第37話 新人魔女と憧れのあの人(5)

「ジャックスさんっ!」


 名前を呼ばれ、男は驚いたように足を止めた。歩いてきたのは、以前リッカが就労先を探していた時に応対してくれた、就労斡旋所『プレースメントセンター』の所長、ジャックス・ランバートだった。


「おう、嬢ちゃん。久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「なんだ、今日は買い物かい?」

「……いえ。実は素材を売りにきたんですが、どこで買取をしてもらえるか分からなくて……」

「ほう。そりゃあ道具屋に行くといいぜ」


 ジャックスはそう言ってニッと笑い、リッカの背後にある建物を指差す。


「あそこの二階が素材の買い取りをやってる。ちょうど俺も今から行くところだから一緒に行こうや」

「いいんですか!?」

「ああ。それに、嬢ちゃんの足下のそれについても聞きてぇしな」

「え……?」


 リッカは足下を見る。そこには、フェンが行儀良く座っている。


「こいつぁ珍しい魔獣じゃねぇか。何処で捕まえたんだ?」

「えっと、この子はフェンです。捕まえたわけではなくて、先日、私が召喚した使い魔です」

「ほー! 召喚した使い魔か!! そいつはすげぇな。使い魔を連れてる奴なんて初めて会ったぜ。やっぱり嬢ちゃんは只者じゃないな!」


 そう言って豪快に笑うジャックスにリッカは首を傾げた。


「えっ? 使い魔なら、リゼさんも連れてるじゃないですか?」


 リッカの言葉に、ジャックスは眉を寄せる。どうやらジャックスは、以前のリッカと同じく、リゼの使い魔であるグリムのことを猫のぬいぐるみだと思っていたようだ。


 そんな話をしながら、二人は素材の買取を行っているという店に向かった。そこは、道具屋というよりは雑貨店といった雰囲気の小さな店だった。店の中に入ると、カウンターの奥に座っていた女店主がこちらを見た。そして、すぐに破顔する。店主は、ニコニコと微笑みながら二人のもとへやってきた。


「あら、おかえり。随分と可愛らしいお客さまと一緒なのね」


 店主の言葉はリッカにではなく、ジャックスへ向けられたもののようだった。


「ただいま、ミーナ。この嬢ちゃんの品を買い取ってくれ。嬢ちゃんはこう見えてもなかなかのやり手だからな。持ち込みの素材は良いはずだ」

「まあ、そうなの? それはとても楽しみね」


 ミーナと呼ばれた店主は楽しそうにそう言うと、リッカの手を引き、店の奥にあるテーブルへと案内した。椅子に腰掛けるよう促され、リッカは大人しく従う。そして、フェンはリッカの膝の上にちょこんと乗った。

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