第49話 新人魔女と本当の師匠(1)
夜明けまで起きていたことのない新人魔女のリッカは知らなかった。夜が明け始める一瞬、世界が青く染まることを。
大賢者であり、リッカの雇い主でもあるリゼの銀髪が青い世界の中でぼんやりと光って見える。その光景はまるで一枚の絵のように美しくて、リッカは思わず見惚れてしまった。
(綺麗だな)
そう思った瞬間、リゼが振り返った。しっかりと目が合う。雇い主とはいえ、普段はあまり接点のない相手。こうしてしっかりと視線が合ったのは初めてのことだったかもしれない。
リッカは慌てて目を逸らした。そして、すぐに後悔する。
(まずい! これじゃあ何かやましいことがあるみたいじゃない!?)
しかし時すでに遅し。リゼは訝し気に片眉を上げている。リッカは冷や汗を流しながら弁明の言葉を探そうとしたのだが……。
――ぐぅ~~~っ。
タイミングよくお腹が鳴る音が聞こえた。発生源はリッカではない。では誰のものか? それは考えるまでもなく明白だった。
リゼは誤魔化すようにつんと澄ました表情を浮かべる。しかし、その頬には微かに朱が差していた。どうやら空腹らしい。それもかなり切実なようだ。
リッカは自分のお腹を押さえた。大量に魔力を消費した後なので、リッカもお腹が減っていた。
「急いで帰りましょうか」
「……あぁ」
リッカの言葉にリゼは小さくうなずく。リゼの転移魔法で二人はマグノリア魔術工房へ戻ってきた。
時刻は夜が明け始めたばかりの早朝。森の中にひっそりと建つ工房に人の気配などあるはずがない。二人はそう思っていたのだが、厨房から朝食を作る音が聞こえてきた。
「グリム」
リゼが鋭く声を発すると、音もなくリゼの使い魔である猫のグリムが姿を現した。どことなく眠そうだ。昨晩は深夜にリッカを迎えに来たので寝不足なのかもしれない。
リッカは労わるようにそっとグリムを抱き上げた。すると、グリムはすぐに気持ちよさそうにフワァとあくびをした。そのままリッカの腕の中に納まり、ゴロゴロと喉を鳴らす。
まるで本物の猫のような愛くるしい仕草だ。だが、この猫は正真正銘の使い魔だ。しかも、ただの使い魔ではない。人語を理解するほど知能が高い。
「グリム、厨房にいるのは誰だ」
リゼが尋ねると、グリムは尻尾をゆらりと揺らして答えた。
「マリアンヌのところの、エルナ・オルソイや」
リゼは一瞬だけ目を見開くと、やがて慌てたように厨房へ向かって駆け出した。それを見て、リッカも慌てて後を追いかける。
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