対怪物部隊:アルゴー

不細工マスク

FILE ONE: Arkansas

『こちら本部、半径2kmの隔離及び半径5kmの避難完了を確認、作戦を開始せよ』


「こちらアルゴー1、了解した。直ちに作戦行動に移る」


人員輸送型エアオスプレイで森を駆け、アメリカの膨大な田舎風景を楽しむ。作戦行動前の細やかな楽しみだ。向かう先はマッケンガー農場だ。

「調子はどうだ」


声をかけてくれたのはジャスティン“イアソン” アウゴスティン隊長、身長こそ低いがガタイは良く顎髭が凄い。

「ええ大丈夫です」


「無理はしなくても良かったんだぞ。アラスカでの一件で受けた打撃はそう軽いものではないはずだ、お前だけヘリに残ってもいいぞ」


「心配ありがとうございます、ですけど平気です。それに今回はレベル3に該当する怪物です、人手不足で作戦失敗は洒落になりません」


前回のアラスカでの任務では派手に投げられたからな、木にぶつかった衝撃で骨の幾つかが折れた。

「イアソン隊長、もう直ぐ着きます」


「分かった。今回の怪物はレベル3に該当するスキンウォーカーだ。この中にも何度か対峙したことがあるやつもいるだろう。数は不明、農場には動物を含め30の生命体を観測している。以上だ、総員暗視ゴーグルを忘れるなよ?アルゴー、任務を開始する」


ヘリの両サイドから3人と2人の武装した兵士が降りる。ヘリが飛び立つとすぐさまフォーメーションを取り数メートル先の家に向かう。

『こちら本部、衛星より確認、そちらに向かう生命体の反応が一つある、最大限の注意を払え。方角は11時の方向』


「こちらアルゴー1、了解した」


俺たちは止まり生命体のいる方角に銃を向け敵が顔を見せるまで待機した。来たのは一匹の牛、どっからどうみても普通の牛だ。だがスキンウォーカーとはそういう怪物、捕食した動物になりすまして次の獲物を狙う。そうこれが奴らのやり方だ。

「目視した。発砲許可を」


「まだだ、確実にスキンウォーカーだと断定してからだ」


「ラジャ」


スキンウォーカーは次の捕食対象を捕食する際、一度だけ身体が異形化する。その瞬間を狙って撃てば素早く殺せるが異形化して捕食するまでに1秒とかからない。常人なら、いや、並大抵の兵士なら発砲しようと考える前に捕食される。が、俺らはそうはならない。なぜなら特別に訓練されたからだ。奴の身体が異形化した瞬間、時間にして0.2秒、それを確認し、0.3秒には発砲している

「目標ダウン」


「目標ダウン、引き続き家に向かう」


スキンウォーカーの特徴は目だ。奴らの目には殺気が宿ってる。もう一つは異形化する瞬間の0.2秒、体の周りが乱れた映像にようなエフェクトが掛かる。残念な事に、これについては研究者どもも解明に手を焼いている。

忍足で死角を埋め合いながら目標地点の家に向かう。この家には事前情報だと4人が住んでいて子供1人と親2人と老人1人だ。家には灯りがない、全員捕食されたか或いは隠れているか。

「前方注意、ドアが開いてる」


エウフェモス軍曹サージェントが指摘した。

「確認した」


イアソン隊長キャプテンが短く返した。

「窓にも注意、今人影が一瞬見えた」


オーフィアス伍長コーポラルが伝えると同時に隊は止まり各々窓へと銃口を向けた。

「左側一階の窓」


そこには確かに人影があった。こちらを見ているようにも見える。

「発砲許可を」


「ダメだ」


エウフェモス軍曹の問いにすぐ答えるイアソン隊長。

「まずは異形化してからだ。これで生存者だったらまずい」


様子を伺っていると人影はスーッと奥に消えて行った。それを確認してから隊は動き始めた。

ポーチに上がり窓に注意しつつ、エウフェモス軍曹がドアを開ける態勢に入りオーフィアス伍長が銃口をドアに向けた。隊長は少し離れたところからドアに銃口を向けている。俺とアトランタ三等軍曹は窓周りだ。本来なら俺かアトランタ三等軍曹がドアに銃口を突きつけるはずが今回は隊長がオーフィアス伍長を任命した。理由は多分教訓の一環だろう、まだきて日が浅いから。

ドアを勢いよく開けてオーフィアスが中に入る。それに続いて隊長、俺そしてアトランタ三等軍曹の順で入って行った。玄関の下には動物に毛皮で作られたマットがあり壁には鹿の頭が飾ってあった。

「キッチン、クリア」


エウフェモス軍曹がひと足先にキッチンに行き状況確認した。

「2階から物音」


俺はそう報告した。十中八九さっきの人影だと思う。

「よし、2階に上がるぞ」


1人ずつ注意深く2階に上がる。銃身に備え付けのライトで照らしながら上がると2階は4つ部屋があった。さっき見た人影は位置的に一番奥の部屋だ。

「一つずつ部屋を確認していく」


最初の部屋は子供部屋だった。ベッド二つあることから子供たちはここで寝ていたらしい。

次の部屋は書斎と合併したような作りだ。推測でしかないがここは老人の部屋だろう。床には丸い跡が幾つもあった。ステッキを突いて歩いていたのだろう。

次の部屋は物置で特に何もない。

最後の部屋はさっきの人影のいた場所だ。皆息を呑んだ。ドアを開けると窓際には今にも少女が飛び降りようとしていた。その顔は泣きじゃくった後のグジャグジャな顔でこっちを驚いた様子で、怯えた様子で振り返った。こっちを見るや否や慌てた様子で窓から身を乗り出す。

「待った!」


その声に反応して少女は静止した。

「ジェニー・マッケンガーだね?俺たちは君を助けにきたんだ」


少し間を置いてからジェニーは答えた。

「本当に…?」


「ああ、君はこれから助かるんだ」


少女は落ち着いた様子でやっと窓から降りてこっちに歩いてきた。

「よし、アトランタ三等軍曹がヘリまで連れて行け」


「ラジャ」


言い終えると隊長は無線に連絡を入れた。

「こちらアルゴー1、エアオスプレイを一機、救助者一名。子供だ」


『こちら本部、了解した。3分以内に到着する』


「俺らは引き続き任務を遂行する」


この牧場に何匹いるのか分からないが、スキンウォーカーは大抵3体で行動する。なぜそうなのかは分からないが3体以上であった場合がない。これから言えることは後多くて2匹はいる。

ジェニーを保護した後俺たちは家を満遍なく探したがスキンウォーカーはおろか、残りの家族もいなかった。血痕は残っているが死体がない。4人家族で1人は生存していた、残りのスキンウォーカーは2体、あと1人生きていると考えれる。

「望み薄だな」


隊長がポツリと放った。

「スキンウォーカーは捕食時に血痕を残さない。つまりこの血は生存者が他の何か逃げようとした時につけられた傷と見るのが妥当。この量の血だとまず助かってない。大体30分だから生存率は5%を下回ってるな」


「でも残り1%になるまで俺は賭けます」


「それがお前の悪い癖だ、諦めることを覚えろ」


「いいえ諦めません。少なくともこの牧場全てを探すまでは」


隊長はふっと笑うと緩んだ顔を直して俺に言った。

「タイムリミットは10分だ。それ以上は捜索しない、いいな?」


「ありがとうございます!」


「アトランタはヘリで上空から異常がないか確認してくれ」


無線越しにアトランタ三等軍曹に伝えた。

「場合によってはスナイパーの使用も許可する」


スナイパー、対怪物用内蔵破壊弾式狙撃銃A M O D S、これは代々アトランタの名前を継いできた者が扱う事を許可されてる専用銃。一発で怪物を仕留めることができるが、地上だと反動のデカさ故に扱いにくいが、エアオスプレイに搭載してある反動相殺機と連結することで7割は軽減できる。でもスキンウォーカーは普通の弾でも仕留めることができる、スナイパーを準備させてるのは違う脅威が人よりもデカいと仮定しての行動か。

「この地域だ、他の怪物がいてもおかしくはない」


「また『嫌な予感』ですか?」


「オレの感は馬鹿にできないってのは知ってるだろ?」


血痕は一階のキッチンから外に続いてる、家の裏からはコーン畑が見える。生存者はそこに行ったらしい。イアソン隊長の予想通り、大きな何かがコーン畑を切り進んだような不自然な獣道ができてた。

『コーン畑の中で沈黙している生命体を発見』


「大きさは?」


『5mはある』


5mか、確かそれに該当する怪物は…

「狼男ですか」


「あり得るな」


細心の注意を払って畑を進んだ。獣道には血が垂れた跡が複数ある、生存の見込みは薄くなった。

「おい」


イアソン隊長が舌を鳴らした。

「見えるか?」


彼の目線の先には大きな人の形をした黒い影がいた。

「狼男で間違いないですかね?」


「いや、コイツはウェンディゴだ」


「ウェンディゴ!?あいつらは北にいるはずじゃ…」


「最近異常行動が多発してるのは知ってるだろ?」


「ですがここまで来るとは…」


「アトランタ、AMODSの使用を許可する」


無線越しにアトランタに伝えた。

『了解、AMODS起動』


「標準が合い次第撃て」


ウェンディゴはこちらに気付いてないようだ、何かに夢中なのだろう。それが意味することは…

発砲ファイア


銃弾が轟音と共に放たれ見事ウェンディゴに当たった。雄叫びを上げながらウェンディゴは暴れ出した。

「クソッ!コイツは危険だ、離れるぞ!」


畑を全速力で来た道を走った。後ろではデカい足音と雄叫びが近づいてくるのがわかる。

「ああクソ!これじゃやられる!」


「イアソン隊長!伏せて!」


グレネードランチャーアタッチメントのトリガーを引いた。弾はウェンディゴの顔に当たったがまるで止まる気配がしない。標的が俺に変わり、もうダメかと確信した時、ウェンディゴが倒れた。

「ハァ…ハァ… ウェンディゴ、沈黙… 死んだようです」


「よくやった、エアオスプレイに向かうぞ」


ヘリに乗り、足早にこの地を去った。ジェニーは一旦近くの空軍基地で降ろしてから帰路についた。

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