第67話 新人魔女に届いた蜂蜜色の丸薬(3)

 ジャックスがどのように話したのかはわからないが、文面からはリゼが心配していることが伺えた。


 続いて飴玉のようなものを手に取る。これは一体なんだろうか。リッカはまじまじとそれを観察する。その表面には複雑な魔法陣が描かれている。これはもしかすると丸薬なのかもしれない。


 リッカは手紙の続きを読む。


“市販の薬は、きっときみには合わないだろう。私の作った特製の回復薬を送る。効き目は保証しよう。口に含むだけで良い”


 リッカはその指示通りに、蜂蜜色の丸薬を口に含んでみた。甘い。そして、とても美味しい。リッカは夢中でそれを舐めた。味わったことのないような甘さだった。口の中でコロコロと転がすと、まるで全身が浄化されていくかのような感覚に陥る。


 しばらくすると、体がぽかぽかと温かくなってきた。まるで全身の血流が良くなったかのような心地良さだ。体も一気に楽になった気がする。今ならなんでもできそうな気分だ。


 リッカは手紙を読み進める。まだ何か書かれているようだ。


“ただし、注意点がある。丸薬の効果は一時的だ。あくまでも応急処置である。薬の効果があるうちに、自身で魔力回復薬を精製しておけ。明日には仕事に来るように”


 読み終わったリッカは、もう一度丸薬を口の中で転がしてみた。やはり甘くておいしい。


(この薬のおかげで随分と体が軽くなったけど、これは一体どんなお薬なんだろう)


 リッカの知る限り、こんなに速攻性があり、しかも、苦くない薬は初めてだった。


 手紙には魔力回復薬を作れと書かれていたのだから、今回の体の異常は、昨日の魔力枯渇からくるものなのだろうが、それにしてもこの即効性と効果の高さは異様だった。


(リゼさんの作ったお薬はやっぱりすごいな)


 そんな安易な感想を抱いていたリッカだったが、突然ある事に思い至りハッとした。これは、あのリゼが精製した薬なのだ。相当価値のある代物であるはず。


(一体、いくらするお薬だったのかしら……。ネージュ・マグノリア製のお薬なんて、私にお支払いできる物なのかしら)


 体が重く、頭が働かない状態だったとはいえ、安易に服用してしまったことを後悔する。しかし、一度飲んだものを返すと言うわけにもいかない。そもそも、貴重な品物を自分のために送ってくれたのだ。


 リッカは、リゼに感謝の念を抱きつつも、おそらく途方もない金額になるであろう請求書に頭を抱えた。自分の小遣いだけでは足りないことは分かりきっている。

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