第33話 新人魔女と憧れのあの人(1)

 いつものように暗いうちに起き出して森へと出かけるリッカの足下には、これまでとは違い小さな影がひとつ増えていた。リッカの使い魔となった子狼のフェンだ。


 フェンは興味深げにあっちへトコトコこっちへトコトコと匂いを嗅ぎながらリッカの周りをちょろちょろしている。


「ふふっ」


 その様子が可愛くて思わず笑みを浮かべてしまう。


 そうしてしばらく歩いていると、不意にフェンが立ち止まる。


「どうしたの?」

「リッカ様。何か来ます!」


 首を傾げるリッカに向けて、フェンが鋭く告げる。すぐにガサガサという音とともに草むらから一頭の魔熊が現れた。魔熊は低く唸り声を漏らしながらリッカ達を睨むように見つめている。


「グルル……」


 フェンが威嚇するように牙を剥く。


「大丈夫よ、フェン」


 そんなフェンに一声かけると、リッカはどこか楽しそうな様子でゆっくりと一歩踏み出した。


 近づくリッカに魔熊が大きな手で地面を叩き威嚇してくる。しかし、リッカは動じることなく右手を掲げた。


「〈草檻ソーラーン〉」


 途端、地面に生えた植物たちが意志を持っているかのように動き出し、魔熊の動きを阻害する。


 突然のことに驚きの声を上げる間もなく拘束された魔熊を見て、リッカは小さく微笑んだ。


「さようなら」


 そして掲げた手を振り下ろすと同時に植物たちは一斉に鋭い棘を伸ばして魔熊を突き刺す。断末魔のような叫び声を上げた魔熊は、大きく膨れ上がると爆発するように四散した。


「凄いです! リッカ様!」


 その様子を見ていたフェンが興奮気味に飛び跳ねる。


「ありがとう。せっかくだから素材として、この子のかけらを拾っていきましょう」


 魔物にも様々な種類があり、中には有用な素材になるものもいる。


 例えば、今倒した魔熊もそうだ。生捕りにしてから丁寧に解体すれば、毛皮や爪などが売り物になる。それらは売ればそれなりの金額になるのだ。


 だが、今回は少々乱暴なやり方で倒してしまったため、売れる部分は少ないだろう。それでも、ないよりかはある方がいい。


「わたしはしばらく回収作業をするから、フェンには別のお仕事をお願いしてもいいかな?」

「はい! なんなりとお申し付けください!」


 元気よく返事をするフェンにリッカは満足気に笑う。


「じゃあ、リゼさんに工房に着くのが遅くなりますって伝えてきてくれる?」

「わかりました! 行って参ります!」


 フェンはパッと小鳥の姿になると空へと飛び立つ。その姿を見送り、リッカは素材の回収作業を始めた。

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