第100話 新人魔女と突然の婚約者(4)

 リッカの言葉に、エルナの表情がピシリと固まる。リゼは少しだけ眉を顰めた。


「君はなぜ……そのような……」


 リゼは言葉の続きを飲み込む。そして、はぁと大きなため息をついた。


「エルナさんは私にとって大事な存在だ」

「でしたら! どうして……」


 リッカの言葉にリゼは不機嫌そうに言葉を続ける。


「私の想いは、今は関係のないことだ。それよりも今は、君がどうしたいか。それだけだ」


 リゼは、まるで用は済んだとばかりに食事を再開した。リッカはただ呆然としているしかない。そんなリッカに、エルナがおずおずと声をかける。


「あの、リッカ様。少しお話をよろしいですか?」

「……エルナさん?」


 リッカは曖昧に微笑むと、エルナに席を勧めた。


「まだお若いリッカ様には、突然すぎるお話で驚かれていることと思います。ですが、ネージュ様はリッカ様のことを、とても心配されているのです」


 エルナは真剣な眼差しをリッカに向ける。


「え? それはどういう……」


 リッカは、不安そうに眉を顰めた。エルナは真っ直ぐにリッカを見つめる。


「ネージュ様はリッカ様のお力を認めておられます。リッカ様のこれからの可能性と才能を大切にしたいと思っておられるのです。あなた様の成長が妨げられる事のないようにと思っておられるのですよ」

「エルナさん、余計なことは……」


 リゼが慌てたように口を挟んだが、エルナはニコリと笑みを向けて、リゼを黙らせる。


「私は、ただ私の知っていることをお伝えしているだけです」


 優しく微笑んでいるはずのエルナの笑みに、リッカは困ったように頰をかいた。


「あの……エルナさん。わたしよく分からなくて……何が何だか……」


 そんなリッカに、エルナは優しく微笑みかけた。


「ネージュ様とリッカ様のお立場では、これから先今まで通りにはいかない事も出てくるかと思います。リッカ様は、この工房でのお仕事を続けたいと思っておられるのではないのですか?」

「それは……もちろんそうです」


 エルナの問いにリッカは素直に頷く。すると、エルナはリッカの右手をそっと手に取った。


「ですが、先ほどネージュ様のお話にありましたように、これから先、お二人を取り巻く状況はお二人が望まなくとも変わっていくことでしょう。派閥の関係から、リッカ様はネージュ様の元へ通えなくなるかもしれません」

「えっ?」


 戸惑うリッカに、エルナは優しく微笑みかける。


「ですが、お二人が婚姻されることでその問題は解消されるのです」

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