第61話 新人魔女と怪しい店(5)

 リッカはその行動に困惑する。魔力枯渇状態が影響しているせいか、思うように体が動いてくれない。そんなリッカの足下で、フェンが威嚇するように低い声で唸ると、ようやく男はリッカから離れた。


 リッカはホッと息をつくと、フェンを抱き上げる。フェンは、自分の主を守ろうと懸命に牙を剥き出しにして、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。リッカはフェンを宥める様に優しく頭を撫でる。


 フェンを抱いたことで幾分か冷静になれたリッカは警戒しながらも、男の様子を窺う。見た目は怪しく見えるが、特に悪意を持っているようには見えない。しかし、だからといって油断はできない。


 一体どうしたものかと考えていると、不意に男が口を開いた。


「わしの店に来るといい」


 唐突に発せられた言葉に、リッカは首を傾げる。


「その様子では魔力回復薬が必要なのだろう?」


 男の言葉に、リッカはハッとする。確かに、市販の魔力回復薬を購入するつもりではあったが、まさかこんなところで店を出している商人に出会うなんて思ってもいなかった。


 しかし、素直に従うのは躊躇われる。普段であれば、このような胡散臭い人物には関わらないようにしている。だが、今は少しでも早く魔力回復薬が欲しいところだ。


 リッカが迷っていると、男はさらに続ける。この機会を逃すまいとしているのか、男は饒舌だった。


 いかに自分が優れた魔法使いであり、多くの魔法薬を作っているかを語ってくる。そして、魔力回復薬だけでなく、怪我や病気を治す薬も作ることができると自慢げに話す。正直、あまり興味はなかった。


 困った様に眉根を寄せて、話を半分聞き流していたリッカだったが、最後の一言だけはしっかりと耳に入った。


「……まぁ、そんな感じでほとんどはわしが作った薬を売っとるんだが、実は、ネージュ様の作られた薬も扱っとる」


 得意気にそう語る男。リッカは思わず目を見開いた。


(リゼさんの薬を?)


 リッカは驚いて男の顔をまじまじと見る。先程まではただ怪しいだけの男だと思っていたが、リッカの心に迷いが生じた。


「ネージュ様って、まさか、ネージュ・マグノリア様のことですか?」

「あ……ああ」


 リッカの問いかけに驚いたのか、男は一瞬戸惑うような反応を見せた。しかし、すぐに肯定を示す返事をする。


 リッカは目を輝かせた。リゼの薬が市場に出回ることなどほとんどない。工房で働く様になってから何度か目にしたが、それまでは、リッカは一度も見たことがなかった。

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