井の中の

あに

第1話 井の中の蛙


 二酸化炭素を吐き出し、プールの水底に沈み上を見る。


 そんなことで日常が潤う気がして、


 キラキラと太陽が眩しくて、


 水の感触に体を任せている。



 そんないじめられっ子の水泳部員。


 それでもやめないのは、これがあるから。


 僕の毎日で一番に気持ちいい綺麗な宝箱。


 息が苦しくなり上に上がると足で蹴られる。

「あぶ!ぶ!あぶ!」

「あははは!こいつやばいって死にかけたカエルみたいじゃね?」


 同級生、先輩、コーチに至るまでそれを見て笑っている。


 あはは、僕だって情けなくて笑えてきちゃうな。


 井の中の蛙大海を知らず、


 されど、


 僕は空の深さを知りたかったから。



「な、なんだ?」

「おい出れねーぞ」

「うお!本当だ!でれねぇ!」


 ねえ神様、次生まれ変わるときは、僕は井の中に入れないでね。



「やった!やりましたよお父様」

「おお!見事成し遂げたのぉ」


 見知らぬ石畳みで丸に何か羅列が書いてある。魔法陣?ってやつかな?


「寒い!」

「なにここ!」

「おお、皆は裸同然じゃな!何か着るものを支給しろ!」

「は!」

 僕達には服が支給される。

「では皆の者、よく召喚に応じてくれた」

「いや応じたも何も勝手にここに来ただけですが?帰れませんかね?」

 コーチが言うと、

「なに?お前は我が国の窮地に召喚されたわけじゃないと申すのか?」

「いや、それはそれで大変そうですがこちらとしても保護者を代表しているので帰さないといけないわけでですね」

「もう良い、こやつを牢に入れておけ」

「ちょ!?え?」

 剣を抜き放った騎士に連れられていくコーチ、残ったのは先輩たちと僕達。

「では皆の者、天啓の義を執り行うので並ぶが良い」

 三年の先輩達から順にやっていく。すると前の方で盛り上がっている。

 そして僕達の番になったとき僕は跳ね飛ばされた。

「どーせお前がいても邪魔になるだけだろ?」

「早くせんか!」

「はーい」

「ただの戦士か、次」

「は、はい」

「さあ触るんじゃ」

 ひときわ輝きが増して眩しくて目を瞑ると『神速』と言うスキルがあることに気付くと僕は『神速』を使ってみた。


 すると誰も動かずにこっちの光を受けて目を瞑っているのを確認してから王城から出ようとする。だけど何もないのにそれはどうかと思いまた元に戻ると停止を念じた。


「ん?何じゃ??は?職業が不明か。何そのうち発現するじゃろう」


「では皆の者には部屋を与えよう、そして」  

 一人金貨10枚が渡される

「ではまずは国を知り、歴史を知って貰おうか」

 と部屋を移る。


「ではここで講義を受けてもらう」

「私が宰相のルイス・ロイドだ。それでは王よ、お戻りください、あとは私が」

「うむ、それではの」

「ではそこに座るといい」

 みんな座ると俺だけ席がない状態にされるが一番後ろに椅子が用意された。

「チッ」


 宰相さんの話は長くて部活中だったこともあって寝る人が多かったが最後まで聞いていたのは僕と三年の一部の先輩達だった。

 割と王政についての話、街の話、なんかも織り交ぜてあって面白かったが、魔王って結局何?って思ってしまった、

 聞いた話だと魔王が持つ領地はもともと我々のものでそれを返してもらうために戦えと言うことみたいだ。


「あの!それって戦争ではないのですか?」

「違う!そんな野蛮なものではない!魔王は魔人どもを率いてこちらに反逆の意を持っておる」

「…それを戦争というのでは?」

「チッ!魔人だぞ?人間とは違う生き物なのだよ」

「はぁ、では魔人との違いは?」

「ツノが生え魔石というものを体内に持っておる」

「それは鬼ですか?」

「オーガとは違う、が似たようなもんだ」

「で、帰る手段は?」

「魔王を倒したら教えよう」

「それじゃ脅迫」

「何を間違っておる?ここは王国だ、王の言うことは絶対なのだ」

「はぁ。和平は?」

「無い」

 室内はシーンとしてしまった。

「その代わり討ち取った暁には金貨100枚をつけて帰還を約束しよう」

「どうする?」

「ってやるしかないんでしょ?」

「私コーチみたいになるのは嫌よ?」

「帰りたい…」

 ざわつく室内で部長の金重先輩から、

「とりあえず言うことを聞こう。じゃないと帰れないからな」

 と言うとみんなが頷き返す。


 で僕達は一人一部屋与えられ、僕はそこに閉じこもることにした。鍵をかける。

「おい!テメェ開けろ!」

「死にてえのか?」

「開けろってんだよ!」


 僕はこの程度なら大丈夫だ。

 今まで散々苦しくて悲しい事ばかりだったから。

 ステータス、

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 水野 大翔ミズノヒロト 16歳

 レベル1 職業 未定

 スキル

 ユニーク 神速 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 神様が何にでもなれるように用意してくれたんだな?


 僕は今から旅人になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 水野 大翔ミズノヒロト 16歳

 レベル1 職業 旅人

 スキル マップ 収納 

 ユニーク 神速 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マップ …いったところを自動的にマップ化する。

 収納…異次元に収納できるようになる。時間は停止している。


 そう、それで僕は旅に出る。


 大空の深さを知る旅だ。


 井の中の蛙はそれを本当に知っていたのかな?

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