第34話 新人魔女と憧れのあの人(2)
しばらくするとフェンが戻ってきた。
「リッカ様。戻りました」
小鳥の姿だったフェンはリッカのそばに降り立つと、元の子狼の姿に戻った。ちょこんと座り報告を始めようとするフェンをリッカは優しく撫でる。
「お疲れ様。ちゃんと伝えられた?」
笑顔を向けるリッカに、フェンは嬉しそうに尻尾を振る。
「はい! ですが、今日もリゼラルブ様はご不在のようです」
フェンの言葉を聞いて、リッカは残念そうに眉を下げた。
ここ数日、リッカは工房主のリゼに会えていなかった。工房へ行ってもリゼの使い魔である白猫のグリムが留守番をしているだけ。リゼはどこに行ったのかとグリムに聞いても、仕事だと言うばかりで詳しいことは教えてくれなかった。
工房主には工房主としての仕事がある。毎日必ず工房にいるとは限らないことくらいわかっているつもりだ。
しかし、工房主のリゼがいなければ工房は開店休業状態になってしまう。ただでさえ店を訪れる客が少ないのに、リゼがいないため仕事も受けられず、リッカは最近暇を持て余し気味だった。
のんびりと過ごしながら魔術の実習をしたいと希望して入った職場だが、あまりの仕事のなさに、最近はこれでいいのかと不安になってきていた。
(でも、今は他にやることもないし……)
そう思いながら、リッカは再びフェンを撫でる。無言になったリッカを不思議に思ったフェンは首を傾げつつリッカの様子を伺う。そんなフェンに気がつくと、リッカは慌てて表情を取り繕った。誤魔化すように咳払いをしてから、リッカは口を開く。
「リゼさんが不在なら仕方がないわね。じゃあ、伝言はグリムさんに?」
そう尋ねると、フェンは首を縦に振った。
「はい。グリム様にお伝えしたところ、リゼラルブ様と連絡を取ってくださいました」
リゼの使い魔であるグリムは、リゼとの連絡役でもある。
「それで、本日は工房へは来なくて良い。素材回収を優先させ、売るものがあれば街へ売りに行くようにと仰っていました」
フェンの報告を聞いたリッカは思わず目を見開いた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。
しかし、考えてみれば当然かもしれない。リッカは工房で働くようになってから、まだ一度も素材の売却に行っていない。本来ならば、リッカのような新しく工房へ入ったばかりの者が、仕事として最初に行くべきところだろう。
リッカはそのことに思い至らなかった自分に呆れてしまう。仕事は考えればいくらでもあった。
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