雅な王都で。あなたは、この古びた監獄で余生を暮らすことになるから」


状況が掴めないが、どうやらベトレイに裏切られたみたいだ!俺は究極スキル『ハヤブサ』でこの手錠と檻を斬り………あれ?



「おいおい、その『ハヤブサ』とやらはこれか?」


なんと、クラプが適当な檻を神速の速さで叩き斬ったんだ。

なんでこいつが…!?


「ああ、あなたが寝てる間に国の極秘施設でレベルとかスキルとかをクラプに移しといたから。今のあなたはただの一般人」


な…!?


「じゃあね。…他のパーティーメンバーもこのクラプ王子の虜だから。強さも名誉も何もかも失ったあなたなんか用済みみたいよ?…1人、面倒なのはいたけど」


ベトレイはそんなことを言いながらこの部屋を出て行った。


「おい、ふざけるな!」


俺以外誰もいないこの監獄に、絶叫が響く。ああ、異世界なんてクソだ。




あれから1年。もう俺には何もない。

元の世界に帰してほしい。それか、死なせて欲しい。


「敵襲だ!相手は女1人、魔法使いだ!」

「俺らじゃ手に負えん…応援を要請しろ!」


なんだ、外が騒がしいな。…どうでもいいことか。別に。ああ、俺の何が悪かったんだろうか。死なせて欲しい。戻して欲しい。帰らせて欲しい。——誰か、助けて欲しい。


突如、牢獄の冷たい壁に大きな穴が空いた。


「さぁ、こんな国からとっととおさらばしましょう!」


俺にとって勇者となる人物が、現れたのだ。

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