　厨房にはエプロン姿のエルナがいた。長い栗毛の髪を後ろで一つに束ねて、うなじ辺りで緩いお団子を作っている。料理の最中だったらしい彼女は、大きな鍋をかき混ぜていた。

　リゼが近づいてきたことに気が付くと、エルナはパッと笑顔を浮かベて振り向いた。

「お帰りなさいませ。ネージュ様」

　声を掛けられたリゼは無言のまま顔を赤く染める。

「エルナさん、どうしたんですか？」

　リゼを追って厨房へやって来たリッカが訊ねると、エルナは驚いたような顔になった。それからすぐに微笑む。

「まぁ、リッカ様もご一緒だったんですね。私は、マリアンヌ様から、しばらくの間ネージュ様のお世話をするように申し付けられまして……」

　それで朝食の準備をしていたのだという。エルナの説明を聞いているうちに、リッカのお腹が鳴った。恥ずかしくて俯くと、ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐる。

　思わず視線を上げると、目の前のテーブルの上に美味しそうなスープの入った皿が置かれた。続いて、パンや果物などが盛られた籠が置かれる。

　リゼの腹の虫もぐぅと鳴いて空腹を主張した。二人の反応を見たエルナが可笑そうに笑みを深めた。

「さぁ、お二人とも。冷めない内に召し上がってください！」

　エルナの言葉に、リゼはまるで操られるようにスイっと席に着くと、スプーンを手に取りゆっくりと口元へ運ぶ。その様子を見ていたリッカも慌てて席に着いた。

　スープを口に含むと、優しい味が舌の上で溶ける。思わずもう一口と、スプーンを持つ手が動く。

　とても、温かい。

　夜中じゅう外にいて身体が冷え切っていたせいもあるだろう。けれど、それだけじゃない。心の奥底までじんわりと熱が伝わってくるようだった。

　隣を見ると、リゼが無表情ながらも幸せそうな雰囲気を醸し出している。そんなリゼの様子を見て、エルナが柔らかく微笑む。そして、リッカの方を向いて言った。

「リッカ様。お口に合いますか？　もしよろしければ、おかわりを用意しましょうか？」

　リッカはその言葉にハッと我に返ると、照れ笑いを浮かべながら、おずおすと器を差し出した。リッカはすっかりスープに夢中になっていた。

　エルナが作ってくれた食事をすっかり堪能した二人は、満足げな表情で食後のお茶を飲み干す。少し落ち着いたところで、リッカが改めてエルナに礼を言った。

「ごちそうさまでした。エルナさんの料理、すごく美味しかったです」

　素直な感想を述べると、エルナはとても嬉しそうに破顔した。

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